97 / 226
第五章
95.誘われた文化祭
しおりを挟むーー朝晩の寒暖の差が激しくなり、厚手の上着を羽織るようになった、11月初旬。
今は塾からの帰り道。
つい先日まで街灯に照らされて揺れ動いていた二つの影は、理玖が塾を辞めた日を境に一つになった。
家に到着するまで賑やかに笑いあっていた声は、もう過去のもの。
夜空がキレイ。
こうやって空を見上げて帰宅するようになったのは、つい最近のこと。
今まで当たり前のように思えていた事は、時の流れと共に一つ一つ消えていくのかな。
先日、理玖に『どうしても学園祭に来て欲しい』と誘われた。
彼が通う英神高校は、私が通う高校よりも偏差値が少し上。
高校受験に失敗しなければ、私もそこの生徒の一員だった。
英神高校は駅から徒歩圏で校舎も建て替えたばかりでとても綺麗。
何より気に入っていたのは制服。
紺色のブレザーにエンジ色のリボンにグリーンベースのチェックのスカート。
制服が可愛くて有名だから、受験生には絶大な人気があった。
ーー理玖とは11時に校門前で待ち合わせ。
私服姿で受付を済ませてから校門前に立っていると、学校見学の中学生や、同年代の学生や、生徒の家族等の来場客が次々と横を通り過ぎて行った。
その中にぽつんと一人で待っている私。
受付で貰った学園祭の冊子はひと通り目を通した。
現在の時刻は11時9分。
約束の10分前にはスタンバイしていたから、待機時間は実質19分。
賑やかしい他校に一人きりって結構孤独なのに。
腕時計に穴が開きそうなほど何度も目を通しても、理玖は一向に姿を現さない。
もしかして約束の場所に来れないような事情があったりして。
怪我をして病院に運ばれたとか?
ううん、さすがにそれは大袈裟に考え過ぎかも。
それとも、私が約束の時間を間違えた?
でも、SNSメッセージを何度も読み返しても11時に校門前って書いてあるのに。
遅いよ……。
連絡の一本でも寄越してくれればいいのに。
愛里紗はシュンと落ち込んでいると、遠くからキャーキャーと一際目立つ女子の黄色い声が耳に入った。
声は徐々に接近。
校内は学園祭で賑わっているが、一般来場客の声をかき消してしまうほどパワーがありふれている。
愛里紗は芸能人でも来てるのかと思って振り返った。
すると、目線の先は七~八人くらいの女子が円になっている。
しかも、中心人物に順々に語り合いながらこっちへ向かってくる。
な~んだ、芸能人じゃなくてただの仲良しグループか。
なんて思いながら、再び腕時計に目を向けると、女子集団の会話の内容が耳に飛び込んできた。
「ねぇねぇ、今からどこ行くの~?」
「ナイショ」
「私も校内を一緒に回りたい!」
「また今度」
「今度っていつよぉ。いま一緒に回って~」
「あはは。今は忙しいからゴメンね」
一瞬、聞き覚えのある声に意識が吸い込まれた。
軽いタッチの語り口調に聞き覚えのある声。
まさかと思って半信半疑で再び集団の方へと目を向けると……。
「友梨ちゃん。今日も巻き髪が決まってるねぇ。かわいい~!」
「やっだぁ、理玖ったら褒め過ぎ」
「ねぇねぇ。桃菜の髪型は褒めてくれないの?」
「だって、桃菜ちゃんのいいところは髪型だけじゃないし」
「じゃあ、唯香のいいところも教えて~」
「唯香ちゃんのいいところはね……」
そこには、招待されて遊びに来た私と約束をしているはずの理玖の姿が。
私を一人で待たせておいて自分は両手に花。
理解不能な現状に呆れて口が塞がらない。
理玖が女子集団と親しげにおしゃべりをしている間、私は学園祭を楽しみにしている来場客を横目で羨みながら健気に待っていたのに……。
約束時間の10分前には到着してたのに。
今日は誕生日に貰ったハートのネックレスを着けてきたのに……。
なんか、自分一人だけが期待してるように思えて悔しくなった。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる