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第三章
60.将来の夢
しおりを挟む家まであと半分の距離まで縮めた頃、将来の夢が模索中の愛里紗は聞いた。
「理玖は将来の夢決まってる?」
すると、理玖は今日で何度目か分からないほどの煌めくような笑顔を向けて間髪入れずに答えた。
「あー、俺? もちろん愛里紗の旦那」
「ふざけないで」
理玖は膨れっ面の愛里紗に顔を傾かせながら近付け、まるで反応を楽しむかのようにニンマリと微笑む。
「あはは。冗談! 夢は決まってないよ、まだ」
「私も同じ……」
夢が決まってないのは自分だけじゃないと知った瞬間、ホッとした。
最近は特に周りの人から影響されていて、夢のない自分だけが置いてきぼりにされたような気分に。
理玖は遠くの夕陽に目線を移して眩しそうにしながら言った。
「人生は長いのにさ、分岐点を機に夢を決めろと言われても難しくない?」
「確かに」
「まだ分かんない。今なりたいものとか、これからやってみたい事とか。……だけど、時期が来るまで夢が見つからなければ、親父の店を継ぐのもいいかなって思ってる」
理玖の父親が経営しているアンティーク家具店に、昔一度お邪魔させてもらった事があった。
古めかしく木の温もりを感じる高級感あふれるアンティーク家具は、理玖の好きなアメリカンポップ調とは程遠い。
だから、家具店の跡継ぎを視野に入れてると知った瞬間、意外に思えた。
「へぇ、色々考えているんだ」
「だろ~。ただのバカじゃないだろ」
せっかく褒めてあげたのに、理玖は誇らしげに。
褒めるとすぐ調子に乗っちゃうんだから。
「普段はエロ本しか読んでないと思ってた」
「真面目に話していたのに、今その話を引っ張り出す?」
「あはは。冗談だって」
「イテテ……。ガラスのハートが傷付いたわぁ」
「理玖のハートならガラスじゃなくて鋼鉄製だから、この程度なら平気でしょ」
「相変わらずひでぇなぁ」
こうやって冗談を重ね、中学の頃と変わらないノリでふざけ合う。
一見ふざけてばかりのように見えるけど、理玖は案外しっかりしている。
何も見つからないままボンヤリしている私と、見つからなかった後の事を見据えている理玖とでは大きく違う。
私も頑張らないと……。
愛里紗は、理玖の隣で沈み行く夕陽を眺めながら言った。
「今日は夕陽がキレイ」
「俺もいま同じ事思った」
1年前に二人で見た光景を1年後に再び一緒に見るなるなんて思いもしなかった。
あの頃と少し違うのは、お互いの肩の高さが変わった事。
彼とは卒業を機に自然消滅しちゃったけど、肩を並べて一緒に家路へと向かっている今は、高い壁に阻まれていたあの頃よりも一歩先を歩けているような気がする。
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