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第五章
40.彼の心
しおりを挟むーー午後6時45分。
私はパープルのフリル袖に白いプリーツのミニスカートに黒のニーハイソックスと、まるでデートに行く時のような装いで待ち合わせ場所に向かっていた。
髪をひとまとめにしているラインストーン入りのハート型のバレッタが月光に照らされている。
約束の場所のスーパーまであと5分。
滝原くんの家の前を通り過ぎるまであと少し。
もしかしたら家の前で偶然会えるかな。
そしたら2人で一緒にスーパーまで行けるよね。
でも、どうしてこんなにオシャレをしてきちゃったのかな。
無意識のうちに一番お気に入りの服を選んでた。
デートならまだしも、夕飯の買い出し程度なのに……。
胸をドキドキさせながら滝原くんのマンションに差し掛かると、エントランス前で男性が言い争っているような声が聞こえた。
ケンカ? と思って心に波風を立たせながら10メートルほど近付くと、男性の声がはっきり聞こえてきた。
しかし、何となく耳に飛び込んできた声は……。
「もしかして、夏都が美那っちに近付いてる理由は俺への腹いせ?」
明らかに怜くんだった。
目を向けると、向かいに立っているのは滝原くん。
しかも、話題は他でもなく私。
急に気まずくなって来た道をUターンしてマンションの隅に身を隠して聞き耳をたてた。
「どうしてそう思うの?」
「だって、お前は俺を毛嫌いしてるだろ」
「だから?」
「俺が美那っちと仲良くしてるのを知ってるから、邪魔をすれば自分の気が晴れると思ってんだろ。だから、美那っちに近付いて弁当や食事の世話までしてもらってるんだよな。俺が嫌がるのを知っててさ。お前の魂胆は見え見えなんだよ」
怜くんは怒りをあらわにしながら攻撃的な口調で滝原くんを攻め続けていた。
怜くん、違うよ……。
お弁当や食事の世話は私が率先してやってるだけ。
お願いされた事は一度もない。
それに、少し誤解してる。
滝原くんは人に嫌な事をするような人じゃない。
私がクラスの女子から嫌味を言われた時は何度も救ってくれたし、人一倍正義感の強い人。
だから、怜くんの言い分に少し引っかかった。
ーーところが、熱くなってる怜くんとは対照的に、滝原くんは見下すような目のまま言った。
「だったら、どうなの?」
「えっ……」
「美那の自己紹介の時にお前が教室中の外まで響くくらい大きな声で『かわいい』と言ってるのを廊下で聞いてて、お前に仕返しするならこれだと思ったって言ったら?」
「夏都……、おまえっ!」
「お前を傷付ければ少しでも気が晴れるんじゃないかと思ってね。だから近付いた」
滝原くんの口からそれを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。
嘘……。
滝原くんが私に近付いた理由は、怜くんを傷付ける為?
だって、私が信用してる目をしてるから貧血だと教えてくれたし。
『人が困ってる所を見たら助けたいと思うのが普通だろ』と言って噂話をしてる女子から救ってくれたし。
私が怪我をしそうな時は助けてくれたし。
クラスの女子に掃除当番を押し付けられそうになった時は『佐川さんの仕事じゃない』と言ってホウキを突き返してくれたし。
『美那といるとあったかい』って言ってくれたし。
私の真似をして滝原くんにお弁当を作って来た女子に対して『ごめん……。俺、こいつの弁当食う約束をしてるから受け取れないわ』と言って突き返してくれたし。
それに、それに……。
私は今日までの幸せな思い出を振り返ってるうちに涙が止まらなくなった。
バカみたい……。
利用されてるなんて気づかなかった。
滝原くんと思い出が多い分、苦しい。
信じていた分、悲しくなった。
否定したくても出来ない現実。
もう聞き耳を立てていられるほどの精神状態じゃなくなってしまい、先ほど来た道を全力で走って行った。
ーーそれから1時間後。
滝原くんから何度も電話があった。
きっと、私が約束の場所に現れなかったから電話をかけてきたのだろう。
……でも、出なかった。
2人のやりとりを直接この耳で聞いたら彼の声を聞く気にはなれなかった。
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