初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
143 / 226
第七章

141.最後の別れ

しおりを挟む



  ーー大晦日前日。
  翔はイタリアンレストランの勤務終了後に、同日シフトに入っている従業員一同に別れの挨拶を告げた。



「今日でここを辞める事にしました。今まで大変お世話になりました」

「残念ね。今井くんが辞めちゃうと女性客が減っちゃいそうね」



  女性マネージャーは残念そうにフッとため息をつく。
  翔と慣れ親しんだ従業員一同も、最後のお別れに寂しそうな表情を浮かべて翔を労った。

  同日、シフトに入っている咲は、輪の中に入りながらも声をかけるどころか顔を上げる事が出来ない。
  別れに納得してないが、もう何をしても心が動じる事がないと思っているので、ただ傍で話を聞く事しか出来なかった。




  ーー12月下旬に愛里紗と念願の再会を果たした翔は、終業式の日に咲と別れてから毎日思いふけっていた。

  街を出てから、約束していた手紙を送り続けても愛里紗とはコンタクトがとれなかった。
  音沙汰がなかったせいもあって、頭の片隅では何処かで諦めをつければならないと思っていた。



  連絡がつかない現実を受け止めようと思い、咲ちゃんと交際する事に。
  彼女を選んだ理由は、複雑な家庭事情に苦しんでいた数年前の自分と重なって見えたから。
  俺が愛里紗に心を救ってもらったように、今度は自分が誰かの支えになれればいいなと考えていた。

  咲ちゃんに愛里紗の姿を重ねて、自分なりに忘れる努力をしているつもりだった。


  しかし、幾度となくデートを重ねても恋心は動かない。

  愛里紗に恋をしてた頃のように、ワクワクドキドキしたり、怒ったり泣いたり、小さな事でムキになったり、些細な事でも嬉しかったり、傷付いた時には心配して寄り添ってくれたり。

  当時は人生の中で最もかけがえのない時間を過ごしていたし、甘酸っぱい恋の味を知ってしまっているだけに、心に浮き沈みのしない恋愛に魅力を感じなかった。



  そんな中、奇しくも渋谷で野口と再会。
  愛里紗と再会への道筋にひとすじの光が差し込んだ。

  咲ちゃんと野口は同じ高校の知り合い。
  驚愕的な事実に悶々とする日々を送っていたが、その後偶然にもバイト先で愛里紗と再会した。

  咲ちゃんは愛里紗の親友。
  しかし、それが判明したと同時に……。



『聞いて、あのね………。彼がいま付き合ってる人なの。名前は今井翔くん。私が中学生の頃から好きな人』



  彼女は愛里紗にこう紹介した。
  1分でも長く再会の余韻に浸りたかったのに、思いもよらぬ展開に。

  その瞬間、フィルターがかかって自分の気持ち以外見えなくなった。


  でも、長い歳月を経て考え方が変わった。
  会えないじゃなくて、会いに行けばいい。
  待ってるだけじゃ何も変わらないと痛感したから。


  高二の今は、あの頃に無かった行動力が備わっている。
  神社に行けばもう一度会えるのではないかと思い、電車を乗り継いで神社へ向かった。
  そしたら願いが通じたのか、偶然にも再会。


  愛里紗は少しやつれた顔をしながら古い消印の手紙を差し出して、全て読んでないと……。
  その様子を見た瞬間、心の居場所がはっきりした。


  小六当時、学校を休んだ時に愛里紗が家に来て握ってくれた丸型のおにぎり。
  あの時は無心にむさぼった。

  それが温かくて、
  柔らかくて、
  美味しくて。

  冷えきった家庭環境に飯代だけ握らされていた幼き俺。
  こんなに旨い飯が食えるのはいつ以来だろうって。
  愛情がこもったものを口にするのは久しぶりだなって。
  そう思いながら食べていたら、米を噛みしめる度に涙が溢れてきた。


  恋の味は忘れられない。

  神社で久しぶりに愛里紗の顔を見たら、昔の思い出が溢れかえってきた。
  と同時に、自分の気持ちに正直になりたくなった。



  翔は自宅のベランダで、愛里紗とお別れの日に渡したお揃いのイルカのストラップを指に絡めながら考えていた。
  ところが、ある事を思い出した途端ハッと目を開かせた。


  そのある事とは、交際当初から聞き続けていた咲の《親友》の話。
  咲はいざという時の保険として、親友に彼氏がいる事を明かしていた。


  つい最近、親友が愛里紗と気付いたばかり。
  その恋人の存在に気付いたと同時に愛里紗との未来に新たな障害が生まれた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

処理中です...