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第八章
213.悔し涙
しおりを挟む栞と拓真にキツく当たった後は一度も振り向かずに、私を引き連れて校舎の方へと歩いた。
ただただ、手をギュッと強く握りしめながら……。
「……ねぇ、愛莉ってば!」
「…………」
「どうして拓真達にもう二度と中庭に来ないなんて宣言したの?」
足にブレーキをかけて保健室の横でそう尋ねると、愛莉はピタリと足を止めて怖い顔のまま振り向いた。
「本っっ当……信じられない。あの子が転校して来てから一週間が経過して、今日になってようやく拓真を解放したと思ったのに、探してまで会いに来るなんて異常。拓真から離れる気が全くないじゃん。ほんとに目障りで嫌な奴!」
「栞ちゃんは、愛莉が思ってるような悪い子じゃないよ」
二人の過去を知る和葉がすかさず栞の擁護に回ると、愛莉はそのひと言が気に障って眉がピクリと反応した。
「……本当にそうかな。オバさん、あの子に騙されてるんじゃない? きっとあの子は笑いながら人を刺すタイプだよ」
「愛莉は誤解してる。この前、栞ちゃんと二人きりで話してみたけど、そんなにひどい子じゃないよ」
「オバさんがあの子の味方をしても、私は絶対信じないからね」
怒りが覚め止まぬ愛莉は一点張りの姿勢を崩さない。
プイッと不機嫌なまま和葉から目線を逸らした。
愛莉は栞をよく知らない。
会話の内容で幼馴染という事はわかっていると思うけど、二人が抱えている心の傷までは知る機会がないだろう。
ただの幼馴染であれば、ここまで問題は大ごとにはならなかった。
しかし、過去を知らないだけに行き過ぎた言動を起こしてしまった。
だから、愛莉を想って口を割る事にした。
もちろん、全てを話す訳じゃない。
拓真の家庭の事情や、非行に走った理由までは知る必要がないと思ったから。
愛莉は話を聞いて状況が飲み込めると、先ほどまで怒りに満ちていた表情を落とした。
「もしその話が本当なら、私達が勝てる訳ないじゃん」
「ふくらはぎに傷跡が刻まれてる限りね。昔は拓真と両思いだったみたいだし……」
「そんな……。じゃあ、私達は拓真を諦めなきゃいけないのかもしれないね。……なんかさ、悔しいね。何も出来ないまま諦めなきゃいけないなんてさ」
俯いたまま小さく呟いた愛莉の目元には、悔し涙がキラリと光る。
私達は負けた訳じゃない。
元々この勝負は、勝負として存在しなかっただけ。
拓真に出会ったのが少し遅かっただけ……。
逆転の兆しが見出せない私達は、瞳に涙を浮かばせながらお互いの肩を撫で合う。
栞が現れるまではただのライバルだったけど、いつしかお互いを思いやる絆が生まれていた。
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