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第八章
225.本物の恋
しおりを挟むしきりに頬へと流れ行く涙は、指先で一度拭っただけじゃ全て拭いきれない。
弱々しく身体を震わせている和葉の熱い涙は、溢れんばかりに拓真の指の腹に染み込んでいく。
しかし、ダメ元でも引き止める覚悟が出来ている和葉の目線は、拓真から外す事はない。
「嘘……。恋愛する時間は沢山あった。拓真に向き合う勇気がなかっただけ」
「向き合う勇気がない……か。お前の言う通りかもしれない」
「いい時も悪い時も、ずっと拓真だけを見続けていたんだよ。わき目も振らずに、一途にあんただけを、あんただけをっ……」
和葉は意識が遠退きそうなほど興奮状態に陥りヒクヒクと嗚咽を繰り返していたら、とうとう涙で喉が詰まった。
言いたい事は沢山あるのに、今からどんな言葉を伝えても、もう拓真の心には響かないと半ば諦めにかかっている。
私……。
もう、ダメなのかな。
これ以上想いをぶつけ続けても、拓真と想いが繋がらないままなのかな。
『好き』っていう、たった二文字の言葉だけじゃ、拓真の胸の奥まで響いていかない。
今日まで何度も何度も『好き』と伝え続けてきたけど、いつも簡単に跳ね除けられてしまう。
でも、いま心を引き止める事を諦めたら、拓真の心が完全に栞に向かって行っちゃうよ。
この先、二度と私との恋の可能性はなくなってしまう。
そんなの、嫌。
ずっとずっと傍にいて欲しい。
私一人だけを見ていて欲しいよ。
しかし、拓真は駄々をこね続ける和葉に対して、まるで説得を試みるような眼差しで和葉の心を引き剥がし始めた。
「もう、俺を忘れて欲しい」
無念にも和葉の想いは届かず……。
死の宣告に近いほどの苦言が言い渡された。
「嫌っ……」
和葉は首を横に振ると、涙が飛び散ると共に悲鳴混じりの声が漏れた。
きっと今日ほど辛い日は訪れないだろう。
だから、17年間の人生の中で初めて我を捨ててしがみついた。
寝ても起きても、狂ったように拓真が好きで仕方ない私に、『忘れてくれ』だなんて。
そんな言葉、簡単に口にしないでよ。
拓真の言う通り、素直に諦める事が出来たら一体どんなに楽なのか。
私、生まれて初めて本物の恋に辿り着いたんだよ。
今日まで大事に温めて育ててきた恋心は、簡単に切り捨てられないんだよ。
「お前の気持ちは嬉しかったけど、気持ちに応えてあげれない。だから、お前がキッパリ諦めてくれないと、俺はこの先も傷付けていくだけだから」
「それでもいい。私を傷付けても全然構わない。恋を諦めて後悔するよりも、この先もずっとずっと好きでいたい」
和葉は殆ど望みのない可能性に賭けて、説得を繰り返しながら拓真と目線を合わせていたが、一度口を塞いでしまった拓真はそれ以上何も語らなかった。
拓真の香りが手のひらから漂ってきても、二人の心に距離があるから温もりが伝わってこない。
情けないと思うほど必死にすがりついても、もう完全にダメだと思い始めている。
認めたくないけど、拓真の香り包まれるのは、きっと今日で最後だろう。
悔しくて、苦しくて仕方ない。
でも、これが本物の恋というものなのかな……。
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