LOVE HUNTER

伊咲 汐恩

文字の大きさ
223 / 340
第八章

223.悔し涙

しおりを挟む


「それ……、本気で言ってるの?」

「本気だ」



  固く決心をしたような目つきは強くて鋭い。
  一寸たりとも目線を外さない様子からして、悩みに悩んで出した結果だと痛感させられた。



  頭がガンガンする。
  もういつ倒れてもおかしくないほど精神的なダメージを負っている。

  そして、過去のトラウマから断ち切れない拓真は、栞が傍にいる限り傷跡に縛り付けられた人生を送っていくつもりだ。



「じゃあ、事故の責任を取る為に一生栞ちゃんの傍にいるつもり?」

「それが辿り着いた答えだから」


「バカじゃないの?  栞ちゃんと付き合う理由は、昔から栞ちゃんが好きだったからじゃないの?」



  拓真が栞が好きだったという過去の話はお婆さんからしか聞いてなかったけど、勢いあまって口にしてしまった。

  すると、拓真の顔色が急変。
  まずいと思って慌てて口元を押さえた。



「俺が栞を好きかどうかはお前に関係ないし」



  そう言って、拓真はプイッと目線を逸らした。

  しかし、散々気持ちを伝え続けてきた和葉にとって、気持ちをはぐらかすような言い逃れが余計に腹立たしい。



「ふざけないで!  私が拓真の気持ちを知りたがっていたのを知ってるクセに『お前に関係ない』なんて……。しかも、付き合う理由の一つが事故の責任?  そんなの辛すぎる……」



  ーーこれが今の全てだった。
  どんなに必死に食い止めようとしても、転落していく関係に歯止めがきかない。
  だから、拓真に不満をぶちまける事しか出来なかった。



  和葉は気持ちを吐き出した後、肩を震わせながらも握り拳に力を加えて平常心を保とうとしていた。

  ところが……。



「ごめん……」



  拓真は呟くようにそう言った後、頭を下げた。


  きっと、この『ごめん』の中には、沢山の意味が含まれているだろう。

  俺の気持ちを聞かないでくれ、ごめん。
  お前の気持ちに応えてあげれなくて、ごめん。
  もうこれ以上の話を続けたくないんだ、ごめん。


  だから、拓真からの『ごめん』だなんて、全部聞きたくない。



  和葉は頭を下げられても納得がいかないし、興奮している気持ちも治らない。



  栞と付き合う為に簡単に頭を下げちゃうくらい、私はどうでもいい関係だったの?
  拓真と出会ってから振り向いてもらおうと思って必死に努力してきたのに、後から現れた栞に簡単に奪われるなんて。

  悔しくてやりきれない……。



  もし、バイク事故さえ起こさなければ、少しは気持ちの進行方向が違ったのかな。
  栞が居なければ私達は恋人になれたのかな。



  ここまで拓真に執着して栞に奪われたくないって思うのは、幼い頃から愛を知らずに育った私が、想像以上に拓真を深く愛していると気付いてしまったから……。



「『ごめん』…って何よ。許せるわけないじゃん。私だってずっと拓真が好きだったんだよ」

「お前の気持ちはわかってる」


「嘘……、全然わかってない。たった一度きりのデートを夢見て毎日頑張ってきた。畑仕事はきつい上に単独作業で寂しかったけど、小さな喜びを分かち合ったり、採れたての野菜を一緒に食べて『おいしい』って感動したり。拓真がいつも傍にいてくれたから心強かった。

いつの間にかご褒美デートが農作業と入れ替わってしまっても仕方ないと思うほど、振り向いてもらいたい一心で頑張って来たんだよ。それなのに、どうして後から現れた栞ちゃんを選ぶの?  和葉だって振り向いてもらいたかったのに……」



  握り拳を胸の高さまで上げた和葉は、両手で力強く拓真の胸をドンドンと叩いた。



  でも……。
  何度も何度も胸を叩いても、気持ちは一向に楽にならない。
  むしろ苦しくなっていく一方。



  和葉は胸を叩く振動で、瞳に溜まっていた涙が床に二粒こぼれ落ちた。
  一方、元気娘の和葉がポロポロと震えながら涙を流すと、拓真は言葉を失うくらい衝撃を受けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...