初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
88 / 226
第四章

86.胸のざわめき

しおりを挟む



  ーー街中で行われているハロウィンイベントがニュースを賑わせている、10月下旬。
  中間テストが終わり、返却されたばかりのテスト結果一覧表を目でなぞる。


  この一覧表には、クラス全員分の成績が記載されていて、名前が書かれているのは成績優秀者の上位五名のみ。
  総合順位 二位として名前を飾っている咲は本当にカッコイイ。
  影の努力家だし、この二年間一覧表から名前が外れた事は一度も無かった。


  でも、やっぱり自分の点数の方が大事。
  夏期講習から塾に通ったり、中間テスト前には咲と一緒に勉強したりと、前回よりは頑張ったけど、理想と現実は違う。
 
  母親がこの一覧表を手にしたら、また笑顔が消えていくのではないかと思った。



  ーー散々なテスト結果を手にして、帰宅してから軽く母親に怒られた日の夜。
  それまで心穏やかに過ごしていた私に、驚愕的な事件が起こった。



  塾の帰り道の公園前。
  辺りは暗闇に包まれている中、理玖はいつものように家まで送ってくれている。

  笑顔の合間に溜め息をつく彼に少し異変を感じた。
  最近は時間を共有する事が増えたせいか、些細な変化でも気付くように……。



  交際していた当時には気付かなかったような、癖や仕草。
  笑う時に腕を組んだり。
  照れた時に髪をクシャクシャしたり。
  言分を伝える時は、人の頭をポンポン二回軽く叩いてきたり。
  頬に現れる小さなえくぼだって、不思議と目線が吸い込まれてしまう。

  中学生当時は、気も止めなかったような何気ない仕草が心を小さく騒ぎ立てている。



  理玖は突然早足で三歩進んでからゆっくりと振り返り、こう言った。



「……俺、塾辞める。今月いっぱいで」



  平穏な日々にピリオドが打たれた瞬間、目の前が真っ暗になった。
  真っ直ぐに見つめてくる切ない眼差しは、時の流れに身を任せていた私に現実を知らしめている。
  当然、簡単には受け入れられない。



  もしかして、私が驚く顔を見たくて冗談を言ってるの?
  反応を見て楽しんでるんでしょ。
  『バカだな、本気にしちゃって』とか、いつもみたいに意地悪を言うんでしょ。


  冗談じゃなかったとしても、塾を辞める事を大袈裟に考え過ぎかもしれない。
  もう二度と会えなくなる訳じゃないし……。

  塾には一人で行って一人で帰るだけ。
  街灯に照らされた二つの影が、たった一つになるだけ。
  ただ、塾の帰りに会えなくなるだけ。



  でも、どうしてかな。
  胸のザワメキが収まらない。
  谷崎くんとの辛い別れを経験しているだけに、別れに対して素直に割り切る事が出来ない。



「冗談でしょ……」



  信じたくないせいか目を泳いでいる。
  理性を保とうとしたけど、感情がコントロール出来ない。
  すると、理玖は黙ったまま『冗談じゃない』と言ってるかのように首を横に振る。



「塾はまだ通い始めたばかりだし、そんなに早く辞める訳がない」

「愛里紗」


「またいつも通り笑わそうとしてるだけでしょ。……バカにしないで」

「聞いて」


「理玖の考えなんてお見通しだよ。冗談なら冗談って素直に言えばいいじゃん」

「愛里紗……っ」



  理玖は耳を貸そうとしない愛里紗の左肘を軽く引き寄せる。
  すると、愛里紗の瞳の中に理玖の顔が大きく映った。



「お願いだから聞いて」



  いつになく真剣な表情は冗談だと信じて止まない愛里紗の暴走をピタリと制止させる。
  聞き入れ体制が整うと、理玖は掴んでいる手をゆっくり離した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...