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第十章
275.殻を破る勇気
しおりを挟む部屋の時計の針は18時半を迎え、外は暗闇に包まれ始めてから2時間近くが経過していた。
和葉は照明をつけずにイモ虫のように布団に小さく包まり、もぬけの殻のようなひと時を過ごしていた。
泣き果てて腫れぼったい瞼は重みを感じ、泣き過ぎたせいか少し頭がガンガンしている。
街灯の明かりがレースカーテンを通り抜けて布団にかぶさり、和葉が布団の中で体勢を変える度に影の形も変わる。
同じ室内にいるインコのハナちゃんは、目をつぶって暗い部屋で大人しく過ごしていた。
拓真の事で頭の中が埋め尽くされている和葉は、ハナちゃんに話しかける元気もない。
ガチャン……
「ただいまー」
玄関から父親が帰宅する音が届いた。
和葉が家にいる時に父親が帰宅すると、いつもは「おかえり~」と元気な声を上げて父親の元に向かうが、今日は玄関に揃えた靴が置かれたままで部屋から出てくるどころか、室内からは物音すら聞こえてこない。
父親は異変に気付くまで時間はかからなかった。
玄関に上がりスリッパに履き替えると、スーツ姿のまま和葉の部屋の前に立ち部屋の扉を軽く二回ノックした。
コンコン……
「ただいま。和葉ちゃん、もう帰ってるんだよね。テーブルの上のお弁当は食べた?」
部屋の外から父親の声が届くと、和葉は布団の中から「うん」と小さな返事をした。
一方、扉の外にいる父親の耳には鼻声混じりの小さな返事が届いている。
父親は扉下の隙間に目をやると、隙間から部屋の光が差し込んでいない。
電気もつけずに部屋にこもっている様子を目の当たりにした途端、およそ一ヶ月前の衰弱していた頃の和葉を思い出した。
「和葉ちゃん、今朝は元気に家を出て行ったのに今は元気がないみたいだけど、どうしたの? 今日学校で何かあったの? ……何か私に力になれる事はあるかな」
心配を寄せる父親は、部屋に塞ぎ込んで食欲が失せてしまったあの時と同じような日々が繰り返される前に先手を打った。
一方の和葉は、すっかり心が迷宮入りしてしまっているが、自分でもこのままではダメだとわかっている。
拓真に失恋した時は敦士が傍に居てくれたから何とか持ちこたえる事が出来たが、今は悩みを聞いてくれる人がいない。
祐宇と凛には先ほど電話で大丈夫だと伝えて誤魔化したし、愛莉は賭けで拓真に近付いた事を知らないし、バイト先の山田のアドバイスは何も参考にならなかったし、母親は不在がちで当てにならないし。
そう考えたら、自分には相談する人がいないという現実に気付かされた。
変な意地やプライドがあるから、最終的に自分の首は自分で絞めてつけているのかもしれない。
でも、せっかくおじさんは話を聞く体制になってくれてるし、ここは思いきって悩みを打ち明けようかな。
もしかしたら、ドン底気分が少しでも晴れてくるかもしれない。
和葉は母親以上に信頼を寄せている父親の優しさに一瞬心が揺らいだ。
しかし、血の繋がった親子だとしても親に恋愛相談するなんてあり得ないだろう。
しかも、父親には何かと心配や迷惑をかけているから相談なんて気が引ける。
和葉は父親の計らいに躊躇って、口を閉ざしたまま心の中で葛藤を続けていると……。
「和葉ちゃんはお年頃の女の子だから、私に相談なんて出来ないかな」
暗室の向こうから寂しい声が響いた。
和葉はなかなか決断出来ずに布団を被ったまま。
もどかしい気分はしばらく続く。
しかし、昼間半分しか口にする事が出来なかったキャラ弁も心を大きく揺さぶっていた。
父親は扉越しから問いかけても、和葉の声どころか音すら聞こえてこない。
少しばかし待ってみたが、返答がなかったので話を引き出す事を諦めようとしていた。
ーーが、その時。
「待って、おじさん! 話っ……、あるから……」
今日は昔と違い、少しだけ殻を破る勇気があった。
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