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第十二章
324.挑発
しおりを挟む「あんたはいちいち俺の情報を詮索してるようだけど、実は俺のストーカー? あんたってチャラチャラしてるから女のケツばかり追いかけてるように見えたけど、実はそっち系? ……人って見かけによらないんだな」
「はあぁあっ?! んな訳ねーだろ」
「はぁ……、勘弁してくれよ。俺、そーゆーの絶対無理だから」
「だから、ちげぇって」
お互いの存在が気に食わない二人は、まるで赤い布で目の前を覆われた闘牛場の牛のように、気性が荒くいがみ合っている。
すると、敦士は一旦区切りをつけるかのように目線を前方に向けてまつ毛を軽く伏せた。
「あんたさぁ、和葉と付き合う気ないの?」
「……」
拓真は返事をしなかった。
また無駄口を叩いたら、再び敦士に心が読まれてしまうと思ったから。
「あいつさぁ、あーんなに可愛いくて素直だし、ひたすらあんただけを追いかけていたのに、あんたに魅力が伝わらなくて可愛そう」
「俺には関係ない」
拓真は話に終止符を打つ為に返事をした。
今朝、和葉の友達から真実を聞かされたばかりでまだ心の中が整理出来ていない。
しかも、和葉を忘れようと心に誓ってからまだ数時間程度しか経っていないのに、敦士は心の中を再び掻き乱そうとしている。
「俺はあんたの存在が目障りだったんだよねぇ。今日までずっと和葉の気持ちを優先してきたけど、あんたは付き合う気がないの?」
敦士の挑発は続く。
拓真は我慢をして聞いているが、次第に膝に置いてる拳が震え始めた。
しかし、敢えて対抗措置は行わない。
「あんたが要らないなら俺がもらっちゃうよ? 本当にそれでいい?」
「……っ」
敦士は隣から首を傾けて拓真の反応を楽しんでいる。
一方の拓真は、挑発的な言動がさっきから気に障っていた。
放っておきたいし、この場から早く去りたいと思っているが、逃げると勘違いされてしまうのが嫌だった。
「俺さぁ、ず~っとあいつが好きだったんだよね。しかも、あーゆーギャル系の子ってちょっと優しくしたら簡単に落ちそうじゃん」
拓真はそれまで黙って聞いていたが、聞き捨てならぬ言葉が飛び込んでくると、グワッと目を大きく開かせた。
あんたが要らないなら俺がもらう?
しかも、あいつなら簡単に落ちそう?
拓真は軽視する言動が癪に障ると、その場から勢いよく立ち上がって冷酷な目線を向けて右手で敦士のネクタイをひねり上げた。
グイッ……
「いま、何て言った」
ストーカー男に向けた時と同じく凍てつく目線は、敦士へと向けられる。
嫌悪感に溢れる空気は一気に緊迫状態に。
「聞いてなかったの? ならもう一回言ってやる。ちょっと優しくしたら簡単に落ちそうだって言ったの」
ネクタイを引っ張られて苦しそうに歯をくいしばる敦士は、冷めた目つきで睨み返した。
「ざけんな! あいつはあんたが思っているような軽い女じゃない。あんたが見てきたその辺の女とは訳が違う」
「へぇ~。他の女とどのように違うの?」
「見た目はギャルだし、全校生徒の見てる前で屋上から告白するくらいバカだし、行動が先読み出来るくらいおっちょこちょいで、寝込みを襲いかかってるくらいエロいし、手先が不器用で飯は異常なくらいマズイし、食い方は汚くて男みたいにガサツだ」
「……。(悪口かよ)」
「だけど、人一倍愛を大切にしている。あいつが生み出してくれた笑顔の後には平和が訪れるし、ほんの小さな願い事を叶えてやりたくなるくらい逞しい。苦境に立たされても我慢強く。辛い事があっても辛抱強く。そして、伝えられない本音を閉じ込めてしまうほど繊細な心の持ち主だ。だから……だから、あいつを軽々しく扱うんじゃねぇよ」
拓真は今日までの和葉を思い描きながら、絞り出すように胸の内を吐き出した。
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