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第三章
58.グレードアップした部屋
しおりを挟むーー塾は午前中で終了。
理玖は自宅に連絡後、ファーストフード店で愛里紗と一緒にお昼ご飯を済ませた。
二人はハンバーガーを片手に昔話。
途切れる事のない会話は、まるで時計の針が中学生当時に戻ったような感覚に。
懐かしさと嬉しさで自然と笑みがこぼれた。
ファーストフード店を後にすると、そのまま歩いて理玖の自宅へと向かう。
理玖は家のインターフォンを鳴らした後、勢いよく開いた扉の奥からは、懐かしい笑顔が出迎えてくれた。
「まぁ~、愛里紗ちゃん。久しぶり!」
「おばさん、会いたかったよ~!」
理玖のおばさんとは、まるで昔からの親友のようにお互い手をギュッと両手で握り合い、キラキラと目を輝かせた。
「まぁ、見ないうちにこんなに美人さんになって。いつもうちのバカ息子が迷惑かけてゴメンね~」
「だろ~。俺の愛里紗はいつもかわいいんだよ。……って言うか、息子にバカはないだろバカは。ホントに母親かよ!」
「ほらほら。立ち話もなんだから早く上がって」
「はーい。お邪魔しまーす」
「俺の話は無視か……」
おばさんは玄関の向こうから手で招いてきたので、そのまま誘導されるように玄関に上がった。
1年ちょっと経っても、全く変わっていない。
理玖の家庭は仲がいい親子で理想的。
きっと、お嫁さんになる人は毎日笑って過ごせそう。
でも、『俺の愛里紗』って……。
別れてからもう1年以上も経っているのに、まだ理玖の所有物?
「早く俺の部屋に行こー」
理玖は階段を上りながら愛里紗に振り返ってそう言った。
だが、その隣に立つ母親はニヤリと口角を上げる。
「部屋で愛里紗ちゃんに変な事しちゃダメよ。嫁入り前なんだから」
理玖は母親の冗談を真に受けると、カーッと顔を赤くする。
「あのなぁ、それは子に言うセリフかぁ? ……ほら行くぞ、愛里紗」
「……あ、うん。お邪魔します」
「んふふっ」
仏頂面になった理玖は懐かしさに浸っている愛里紗を連れて、トントンと階段を上り二階の部屋へと向かった。
約一年半ぶりに入った理玖の部屋は、アメリカンポップ調のド派手な装飾のまま。
理玖は昔から海外に憧れていて、外国風のインテリアをちょくちょく探していた。
彼の父親は自宅の一画でアンティーク家具店を経営している。
オシャレで個性的な部屋作りは父親に影響されている。
壁にはライトで点数が表示されるダーツや、英字のカラフルなナンバープレートや、外国人の顔のイラストが入ったタペストリーが何枚か貼ってある。
床には英字のシールが貼られている赤いドラム缶のゴミ箱や、イギリス国旗の入ったクッション。
古いアメ車のブリキのオモチャが数台木目調の棚の上に飾られていて、生活感が出てしまうテレビのフレーム部分には、木目調のシールを貼り付けてしまうほど、インテリアにこだわっている。
あー、コレコレ!
懐かしい~。
机の横に置いてある、腰よりちょっと高めの縦型の信号機の事をよく覚えてる。
あれは、みんなで理玖の家におしかけていた時、友達とふざけ合っていた私がこの信号機のコンセントに足を引っ掛けて倒したら、理玖は顔面蒼白で怒ったよね。
当時はこの部屋を物珍しく感じていたけど、今は更にアイテムが増えてド派手さが倍増していた。
あー、もう一つ思い出した。
部屋があまりにも派手だから、仲間内での理玖のあだ名は《大統領》だったわ。
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