LOVE HUNTER

伊咲 汐恩

文字の大きさ
252 / 340
第九章

252.優しい敦士

しおりを挟む



  和葉は敦士に本音を伝えたあの日から、重石のようにのしかかっていた肩の荷が少しずつ下りていった。



  一年前のトラウマを抱えたあの日以来、人に悩みを吐き出したら少し楽になった。
  やっぱり、私は誰かに寄りかからないとダメかもしれない。

  もし、失恋の山を一人で乗り越えなければならなかったら、心の準備も装備も不十分だから無理だったと思う。


  拓真との恋は辛い日も沢山あったけど、幸せな日も沢山あった。
  だから、この恋に悔いはない。




  拓真から完全に離れる生活を送り始めてから、三週間が経った。
  街はイルミネーションに彩られて、クリスマスムード一色の12月の中旬を迎えた。


  芯から強くなるにはまだ時間がかかりそうだけど、その間支え続けてくれた敦士とは次第に距離が縮まっていった。
  男を追い求めていた時間は、再び男に追い求められる時間に。
  昔のスタイルに戻っただけだから、やけにしっくりとくる。



  敦士は優しい。
  笑顔を生み出す為に意地悪を言ったりするけれど、嫌な気持ちにさせない。
  誰かさんみたいに気持ちを無視したり、頭ごなしに怒鳴りつけたり、無理強いなんてしないし。

  歴代の彼氏のように女王様気分にさせてくれるし、大事に想ってくれる。


  いっその事、勢いに乗って付き合っちゃおうかな。

  未だに気持ちに整理が出来ないけど、敦士に寄りかからせてもらえば1日でも早く失恋の傷が癒えるかもしれない。



  和葉は校内で拓真と顔を合わす機会がグッと減って、気持ちが楽な方へ誘われるかのように心が揺らぎ始めていた。




  しかし、対照的な考えを持つ拓真は、ヤキモキした日々を送っていた。

  校内で和葉と敦士が仲良さそうに歩いている姿を何度も目撃していた。
  その度に目線が吸い込まれるように二人の方へ。

  それは、一人でも栞が隣に居る時でも関係ない。
  意識していなくても人混みの中から探すのは簡単だった。

  本音を言うなら、栞との交際を機に毎週農作業を手伝ってくれた和葉と急に他人になってしまうのは正解ではないと思っていた。



  拓真は煮え切らない日々を過ごしていたが、彼女としてスタートさせたばかりの栞は少しずつ異変に気付いていた。
  まるでキャンドルの炎が燃え尽きそうなくらい、笑顔もうっすら消えつつある。


  幸せ絶頂期のはずが、拓真の瞳からは情熱的なものを感じさせられない。

  席に座っている時は大概窓の外を眺めている。
  そして、授業後の休み時間の終わり際には、決まったように廊下を見つめている。
  一緒になって目線を向けても、そこに何かがある訳でもない。



「今日も敦士の超豪華弁当が食べたいよ~。ねぇねぇ、和葉のおにぎりと交換して!」

「また?   毎日それ言ってんじゃん」


「成長期だから栄養が不足してるの」

「高二にもなってまだ成長期かよ。あぁ~あ、確かにチビだもんな。もう成長が止まったなんて認めたくない気持ちはわかる」


「どの口がチビだって言ってるのよ!」

「お嬢様、少々お言葉が汚いでございます」


「あのさぁ、敦士は私の執事じゃないんだから変な冗談はやめてくんない?」



  ーーそれは、敦士の彼女のように過ごす生活にもすっかり慣れた、ある日の出来事だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...