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カーテン越しの君
0.カーテン越しの君
しおりを挟む足首が浸かるくらい大雪が降ったら、
俺達はまた会おう
ーーそれが。
小学生時代に片想いしていた彼から、声楽教室を辞める事になった私へ最後に伝えてくれたセリフだった。
レッスンの日に彼から貰った《歌が上手になる》という魔法のかかった特別な星型の飴は、身体に染み込んでいく前に、現実への道を歩む事となった私。
幼い頃から歌手になりたいと思い描いていた夢が、打ち砕かれてしまった時。
《歌が上手になる》飴は、《勇気》の飴となって、まだ先の見えぬ将来に向かって学ぶ私のポケットの中で、毎日人知れず勇気を与え続けていてくれた。
私達が最後にお別れをしたあの日は。
数年に一度街に警報が出るほどの大雪だった。
空から降りしきるボタン雪が冷たくて。
睫毛が凍りつきそうなくらい外は寒くて。
口からこぼれ出す息が真っ白になっていて。
ただただ…。
遠く小さくなっていく彼の背中を見届け。
震え泣く涙だけが、湯気が立ちそうなくらい妙に熱く感じて。
視界が歪んだ瞳からポロポロと滴る涙で、寒くて赤くなった頬が焼き付きそうなくらい痛くなった。
ーーしかし。
あのお別れの日から、およそ六年が経ち。
ポケットの中でひっそりと私に勇気を与え続けている飴が、高校の保健室のカーテン越しの君へと渡った、その時。
小さな星型の飴は、切望以上の温かい衣に包まれ。
大きな勇気は新たな道のりへの架け橋となった。
※この物語はフィクションです。
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