カーテン越しの君

伊咲 汐恩

文字の大きさ
19 / 41
カーテン越しの君

18.飴をくれた理由

しおりを挟む



私はあの頃の記憶が鮮明に思い浮かぶと、まるでひとり言のように延々と語っていた。


飴に込めた想い。
まさか大切な思い出話を他人に語ると思わなかった。



すると、黙って話を聞き終えた彼は数分ぶりに口を開いた。



「あんたは、そいつのどんなところが好きだったの?」

「やっぱり透き通った歌声かな。半分憧れで半分恋。彼の歌が魅力的だから、彼の歌の順番になると異様に胸がドキドキしちゃったりして」


「ふーん、魅力的な歌声…か」

「大雪が降ったら彼に会えるかな、なーんて未だに再会を期待しちゃったりして。大雪の日に彼と再会した時に私がこの飴を見せれば、少しは記憶の頼りとなって思い出してくれるかなって」


「…でも、そいつは何であんただけにその飴をくれたんだろうな」

「わかんない。他の子と比べると、私の歌唱力が圧倒的に劣っていたからかな」



セイくんが言う通り、彼が私にだけ飴を渡す理由を今まで考えた事がなかった。

いつも星型の飴を持ち歩いていた事も、いま考えてみると謎に思う。



「また、そいつに会えるといいな」

「でも、あれからもう六年経ったし、皆川くんはもうその約束を忘れちゃってるかもね」


「…いや、しっかり覚えてるかもよ」

「えっ…」



驚いた声でカーテン越しの彼の方に目を向けて返事をした、その時。


ガラッ…



「セイ。もう時間だよ」



保健室の扉が開き、暫く席を外していた養護教諭は扉方向から彼の名を呼んだ。



「…ごめん。時間が来たから、もう戻らないと」

「ん。バイバイ、セイくん」



ベッドから立ち上がる音とカーテンの開く音が聞こえた後、二つの靴音は徐々に扉方向へと遠退いて行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

Short stories

美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……? 切なくて、泣ける短編です。

カラフル

凛子
恋愛
いつも笑顔の同期のあいつ。

皇帝の命令で、側室となった私の運命

佐藤 美奈
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...