LOVE HUNTER

伊咲 汐恩

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第十一章

293.悩みのタネ

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栞「そこで、ご相談なのですが……。『先に約束を破ってごめんなさい』と、代わりに伝えてくれませんか?  私は失恋の痛手を負っていて素直に謝る事が出来ません」

祐宇「え……、私達が藤田さんの代わりに?」

凛「藤田さん、それはっ!」


栞「無理を言ってるのは百も承知です。でも、和葉さんに会うのは正直辛いし、この話をする事自体苦しいんです。……だから、代わりにお願いします」



  栞は膝に手を置くと、二人に深々と頭を下げた。
  祐宇達は栞の頭から目線が離せない。



凛「自分の口から今は言いにくい……か」

栞「……はい。いつか必ず和葉さんの目を見て謝ります。だから、お願いします」



  フーっと鼻から深いため息を漏らした祐宇と凛は、互いの顔を見合わせた。
  前髪で顔が隠れている栞の手の甲には、瞳にたまっていた涙がポタポタと不揃いにこぼれ落ちた。



凛「祐宇……。どうする?」

祐宇「私には藤田さんの気持ちもわかるから、全然構わないけど」

栞「ありがとうございます……」



  そう言って顔を上げた栞の顔は、反省の色が滲み出ているように涙でぐしゃぐしゃになっていた。
  栞は脇に置いてあるカバンからハンドタオルを取り出して涙を染み込ませる。

  心配そうに見ていた凛は、少しホッとした様子で祐宇に口を開いた。



凛「ようやく和葉の悩みのタネが分かったね」

祐宇「まさか、和葉が拓真に恋をしてたなんて……。私達の的が外れてたね」



  体調を崩して痩せ細るまで何かを隠していた和葉。
  そして、話を引き出そうとしても何となく誤魔化されていた。

  敦士と恋愛しているのではないかと勘違いしてしまうほど、和葉は固く口を閉ざしている。



  川の方から流れてきた冷たい風が三人の髪をそっと揺らす。
  コートの袖から少し出ている指先はすっかり冷たくなっている。
  しかし、感情が高ぶっている栞は、寒さを感じないほど赤面していた。

  すると、涙を拭ききった栞は再び口を開いた。



栞「あと、もう一つだけ……。最後にお願いがあります」



  横から鼻声の声が届くと、二人の目線は同時に栞へ。
  栞の両手は膝に置いたままで、目線を下していた。



凛「……うん、何?」

栞「拓真の気持ちは私の思い込みなので言わないで下さい。ただ、迷惑かけた事だけは代わりに伝えて欲しいです」


祐宇「うん、わかった。辛いのに和葉の事を教えてくれてありがとね。私達は和葉の想いをずっと知りたかったから、こうやって話してくれて本当に感謝してる」

凛「……でも、どうしてその話を私達に話す気に?」

栞「それは、拓真に笑顔を取り戻して欲しいから。自分のせいで奪ってしまったのなら、自分の手で取り戻さなければならないと思っているので」



  心に隙間風が吹いて非行に走った昔も。
  自分と付き合い始めてから笑顔が消えていった今も。

  栞は拓真が再び笑顔を生み出せるよう、心から幸せを願っていた。



「それって……」



  言ってる意味に気付いた凛は興奮して声を上げた。
  すると、栞は首を軽く横に二回振る。



栞「……いいんです。ゆっくり時間をかけながらケリはつけていくつもりです。拓真は恋の相手と同時に大切な幼馴染ですから。もう手放す準備は始まっています」



  指先を軽く震わせていた栞がそう言うと、次は祐宇が栞の想いに気付いた。
  そして、時が止まってしまったかのように衝撃を受けた。


  拓真が笑顔になる方法はたった一つしかないと思っているという事に。



祐宇「本当にそれでいいの?」

凛「藤田さんって強いんだね」

栞「私なんて全然強くないです。長い間拓真に想いを寄せていましたが、その間ずっと友達だったので、元の拓真に戻って欲しいという願いが人一倍強いだけかもしれません」



  震えた口角を無理に上げて微笑んだ栞は、左手に握りしめているハンドタオルで目元の涙を拭い、ベンチから立って二人に深々と一礼して、荷物を手に持ちその場から早足に去って行った。

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