初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
116 / 226
第六章

114.再会

しおりを挟む



  愛里紗は駅の改札を出てから1分ほどで咲のアルバイト先に到着。
  全面ガラス張りの店内は、ロールカーテンが半分まで閉ざされていて中の様子が伺えない。
  咲と来店した頃を思い浮かべながら、重いガラス扉に手をかけてゆっくり押し開けた。



  チリン……チリン……

  ガラス扉の上部のドアベルが鳴ると、女性従業員が店の奥からサッとやって来た。
  彼女はもちろん咲ではない。



  電車の繋ぎがスムーズだったお陰で時間はまだ17時前。
  予定よりも少し早く到着した。
  軽く店内を見回しても客は二組程度。
  従業員はいま出てきた女性しか見当たらない。



「いらっしゃいませ~。お客様はお一人様でいらっしゃいますか?」

「あっ、はい」


「お席へご案内します。こちらへどうぞ」



  戸惑う私に明るい声と笑顔で出迎えてくれたのは、白いシャツに黒のベストとパンツ姿の20代前半くらいの女性店員。

  左手二つ先の窓側の四人席に案内されると、鞄から出した英語のノートとイチゴ飴を重ねてテーブルの右側に置いた。
  久しぶりに入った店内でソワソワしながら、オシャレな西洋風の店内を見回す。



  追いかけるように学校を出て来たけど、出発する時間が遅かったから勤務前にノートを渡せなかった。
  咲は私がここに来てる事を知ったら驚くかな。

  でも、今回ばかりは仕方ないよね。
  ノートが無くて勉強に支障が出たらシャレにならないし。
  迷惑かもしれないけど、理由が理由だけに許してくれるよね。



  愛里紗は日が傾き始めている窓の外の景色を眺めていると、窓に映し出されている自分の側に従業員の姿が映った。



「いらっしゃいませ。こちらメニューとお冷になります。ご注文がお決まりになりましまら、お手元のブザーを押してお呼び下さいませ」

「あっ、はい」



  頭上から接客してきた声は男性従業員。
  手際よくテーブルにメニューが置かれたと同時に、窓からテーブルへ移した目線の先にちょうどお冷が置かれた。

  ……と、その時。

  フワッ……


  以前、何処かで嗅いだような香りがふと漂った。

  あれ……?
  またあの香り。
  懐かしいような。
  甘く切なくて、何処となく胸を締め付けるような……。



  心が惹きつけられるような香りに遭遇すると、元を辿るようにテーブルの隣に立つ男性従業員に目を向けた。

  すると……。
  仰天するように佇んでいる彼と目と目が合った瞬間、今までに感じた事のないような最大級の胸の高鳴りに襲われた。



  それは。

  それは……。

  衝撃的な再会だった。



  目の前に立っていたのは、長年恋に焦がれながら待ちわびていた相手。

  そう……。
  瞬きを忘れてしまうくらい目線が貼り付いてしまった人物は、初恋相手の翔くん。
  引っ越しを機に音沙汰が無くなってしまった翔くんが、いまこの店の従業員に。



「う……そ……」



  長い歳月の間離れていても、当時の面影はしっかり残っている。


  この香り……。
  いまようやく思い出したよ。
  先日、この店の前を通り過ぎた時に思い出せなかった香りは谷崎くんだったんだね。
  何かを感じて足を引き止めたのに……。



  愛里紗と翔がお互い目を合わせた瞬間、夢ではないかと疑った。
  意識を奪われてしまったかのように開いた口が塞がらない。



  谷崎くん、会いたかったよ。

  ずっと。
  ずっと、ずっと会いたかったよ……。

  少し癖っ毛な黒髪も。
  長いまつげで目を細めながら見つめる瞳も。
  昔はあんなに細かったのに、今はがっしりした身体も。
  雪の日に寒そうにしていた手をギュッと握りしめてくれた細くて長い指先も。
  一番近くで名前を呼んでくれた声も。
  あの時『手紙を書くよ』と言っていた唇も。
  いつしか忘れてしまっていた恋の香りも。


  全部全部……。
  谷崎くんじゃん。


  私達ようやく会えたね。
  でも、『会いたかった』のひとことが言えない。

  その理由は、いま一途に愛してくれる大切な人がいるから……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

処理中です...