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第九章
244.3メートル
しおりを挟むまるで今の気持ちを空に映し出したかのように、どんよりとした灰色の雲が広がる月曜日の朝。
「おはよっ、和葉! 金曜日は無事に帰れた? あれから終電には間に合ったの?」
登校中に駅でバッタリ会った凛は、金曜日の帰り際に泥酔状態だった和葉があの後無事に帰宅出来たかどうかを心配していた。
しかし、和葉は電車に乗ったところまでは覚えているが、車中で眠ってからの記憶がスコンと抜けている。
「えっ! あ、うん……」
あれから記憶を失った挙句、電車を乗り間違えて、失恋した相手の拓真の家に行って、近所を巻き込むほどの騒動を起こした上に一晩拓真家に世話になったなんて口が裂けても言えない。
今日も本来の自分ではない仮面を被った。
本当はもう窮屈で仕方ないのに、過去のトラウマが立ちはだかっている。
卒業までこの状態を続けていくかと思うと嫌になるけど、一年前と同じような経験は繰り返したくない。
信じていた友達に裏切られた時は、連日夜も眠れぬほど辛かったから。
「和葉はいつも自分の事を口にしないから、どんな悩みを抱えているか分かんないけど……。私達は友達なんだからさ、何かあったら気軽に相談してね」
「……ん、ありがと」
凛は優しい。
思った事をストレートに吐き出すところがあるけど、言葉の中には思いやりが組み込まれている。
だから、好きだし離れて欲しくない。
友達がここまで心配してくれているのに、私は過去に縛り付けられたまま。
殻を脱ぎ捨てられる事が出来たら楽になるのはわかっているのに……。
途中から合流した凛と何気ない会話をしながら学校に向かって歩いていると……。
校門に差し掛かったところで拓真と鉢合わせた。
目と目が合った瞬間ドキッとした。
でも、その隣には栞の姿が。
今日からなるべく会わないように無駄な移動を避けようと思っていた矢先の出来事だった。
互いの距離はおよそ3メートル。
拓真と出会った当初に言われた、『俺とお前の距離は3メートル以上だ』と、突き放された事を思い出した。
奇しくも今はまさにその距離間に。
栞は拓真の彼女になる前までは、拓真よりも先に話しかけてきた。
だけど、今日は自分から声をかけようとしない。
拓真自身も、何か物言いたげな目だけを向けている。
きっと、土曜日に最悪な別れ方をしたから……。
でも、私にはどうする事も出来ない。
この先拓真との関係に期待が持てないから、シャットアウトするかのように目線を逸らした。
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