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第十章
263.ずっと心配してくれていた敦士
しおりを挟むーー敦士の告白を断ったと同時に、友達としてもお別れしてから3日経った、ある日。
和葉達三人が美術室に向かってる最中、敦士のクラス前を通過しようとしていると、後方扉から友達と一緒に廊下に出て来ようとしている敦士を目撃した。
その瞬間、和葉は反応してドクンと低い鼓動を打った。
先日の別れを過剰に意識しているせいか、教科書と筆箱を胸元にギュッと抱えて深刻な表情を覗かせた。
「……ごめん、先に美術室に向かってて。教室に忘れ物をしちゃったから一度戻るね」
「ここで待ってるから取りに行って来なよ」
「ううんっ! いい……。後から行くから先に美術室に行ってて」
和葉は二人の返事を聞かぬまま教室へと戻って行った。
「何? どうしたの、あの子?」
「さぁ……」
二人は相変わらず何も相談されてないから、当然心境を知るはずもない。
キョトンとしたまま走り去って行く和葉の背中に目線を当てるだけ。
友達関係は解消されてしまったけど、敦士とは教室が隣二つしか離れていないから、このようにいつ遭遇してもおかしくない。
和葉は後方扉から教室内に戻ると、壁側に身を隠した。
胸に抱え込んでいる教科書と筆箱に自然と腕の力が加わる。
美術室に向かうクラスメイト達は教室から次々と廊下へ出て行く。
一人取り残された和葉は、まるで誰かとかくれんぼをしているかのように壁に身体を密着させた。
私は関係に終止符を打ったあの日から敦士を避けていた。
お別れで傷付いた分、どう接したらいいかわからないから馬鹿げた真似をしている。
こんな事をしても無意味なのに……。
友達を辞めるというのは他人に戻るのが正解だと思うけど、まだ敦士と友達でいたいからどんな顔をしていればいいかわからない。
だから、すれ違う勇気すらない。
『これから俺の事を少しずつ知っていってよ。よく知る前に断らないで』
『俺、和葉ちゃんにすげぇ会いたくなったから来ちゃったよ~』
『もっといっぱい会いたい。こう見えても一途なんだよね』
知り合ったばかりのあの頃は、どうしてこんなにしつこく付きまとうんだろうって思っていた。
何処に行ってもひっついてくるし。
人の恋路の邪魔をするし。
バカみたいにアピールしてくるし。
でも、敦士は私の気が拓真に一直線に向けられいると知りながらも諦めなかった。
どんな逆境に立たされていても、いつもめげる事なく私への心配ばかり重ねながら温かい目で見守っていてくれた。
『じゃあ、さっきはどうして泣いてたんだよ。何でいつも暗い顔してんだよ。好きな女が辛そうに泣いてるのに、黙って見てろって言うの? 俺にだって感情はあるんだよ!』
『そんな表情をしてる原因……、俺には何となくわかってる。だって、毎日お前だけを見ているから』
『そんなに辛いなら俺に寄りかかれば少しは楽になるのに』
『愚痴をこぼしていいよ。辛い事を全部受け止めるから』
『毎日そんな泣きそうな顔ばかりしてるけど、それで幸せなの? 人生は一度きりしかないのに気持ちを押し殺してるって辛すぎだろ』
『俺さ、お前の辛そうな顔は見たくない。お前が俺の女なら、絶対悲しませないけどね』
『俺なら辛い時は傍にいてあげる。涙を流した時は優しく拭いてあげる。お前の願いを全部叶えてやれるのに……』
『お前は栄養不足だからそんなに痩せてるんじゃねぇの? さっき倒れかかった時、空気みたいに軽かったから、きちんと栄養摂って健康に少し太らないとな』
『本気でお前が好きだから絶対泣かせないし、誰にも負けないくらい幸せにしてやる自信がある』
敦士は自分の気持ちに蓋をしたまま、衰弱してしまった私の体調面やメンタル面を心配してくれていた。
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