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第十一章
300.繋がらない会話
しおりを挟む母屋から出てきたお婆さんは、ビニールハウスの扉に顔を覗かせて二人に声をかけに来た。
「そろそろお昼にしましょうかね」
二人は明るい声を浴びると、視線は同時にお婆さんの方へ吸い寄せられた。
先にハウスの出入り口の方に歩き出した拓真は、頭に巻いていたタオルを外して地面に叩きつけて不機嫌な足取りでハウスから出て行く。
拓真の感情は丸見えだった。
どうやら、やり場のない怒りは抑えきれない様子。
現況を見る限り、心のかさぶたはまだ完成してない。
一旦作業を中断した和葉は、拓真の背中を見て追いかけるようにハウスを出て行った。
母屋に到着して2ヶ月ぶりに居間に上がると、カレーライスがテーブルの上に並べられていた。
ぱっと見、三人分用意してある。
今日はお婆さんも一緒に食卓に着いた。
和葉は三人分のカレーライスを見て、一つ気付いた事があった。
今日は栞が来ていない。
ここに到着してから自分の事で頭がいっぱいになっていたせいか、この瞬間までいない事に気づかなかった。
それだけ精神的に追い込まれている。
「お婆さん、栞ちゃんは今日農作業に参加しないの?」
本当は拓真への質問だった。
しかし、話す気がないのをわかっているから、敢えてお婆さんに聞いた。
ところが、お婆さんは何も知らない様子でそのまま拓真の方に目線を向けて、まるでバケツリレーをしているかのように同じ質問をぶつけた。
「拓真、栞ちゃんは今日うちに来ないのかい?」
「……」
「先週も来てなかったね。栞ちゃんから来れない事情を聞いてるんでしょ」
拓真はお婆さんの話を無視して、黙って食事の手を進めている。
それを見た瞬間、お婆さんを間に通しても私と話をする気がないと思った。
栞は先週も農作業を休んでたんだ。
だから今日は雑草が生えていたんだね。
拓真は先週一人で農作業をしていたのに、今日も一人で作業するつもりだったのかな……。
栞が来ないからホッとしてる部分があるけど、思うように食事が喉を通らない。
それに、感情がぐちゃぐちゃにかき乱されてしまっているせいか、カレーライスの味すらわからない。
和葉はカレーライスをひとくち口に含んだ後、スプーンをお皿の横に置いた。
「ごちそうさまでした」
「和葉ちゃん。まだ、ほとんど残ってるじゃない。若いんだから、残さずしっかり食べないと」
「もうお腹がいっぱいで……。せっかく作ってくれたのにごめんなさい」
「お腹いっぱいって。朝から時間が経ってるのに、どうして……」
お婆さんは顔を覗き込むように心配の目を向けた。
しかし、和葉は返事もせぬままスッと席を立ち上がって、傍に置いていた手拭いと軍手を握りしめて無言のまま畑へ向かった。
お婆さんは暗い影を落としながら部屋から出て行く背中を目で追う事しか出来ない。
やっぱり、拓真の不機嫌な様子を見てたら食欲が失せてしまった。
私は精神的なダメージを受けると食が進まないらしい。
今日は久々のお婆さんの手料理だったのに。
本当はずっと楽しみにしていたから、嬉しくて嬉しくて仕方がなかったのに。
暫く音沙汰もないまま突然現れた私の為に昼食を用意してくれたのに……。
でも、きっと拓真は私と一緒に食事をしたくないはず。
お婆さんの問いかけすら無視してたから自然とそう思った。
意を決して戦場に立ち向かってみたけど、どんな小さな事でも一つ一つが苦しい。
一方、お婆さんは二人の妙な雰囲気を察していた。
だから、敢えて食事の場を二人きりにしなかった。
無言のまま食事を進める拓真を見ると、無愛想なままカレーライスに視線を落としていた。
「和葉ちゃんとケンカでもしたのかい?」
「……別に」
お婆さんは思っている事をストレートに吐き出したが、拓真は質問をはぐらかしている。
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