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第八章
223.悔し涙
しおりを挟む「それ……、本気で言ってるの?」
「本気だ」
固く決心をしたような目つきは強くて鋭い。
一寸たりとも目線を外さない様子からして、悩みに悩んで出した結果だと痛感させられた。
頭がガンガンする。
もういつ倒れてもおかしくないほど精神的なダメージを負っている。
そして、過去のトラウマから断ち切れない拓真は、栞が傍にいる限り傷跡に縛り付けられた人生を送っていくつもりだ。
「じゃあ、事故の責任を取る為に一生栞ちゃんの傍にいるつもり?」
「それが辿り着いた答えだから」
「バカじゃないの? 栞ちゃんと付き合う理由は、昔から栞ちゃんが好きだったからじゃないの?」
拓真が栞が好きだったという過去の話はお婆さんからしか聞いてなかったけど、勢いあまって口にしてしまった。
すると、拓真の顔色が急変。
まずいと思って慌てて口元を押さえた。
「俺が栞を好きかどうかはお前に関係ないし」
そう言って、拓真はプイッと目線を逸らした。
しかし、散々気持ちを伝え続けてきた和葉にとって、気持ちをはぐらかすような言い逃れが余計に腹立たしい。
「ふざけないで! 私が拓真の気持ちを知りたがっていたのを知ってるクセに『お前に関係ない』なんて……。しかも、付き合う理由の一つが事故の責任? そんなの辛すぎる……」
ーーこれが今の全てだった。
どんなに必死に食い止めようとしても、転落していく関係に歯止めがきかない。
だから、拓真に不満をぶちまける事しか出来なかった。
和葉は気持ちを吐き出した後、肩を震わせながらも握り拳に力を加えて平常心を保とうとしていた。
ところが……。
「ごめん……」
拓真は呟くようにそう言った後、頭を下げた。
きっと、この『ごめん』の中には、沢山の意味が含まれているだろう。
俺の気持ちを聞かないでくれ、ごめん。
お前の気持ちに応えてあげれなくて、ごめん。
もうこれ以上の話を続けたくないんだ、ごめん。
だから、拓真からの『ごめん』だなんて、全部聞きたくない。
和葉は頭を下げられても納得がいかないし、興奮している気持ちも治らない。
栞と付き合う為に簡単に頭を下げちゃうくらい、私はどうでもいい関係だったの?
拓真と出会ってから振り向いてもらおうと思って必死に努力してきたのに、後から現れた栞に簡単に奪われるなんて。
悔しくてやりきれない……。
もし、バイク事故さえ起こさなければ、少しは気持ちの進行方向が違ったのかな。
栞が居なければ私達は恋人になれたのかな。
ここまで拓真に執着して栞に奪われたくないって思うのは、幼い頃から愛を知らずに育った私が、想像以上に拓真を深く愛していると気付いてしまったから……。
「『ごめん』…って何よ。許せるわけないじゃん。私だってずっと拓真が好きだったんだよ」
「お前の気持ちはわかってる」
「嘘……、全然わかってない。たった一度きりのデートを夢見て毎日頑張ってきた。畑仕事はきつい上に単独作業で寂しかったけど、小さな喜びを分かち合ったり、採れたての野菜を一緒に食べて『おいしい』って感動したり。拓真がいつも傍にいてくれたから心強かった。
いつの間にかご褒美デートが農作業と入れ替わってしまっても仕方ないと思うほど、振り向いてもらいたい一心で頑張って来たんだよ。それなのに、どうして後から現れた栞ちゃんを選ぶの? 和葉だって振り向いてもらいたかったのに……」
握り拳を胸の高さまで上げた和葉は、両手で力強く拓真の胸をドンドンと叩いた。
でも……。
何度も何度も胸を叩いても、気持ちは一向に楽にならない。
寧ろ苦しくなっていく一方。
和葉は胸を叩く振動で、瞳に溜まっていた涙が床に二粒こぼれ落ちた。
一方、元気娘の和葉がポロポロと震えながら涙を流すと、拓真は言葉を失うくらい衝撃を受けた。
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