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第四章

77.淡い期待

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「翔くん、そろそろ中間テストの時期だよね。もう勉強してる?」

「……」


「翔くん?」

「……」


「……翔くん?」

「ごめん、ボーッとしてた。いま何て言ったの?」



  ーー夏休みが明けて間もなく1ヶ月が経とうとしている、土曜日の午前中。
  白いミニワンピースを着てオシャレをして来た咲は、翔と地元でデートをしていた。

  近所で待ち合わせた後は雑貨屋さんを周り、ハンバーグが美味しいと有名なお店でランチ。
  その後は書店に寄り、今は紅茶専門店でお茶をしている。



  翔くんは話をしても返事があったりなかったり。
  特にここ最近はずっとそう。
  何処か遠くを見つめているような目つきで、私の言葉が耳に入っていかない。

  それは、ノグちゃんと渋谷で会った直後から始まった。



「私達夕方からバイトだね。時間があるから一度家に帰る?」

「そうするか」



  翔はテーブルから伝票を持ち上げて席を立ち、間髪入れずに返事をした。



  ーー現在の時刻は14時15分。
  バイト開始時刻は17時から。

  勤務時間までまだ時間があるのに、彼は空いてる時間をどこかで潰そうとか気を利かせる事もなくレジへ向かった。

  席に取り残された私。
  そして、振り返る事のない彼。


  いま私達の間に不協和音が生じている。
  それだけは紛れもない事実。



  予想以上にデートを早めに切り上げて一度家に帰宅。
  夕方にバイト先で再び顔を合わせた。

  彼は同じフロア担当。
  客からオーダーを受けたり、料理を提供したり、空いた食器を下げたり、テーブルの後片付けをしたり、フロア掃除をしたり、レジで会計処理をしたりと、普段は真面目に仕事をこなしているけど……。

  最近はオーダーミスしたり、料理を運ぶ席やお釣りを間違えたり。
  以前からは考えられないような単純ミスばかり連発している。



  異変に気付いてるのは私だけじゃない。
  店長や他の従業員だって、どうしたのかと首を傾げている。

  客足が途絶えれば上の空。
  ノグちゃんに再会する前までの時間が何かに上書きされてしまったかのように思えるのは何故だろうか。

  彼の表情を見ているだけで嫌な予感がしてならない。

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