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第八章
62.タイムリミット
しおりを挟むピンポーン ピンポーン……
滝原くんのマンションに到着してからインターフォンを連打した。
焦る気持ちが抑えきれず、無事を祈りながら指先に願いを込めた。
ところが、彼はインターフォンに出る気配はない。
インターフォンに出てくれないとエントランスの扉が開かない。
第一関門が突破できなければ、扉を叩いて彼を起こす事も出来ない。
しばらくエントランス前で待っていると住人が扉の奥から出てきたのでその隙を狙って中に入った。
だが、これはほんの小さな通過点に過ぎない。
彼の部屋に到着すると、インターフォンを押してから扉に拳を叩きつけた。
ドンドンドンドン…… ドンドンドンドン……
「滝原くんっ、滝原くんっ!」
ドンドンドンドン…… ドンドンドンドン……
「もしこの音で気付いたら部屋から出てきて。心配なの……お願い……」
廊下を通過していく人たちの目線は冷たい。
でも、そんな事が気にならないほど彼の身体を心配していた。
一切無反応な扉。
そして、叩き疲れた拳。
私は扉に背中を向けて体育座りのまま彼の反応を待っていた。
こんな残酷な未来が待ち受けてるなんて思いもしなかった。
本来なら約束場所に行ったら彼が来て、一緒に誕生日の食材とケーキを買ってお祝いして、まだ人間界に身体があるうちに今日までありがとうって伝えたかった。
それなのに、どうして最後まで邪魔をするの。
せめてお別れの言葉だけでも言いたかった。
コウモリになってしまったらしゃべる事さえままならなくなってしまうから。
私の身体が消えるまで、あと30分。
「滝原くん……。ごめんねっ……、ごめんなさい…………」
ポロポロと涙を流しながら何時間も電話をかけ続けた。
ーーすると。
プルルルル…… プルルルル…… プッ カチャッ
「………美那」
スピーカーの奥から聞こえてきたのは滝原くんのか細い声。
電話がようやく繋がってハッと目を開けると、再び扉の正面に立った。
「滝原くんっ! 身体は無事なの?」
「……っあ、ぁ…………、うん……へーき」
「良かったよぉ……。うっ……うあぁぁん」
「美那……、どうしたの? 泣くな……って……」
「うっうっ……、ぐすっ……ぐすん。いま家の扉の前にいるから……っく開けてくれる?」
「わかった…………」
電話が切れて15秒くらい経ってから扉が開かれた。
その先に立っている彼はフラフラとした動きでうつろな目をしている。
「大丈夫?」
「うん……、さっきより」
「無理しないで! とりあえずイスに座ろう」
私は彼の身体を支えながらリビングのイスに座らせた。
どうしよう……。
こんなにフラフラしてるという事は、やっぱり河合さんが吸血したんだ。
私が吸血する時は体調面を考えて少量にしたけど、何も考えなければもっと欲しいと思ってしまう。
……ちょっと待って!
壁時計で時間を確認したらタイムリミットまであと25分しかない。
以前、河合さんは人間の身体は1日に一度しか吸血を受け入れられないって。別のヴァンパイアに吸血されたら身体に負担がかかって死を導く可能性もあると言ってた。
つまり、河合さんが先に吸血していたとしたら、私は……。
美那は無意識に握っていた拳が自然と下がっていった。
夏都は時計を見て現在の時刻を知ると、ある事を思い出した。
「美那、もう時間が……」
「……」
「早く吸血しないと、あともう少しでタイムリミットに……」
「……」
夏都は問いかけに一切無反応な美那に引っ掛かりを感じた。
「ねぇ、どうして迷ってるの? 家を出る前に鉄剤飲んだから俺の身体は心配しないで。だから、早く吸血を」
「……ダメ。出来ない」
「美那!」
「私が吸血したら滝原くんが死んじゃうかもしれないから」
「どうして?」
「それは……」
この続きが言えなかった。
きっと滝原くんは河合さんがヴァンパイアという事を知らない。
だから、最低限の秘密は守らなければならないと思っていた。
「それは?」
「……今日は七夕だから、織姫と彦星は会えたかなぁ」
「話をはぐらかさないで。結論になってないよ」
「私、人間界に来て幸せだった。澪、怜くん、そして滝原くん……。大切な友達がいつも傍で寄り添ってくれたから」
もう、この時点で気持ちがいっぱいいっぱいに。
刻一刻と迫るお別れの時間。
そして、限界までブレーキをかけ続けている心。
どの方向から考えてみても、彼の命が失うより私がコウモリになった方が100倍マシだ。
唇をかみしめていたら涙が溢れた。
おそらく涙を流すのは今回で最後になる。
今後はこうやって感情を持つことさえままならないだろう。
やっぱり、吸血出来ない。
残りはたった一回なのに、そのたった一回は彼の命を救う事と引き換えにした。
すると、彼は言った。
「俺達はまた必ず会えるよ」
「えっ……」
「万が一、記憶が消されたとしても俺は美那を絶対忘れない」
「……っ!」
「だから早く吸血を!」
「出来ない……」
「早く血を吸って。じゃないと美那が……」
「無理! 私が吸血したら滝原くんの身体がもつかわからない」
「鉄剤飲んだから大丈夫」
「そーゆー問題じゃない!」
「じゃあ、何? 理由を教えてくれないとわからない」
「多分、滝原くんは他の人に吸血されてるから」
「誰に?」
「それは言えない」
夏都は心変わりをしない美那に焦りを感じるが時計を見た途端、気持ちは更に煽られていく。
「まずい……、残り1分しかない。その話は後でいいから先ずは吸血を」
「無理、出来ない。ごめんなさい…………」
「美那!」
涙で視界がぼやけていて彼の顔が見えない。
最後の瞬間はしっかり顔を見てお別れをしたかったのに。
この愛おしい感情は死ぬまで心にしまっておこう。
だから、私は彼の両肩にそっと両手を添えて頬に1秒程度のキスをした。
「……っ!」
顔を離した時に見えた彼の驚いた表情。
私が心がわりをして吸血をするだろうと思っていたのかもしれない。
ーーそして、残り30秒。
「ごめんなさい……。やっぱり吸血出来なかったよ」
「美那……」
「私の方こそ忘れない。ピンチを迎えた時に味方になってくれた事も、校外学習の時に川に流されていた時に助けに来てくれた事も、明け方にヴァスピスを一緒に探してくれた事も。滝原くんに一生感謝し続けて生きていくから……」
「何言って……、まずいっ!! 美那の身体が!」
ーー0時00分。
夏都はハッと目を大きく開いたまま、粉々になっていく美那の身体を瞳に映していた。
もう時間が来たんだね……。
でも、消える前に伝えなければならないひと言がある。
私が向こうに行ってしまったら、滝原くんにはもう二度と言えなくなってしまうから。
「大好きだよ。……さよなら」
「美那っ!! 美那っっ!!」
夏都の目の前で七色の光が舞うように空中に消えていった美那。
まるでCGで作られた映画のように。
そして、この目ではっきりと見届けた光景は、秒を刻む毎に記憶が整理されていった。
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