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第四章
74.目を引く存在
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「理玖の学校はどう? 楽しい?」
「大好きな愛里紗が学校にいないから超寂しい」
「もーっ! また調子のいいこと言って」
夏期講習の延長線上で通い始めた塾は、始業式を迎えてから夜の時間帯に。
そして、今は塾からの帰り道。
同じく通い始める事になった理玖と二人で肩を並べて歩く。
塾からの家までの道のりは、歩道や車道を照らす街灯は少ない。
駅周辺は人通りはあるが、一本先の道を行くと人の姿はパッタリ見えなくなる。
理玖は暗い夜道を歩いて帰宅する愛里紗を気遣い、紳士的に家まで送り届けている。
帰宅時刻が遅くなったと同時にゆっくり会話する間もないから、家までの距離で簡単な日常会話を交わす程度。
夏期講習が始まる前までは、こんな日が来るなんて考えもしなかった。
母親は毎回家まで送り届けてくれる理玖がいるから安心している。
理玖は交際していた当時から私の母親とも大の仲良し。
「お母さん、ただいま~」
「お帰りなさい。……理玖くん、いつも愛里紗を送り届けてくれてありがとう。これ、少ないけど持っていってちょうだいね」
母は予め多く作った夕飯のおかずの入っている紙袋を理玖に手渡す。
理玖は受け取った紙袋の中身を確認してから、ニコッと白い歯を見せた。
「あざーっす。おばさんの作ったおかず、いつも旨い」
理玖は私の母親に対しても友達感覚に。
お気に入りの理玖に褒められている母は、満更でもない様子。
「ウフフ。気をつけて帰ってね」
母は玄関に上がった私の隣で手を振って理玖の帰りを見届けた。
私達が別れたと知った時は少し残念そうだったけど、久しぶりに再会した時は鼻歌なんか歌っちゃって。
理玖のいい所は、人の事を悪く言わないところ。
どんなに嫌な事を言われたとしても、それをうまく交わせられる器用な人。
巧みな話術によって笑いに変えてしまうほど。
お日様のような温かい笑顔の持ち主で、誰もが羨む存在。
彼の周囲には男女問わず決まったように人が集っていた。
ーー理玖とは中学三年生の頃に初めて同じクラスになった。
満開を迎えていた桜の花が踊るようにヒラヒラと舞い降りてくる、中学三年の新学期の日。
新生活の場となる教室内は、まるで他人の家にお邪魔する時のようによそよそしい。
三年生にもなると顔見知り率がグッと高い。
新しい教室の扉の向こうから次々と現れる生徒は、先に来ている仲良い友達の姿を発見すると、これからの1年に期待を寄せて喜び合った。
こうして、次々と新しいグループが誕生していく。
今日は私も新しく出来たグループの一員に。
顔見知り程度の子や、話した事のない子ばかりが同じクラスだったらどうしよう……、なんて新学期ならではの悩みが付きまとっていたから、仲がいい子が同じクラスでほっとした。
そんな中、友達と会話を楽しんでる最中、教室の一角で会話が盛り上がっている男子の声が飛び込んできた。
笑い声に反応して振り返ると、そこには目を見張るほどのイケメンが。
ーーそれが、理玖。
輪の中でも一際目を引く存在だった。
三年生に進級してから、去年同じクラスだったユカと、新しく友達になったサオリと仲良くなった。
暫くすると、サオリとカズマが交際を始め、更に一ヶ月後にはユカとアツシと付き合い始めた。
ちなみにカズマとアツシは理玖の親友。
そのせいもあって、サオリ&カズマ、ユカ&アツシ、そして私と理玖の六人で遊ぶ事が多くなった。
新グループが誕生してから理玖との距離間が少しずつ縮まっていき、周りに影響されながら理玖の独創的な世界感に引き込まれていった。
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