ポンコツヴァンパイアが貧血男子を好きになってもいいですか?

伊咲 汐恩

文字の大きさ
66 / 66
第八章

65.人間界

しおりを挟む

✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



「あの、大丈夫ですか?  もしもし、もしもし……。お嬢さん…………」



  ーー目が覚めたら道路に寝転がっていた。
  それは91日前と同じ。
  30代くらいの子持ちの女性が声をかけてきて目が覚めた。
  相変わらず酷い到着に思わずクスッと笑った。



「あっ、はい!  大丈夫です」



  右薬指にヴァスピスはないし、カンカン照りの太陽を浴びても身体に異常はない。
  空を見上げたらフワリフワリと舞い降りてきた桜が頬に止まった。

  やっぱり人間界に戻ってきたんだね……。

  戻ってきた実感で感無量になり、スマホとカバンを持っている両手を伸ばしてうーんと目一杯に伸びをして空を見上げてると……。

  ブロロロロ……
  右手にかけていたカバンが後方から来たバイクにサッと奪われた。
  


「う……そ……。私ったら、滝原くんと出会う事でいっぱいいっぱいになってて、ひったくりに遭う事をすっかり忘れてた!」



  びっくりするほどあの時とシュチュエーションと同じ。
  一度痛い目に遭ってるにもかかわらず学習してない自分にガッカリしたが、この先の展開がわかっている。


  彼に会えると思った瞬間。
  胸のクスクスが止まらなくなった。


  私が全力で走ってバイクを追いかけていると、隣からサッカーボールが過った。
  それが犯人の手にピンポイントで直撃してカバンとボールが落下。
  犯人は振り向きざまに舌打ちしてアクセル全開にすると、バイクは左角を曲がって去って行った。

  彼は転がってるボールを手に取って近くにいる小さな男の子に「ありがとう」と伝えてボールを渡した後、私に所へカバンを持ってきてくれた。



「大丈夫?  怪我してない?」



  滝原くんはあの時と同じ返答。
  実際は数時間ぶりだけど。

  でも、残念ながら2人の思い出は私の胸の中にしか残されていない。
  この後はすぐに倒れてしまう事がわかっているから先に聞いた。



「大丈夫だよ。でも、どうして私を助けてくれたの?」



  滝原くんと出会ってから沢山助けてもらった。
  でも、最初の1週間くらいは怜くんを傷付ける為に近付いたと言ってたけど、今はまだ怜くんに出会う前。
  見ず知らずの私の為にサッカーボールに触れて助けてくれた事が印象的に残った。
  何故なら、彼は貧血が原因でサッカーから距離を置いていたから。

  すると、彼はポケットから何かを差し出しながら言った。



「このコウモリのハンカチでケガの手当てをしてくれた子にありがとうを伝えたかったから」

「えっ……」


「どうやって手当てしてもらったのか覚えていないけど、このハンカチは君が持ち主だっていう事ははっきり覚えてる」

「……っっ!」



  本来なら消えててもおかしくなかった記憶。
  それが、紗彩からのお土産だと知った途端、嬉しくて涙が止まらなくなった。
  まさか、こんな形でプレゼントしてくれるなんて……。



「ごめん、私もどうやってケガの手当てをしたかわからないの。……でも、そのハンカチは私の物だよ」



  私は両目から涙をこぼしながら彼からハンカチを受け取った。


  ーーこうして、私たちは無事に再会した。
  楽しかった思い出も、辛かった思い出も、全てスタート地点に戻ってしまったけど、私は充分に満足している。
  だって、これからは滝原くんがサッカーをしている姿を見守る事が出来るから。


  しかし、ハンカチを受け取った途端、彼は突然力が抜けてドサッと道端に倒れた。
  私は頭の中が真っ白になってギョッと驚いた目を向ける。



「えっ……、えぇっ?!  あ、そっか!  最初のうちは貧血が酷かったんだっけ……。忘れてたよ~。すみませ~ん!  誰かぁ~、救急車を呼んでくださいっっ!」



  そして私は、再び彼に栄養を与え続ける日常が始まっていく。




【完】

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

僕《わたし》は誰でしょう

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。 「自分はもともと男ではなかったか?」  事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。  見知らぬ思い出をめぐる青春SF。 ※表紙イラスト=ミカスケ様

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...