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第五章

96.悪びれる様子のない彼

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  理玖は十メートルほど先の校門で愛里紗を発見すると、女子集団の一歩前に出て振り返りざまに言った。



「じゃあ、ここで解散~」

「えーっ。もう行っちゃうの?」

「何処に行くの?  まだ一緒に居たいよぉ」


「んー、ゴメンっ!  バイバイ!」



  集団の輪から外れると彼女達にご機嫌な様子で手を振り、愛里紗の元へ駆け寄る。
  すると、直前まで同行していた女子集団は諦めたように校舎へ戻って行った。



「お待たせ~」



  理玖は愛里紗の手前で足を止めて俯いてる顔を覗き込む。



「待たせちゃった?  ゴメンね。ちょっと忙しくて。……あれ、今日はオシャレして来てくれたの?  そのスカートかわいいね。似合ってる」



  久しぶりの明るい笑顔だけど反省の色が滲み出ていない。
  だから、人知れず握りしめていた拳に圧が加わる。

  なによ……。
  私の気も知れずに。
  普段は『愛里紗、愛里紗』ってベッタリなクセに、さっきは鼻の下なんか伸ばしちゃって。
  忙しいと言っても女子集団と戯れてただけでしょ。



  愛里紗は待ちくたびれた上に悪びれる様子を見せない理玖に、機嫌を損ねてプイッと顔を背けた。



「帰るわ。バイバイ」

「遅れてごめんって!  タイミングが悪くて……」


「理玖は相変わらずだね」



  愛里紗は気持ちの処理が追いつかなくてサラリと嫌味を言う。
  だが、理玖は不機嫌な態度を見るとニヤリと微笑む。



「……あれ、イライラしてる?  ひょっとしてさっきの女子達に妬いちゃった?」

「ヤキモチなんて妬いてない!  よく考えて。理玖が遅れた時間は12分27秒。でも、私が待っていたのはその10分31秒前だから、正確に言えば22分58秒も待ってたの!」


「細かっ!  ……ってか、数学苦手なのによくそんな早く計算出来たな。約束の時間は11時のはずだったけど、10分前から待っててくれたって事?」

「約束したのに遅れちゃったら悪いかなぁと思って。……でも、もういい。帰る」



  愛里紗は機嫌を損ねて背中を向けると、理玖は愛里紗の頭を包み込むように頭をポンポン二回叩いた。



「わかった、わかったから……。ゴメン。ほら、せっかく来てくれたんだから行こ」

「……もう」



  どうやら私は笑顔と頭のポンポンに弱いらしい。
  許すつもりなんてないのに都合良く交わされてる気がする。



  今日の理玖は黄色のパーカーに制服のスラックス。
  校門で待ってる時に同じパーカーを着てる人を何人も目にしたから、クラスで一括購入したものと思われる。



  理玖の案内でアーチを潜り校内へ入った。
  廊下で一般の来場客とちらほらすれ違うものの、クラスパーカーを着た理玖と私服姿の私が並んで歩いてるせいか少し目立っている。

  更にあの理玖の連れだけに、噂をしている声が耳に入る。



「理玖のクラスの出し物は何?  担当は何してるの?」

「俺のクラスは焼き鳥屋。買い出し担当だったから、もうやる事なし」



  たわいもない話をしつつも、校内をぐるりと一通り周った。
  お好み焼き屋、お化け屋敷、ゲーム屋さんクイズ屋さん。
  そして、理玖のクラスの焼き鳥屋さんにも行った。


  教室に入ると、理玖はクラスの男子達に取り囲まれて冷やかされる。
  でも、恥ずかしがったりする事もなく大胆に肩を組んできて『内緒の関係』なんて言って、場の空気を逆手に取ったりして。

  本当は普通に友達だけど、みんなが盛り上がっていたから空気を読んでムキになるのをやめた。

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