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6.キミに触れて
しおりを挟む――翌日のランチタイム。
緊張感がほどけた生徒たちがまばらに散っている廊下を歩いている中、私は購買へ向かっていた。
一階のガラスの向こうで、刈谷くんが中庭のベンチに座っていた。
前かがみになり、スマホを持つ手が大きく震えている。
……なにか、あったのかな。
自分には関係ない。
隣に住んでるとはいえ、ただのクラスメイトだし。
素通りしようと思った。
でも、ブレザーのポケットの中にあるお助け券が、足を引き止める。
「震えてるみたいだけど、平気ですか?」
彼の隣へ立って、声をかけた。
気付いた彼は、バックライトを消して、ポケットにスマホを押し込む。
「あ……、うん。気にしないで」
私の声をバリアで跳ね返しているかのような返事だった。
そっとしておいたほうがいいのかな。
なにか深い悩みがあるかもしれないし。
頭の片隅ではそう考えていた。
けれど、彼が気にかけてくれていることを思い出したら、放っておくことができなかった。
「大丈夫だよ」
彼の耳に届くくらいの声で囁き、無意識に伸びた手は、彼の金髪を撫でた。
多分、昔の自分と重なっていた――こうしてほしかったと。
見た目よりも固い髪だった。
「えっ」
丸い目で見上げた彼。
ようやく反応があったことにほっとした。
「きょうだいが泣いてたときは、いつもこうしてたんです。辛いときは誰かがそばにいるってわかるだけで、心強いかなって」
自分も、泣きたいときはいっぱいあった。
でも、お姉ちゃんだから――。
あの頃の自分に手を差し伸べるのは、自分自身しかいなかった。
そのぶん、誰よりも辛い瞬間を知っているのかもしれない。
手を止めると、彼は目尻を下げた。
「優しいんだね」
「全然そんなことないです。なにもできないときもありますから」
教室で告白文が晒されたとき、ほとんどの人がそっぽを向いた。
自分が外野のうちの一人でも、同じようにしていただろう。
でも、いまこうしているのは、相手が刈谷くんだから。
彼は軽くまぶたを伏せて、フッと笑った。
「……そんなことされたら、好きになっちゃうかも」
思わぬ変化球に、私の胸がトクンと弾んだ。
赤く染まっていく頬。
両手でサッと隠す。
「えっ……?」
「なんてね」
彼はにこりと微笑んで、優しい眼差しで私を見つめた。
『好きになっちゃうかも』だなんて、冗談でも刺激が強すぎる。
そういうつもりで、髪を撫でたわけじゃないのに……。
「冗談……ですか?」
「笑顔が見たかったから、そう言っただけ。励ましてくれて、ありがと」
彼は立ちあがると、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でて、離れていった。
彼の残り香りが、ふわっと鼻をくすぐる。
それを追うように、右手でそっと髪を触る。
頬が緩んで、胸の奥までじんわりとあったかい気持ちが広がっていく。
「もう……」
一瞬びっくりした。
冗談でも、自分だけを見てくれる人がいることに。
少し元気になったみたいで、ほっとした。
北風が吹いて草木をさわさわと揺らし、足元の落ち葉が宙を舞った。
濁っていた心の空気に、新しい風が吹き込んでくるみたいだった。
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