4 / 226
第一章
2.写真の彼
しおりを挟む咲は個人写真を目で追いながら愛里紗に聞いた。
「小さい頃はどんな子だったの?」
「……えっと、私はね」
特に印象に残っていたのは、六年生の時に彼氏だった初恋相手の谷崎くん。
下校後は、ほぼ毎日一緒に過ごしていた。
一目惚れから発展した甘くてほろ苦いチョコレートのような恋。
六年生の時に転校してきたから一年間しか会えなかったけど、きっとあの時が一生に一度の大恋愛だった。
連絡が途絶えてもう会えなくなってしまったけど、高二になった今でも彼との思い出は胸に刻まれている。
「……どんな子、と言われたら大切なものを全力で守る子だったかな。実は大切な人がいて、いつも傍で支えていないと壊れちゃうくらい繊細な人だった。でも、彼の両親の離婚を機に引越しちゃって……」
「えっ! 大好きな彼と離ればなれに?」
「……うん。毎日恋しくて、泣いて泣いて……。なかなか思いを断ち切れなかった。今でも当時の夢を見たり、時間を忘れるくらい考えてしまうほど。昨日久々にアルバム出して見ていたら、なんか懐かしいなと思って」
「愛里紗にはそんなに大切な人がいたんだね。……で、その初恋の彼ってどの辺に写ってるの?」
「ええっ……とぉ。谷崎くんは……あっ、いたいた。この人」
愛里紗は隣から身体を寄せて、指でなぞりながらアルバムの中の彼を探して見つけたと同時にピタリと止めた。
ところが、咲は彼を見た瞬間ハッと目を大きく見開いて唇をガクガクと震わせる。
「……この人が、愛里紗の初恋相手の谷崎くん」
「うん、谷崎 翔くん。私の好きだった人」
「…………」
「お別れの日は離れたくない一心で夜遅くまで二人で神社の本殿の裏に隠れたの。結局、見つかって引き離されたんだけどね。最後は声が枯れそうなくらい思いっきり泣いたよ。私達の願いは大人には届かなくてね」
「……そう」
「あれからもう4年。今でも何度も思い出す。……谷崎くん、元気にしてるかな」
愛里紗が遠い目で思い出に浸っている間、咲は曇った表情のままアルバムを閉じた。
「……アルバム、見せてくれてありがと。もう時間が遅くなっちゃったからそろそろ寝よう」
咲は席を立って背中を向けてそう言うと、ふらりとベッドに向かって布団の中に包まった。
この時、咲の様子は明らかにおかしかったけど、敢えて触れなかった。
「うん、おやすみ」
愛里紗は部屋の照明を落として、咲に次いで一緒のベッドに潜り込んだ。
咲は二週間に一度泊まりに来てくれる。
夜、二人で同じ布団に包まりながら色んな話をする。
学校の話や、家の話や、友達の話。
そして、咲の恋バナ。
彼女とは何でも包み隠さず話せる仲だ。
でも、さっきは一緒に盛り上がってくれると思っていたのに、何故か素っ気なく感じた。
ーー翌日。
咲と母親と三人で朝食を済ませた後、咲とお互いの髪をセットする事に。
咲はドレッサーの椅子に座ると、口元を微笑ませながらこう言った。
「今日は愛里紗と同じ髪型がいいな。お願いしまーす」
「うん、任せて!」
ちなみに私の髪型とはゆるふわの片結び。
咲の柔らかい髪にヘアーアイロンを順番にあてていく。
カールは徐々に作られていき、パーマをかけたような雰囲気に。
最後はゴムの結び目が見えないように、少量だけ取った髪の毛を上から巻いてピンで止めるだけ。
簡単で可愛いく見えるから、自然といつも同じ髪型に。
ーー昨晩からやっぱり咲の様子がおかしい。
通学している今だって、髪をいじったり、物思いにふけってるようにため息をついたり。
毎日一緒にいるせいか、微々たる変化に気付いてしまう。
泊まりに来る前までは普段通りに見えたけど、気のせいかな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる