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第十二章
315.期待する未来
しおりを挟むーーこれが本音。
過ぎ去った時間は巻き戻せない。
だから、辛くて悲しかった古い記憶は、新しい思い出で塗り重ねていきたい。
意地悪な母親のせいで本調子は狂わされてしまったけど、父親との約束の条件をバカみたいに守ってくれた事にはとても感謝している。
母親は『おかえり』などといった簡単なコミュニケーションすら出来ないほど愛想がなくて、子育てが人一倍下手くそだし、料理も一切作らないし、部屋の掃除もしないし、男関係もだらしなくて、本当にダメ女だって昔から決めつけていたけど……。
最終的に大切な人を再び手に入れたから、本当に魔性の女だと思った。
一方の母親は、生まれて此の方一度も口にした事がない娘の想いが伝わると、強気な態度を急変させた。
「雅和さんが本当の父親だと黙っていた事を、許してくれるの?」
「だって、しょうがないじゃん。許すしか選択肢がないんだもん。地球上どんなに探し回っても、私の血の繋がった両親はここにいる二人しかいないんだよ」
「ありがとう、和葉。今まで黙っててごめんね……」
普段、感謝の言葉なんて一切口にしない不器用な母親は、声を震わせながら謝罪した。
そして、左目からは一度たりとも見せた事のない涙がポロッとこぼれ落ちる。
入園入学、卒業、発表会、運動会。
娘の思い出の詰まったあらゆる学校行事や成長過程でさえ、今まで涙一つ見せてこなかった。
しかし、和葉の隠されていた想いが徐々に明らかになっていくと心打たれてしまう。
運命のいたずらによって本来在るべき場所に再び戻る事が出来た、父親と母親。
そして、17年ぶりに本物の両親に囲まれた自分。
更に、ピンク色の桜吹雪に囲まれる暖かい時期にやってくる小さくて新しい命。
家族の団結力を固く結び直した私達は、もう仮の家族じゃない。
最初からつまずいてしまったけど、ここからが家族としてのスタート地点だね。
今日まで家族の気持ちがバラバラで辛い事や悲しい事はいっぱいあったけど、これからは家族として喜びや悲しみを分かち合っていきたい。
そして、新しい命の誕生と共に、自分自身もお姉さんになれるように前向きに成長していかないとね。
和葉は丸めた肩を揺らしながらヒクヒクと嗚咽していると、斜め向かいに座る父親は両目にキラリと涙を光らせた。
「ありがとう、和葉。……そして、たった一人の大切な娘。長年、人一倍寂しい想いをさせてしまって本当にすまない。私がいない間、沢山苦労していただろうし、涙を流す回数も人一倍多かっただろう。時には、世間から偏見の目があったかもしれない。それなのに、何もしてやれなくて申し訳なかった」
唇を強く噛みしめた父親は膝に手を置き、和葉につむじが見えるほど深々と頭を下げた。
父親は、親として不十分だった過去の自分と、罪もない我が子を自己都合で巻き込んでしまった事を深く反省していた。
しかし、和葉には母親の浮気が原因で離れて行った父親に、許せない気持ちなど一切残っていない。
何故なら、父親として生活を共にしているうちに、溢れんばかりの愛情を受け取っていたから。
「ううん、もう平気。それはもう過ぎた話だから」
「これからは、失っていた歳月の思い出を家族の力で少しずつ埋めていこう」
「うん!」
涙を流しながら穏やかな瞳で微笑みあった二人は、過ぎ去った日々を振り返るよりも未来に期待する事にした。
でも、私にはまだやるべき事がある。
おじさんを父親と認めて簡単に終わりにしたくない。
私達家族はこれからだから、人生の節目のこの一瞬を一生後悔する前に気持ちを新たにスタートさせなければならない。
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