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第十章
272.殺伐的な目つき
しおりを挟む軽々と提案に乗ってしまった時は、ターゲットの気持ちなんて考えなかった。
拓真が恋に落ちたら臨時収入が入るし、付き合っても性格が合わなければ、すぐに別れればいいと……。
でも、ターゲットが自分だったら同じように許せないと思う。
『賭けで男を落とすなんて冗談キツイよ』と言って、笑い飛ばして終わらせればよかっただけの話。
そしたら、私達は出会わずに済んだのに。
その上、友達に恋愛相談をしなかったからバチが当たったんだ。
寝ても覚めても拓真が好きなのに、友達は私の気持ちを知らないから敦士と上手くいってると勘違いしている。
和葉は拓真の背中を追いかけながら自分を戒めていた。
ようやく追いつくと、ハァハァと小刻みな息を漏らしながら逼迫した様子のまま拓真の腕を引いた。
「待って、お願い。最後まで話を聞いて欲しいの……。一生のお願いだから」
和葉は半べそ状態で懇願して拓真の足を引き止めた。
しかし、ゆっくりとした目線を合わせた拓真は、見下すように睨みつける。
その殺伐的な目つきに見覚えがあった。
それは、以前学校帰りにストーカーに男に狙われて、途中から助けに来てくれた時。
拓真は足が浮くくらいの力でストーカーの襟元を掴み上げて睨みつけた。
そう……。
今は私をストーカー男から守ろうとしてくれていた、あの時と同じ。
瞳の奥に殺人鬼が潜んでいるかのような眼差しが、いま私へと向けられている。
そして、表情全てに奥深い悲しみが映し出されている。
和葉は先ほどよりも一層厳しい表情を見た途端、再び背筋が凍りつきそうなほど恐怖に陥り、掴んでいた手を思わず離してしまう。
この手だけは絶対に離すまいと思っていたが、身体と心がバラバラに。
「……消えろ。もう二度と俺の前に現れるな」
自分にこれ以上関わるなと言わんばかりに憤激している拓真は、そう言って冷酷に突き放した。
そして、足音を立てながらその場から立ち去る。
睨まれた瞬間は心臓が止まりそうになった。
腕を離しちゃダメだとわかっていても、あの目つきには敵わない。
私は無力さにより一層拍車がかかってしまい、何一つ弁解出来ぬまま立ち尽くす事しか出来なかった。
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