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第七章
140.恋人つなぎの手
しおりを挟む愛里紗は恐怖を訴えるかのように、理玖のジャケットの袖を二回引き、全身冷や汗でずぶ濡れのまま弱音を吐いた。
「理玖、怖いよ……。早くお化け屋敷から出たいよ」
「お前、羨ましいくらいにお化け屋敷を満喫してんな」
「……本当にそう見える? いまマジで怖いって言ってんだけど」
私が半目涙で恐怖を訴えているのに、理玖はふざけ半分で意地悪を言う。
不満が募ってフンッと口を尖らせてそっぽを向くと……。
「お前に何があっても俺が守るから大丈夫」
理玖はさらりとクサい台詞を吐いて、いつものように頭をポンポン二回叩いた。
最近、その優しさがストレートに響くようになり、居心地の良さを実感していた。
ーー楽しかった遊園地デート。
いっぱい乗り物に乗った。
理玖が選ぶ乗り物は絶叫系ばかりだったから、怖くてずっと叫んでいて喉がカラカラ。
お化け屋敷は怖くて最後に泣いた。
そしたら頭をヨシヨシしてくれた。
一本のコーラを飲み合い、二人で分け合ったポテトはたまに奪い合い。
でも、子供のように「あーん」って口を開けたら、理玖がポテトを口に入れてくれたからおあいこかな。
今日は理玖のお陰でいっぱい笑った。
最近お目見えしてなかった可愛らしいえくぼも沢山見れた。
現実を忘れたかのように夢中になって遊べたお陰で、湿っぽい気分も一掃できた。
閉園の時間になって、一斉に大勢の人が門に向かって歩き、流れに乗っていた私達も次第に口数が減る。
「荷物貸して。持ってやるよ」
「いいよ。これくらい持てるから」
「お前の手は今から忙しくなるから俺が持つって」
「えっ……。私の手? 全然忙しくないよ」
理玖は荷物をヒョイと持ち上げると、愛里紗の手に指を絡めた。
「ほら、忙しくなったでしょ」
と、恋人つなぎの手からはじんわりと温もりが伝わってくる。
隣から見上げると、彼は今日一日が本当に楽しかったように鼻歌を歌っていた。
ーー家に着く頃はすっかり日も落ちていた。
私の家の前に到着すると、理玖は私の両肩にポンと手を置く。
「少しは気ィ紛れた?」
最近元気がなかった私の気分を伺うかのように、ニコッと笑顔を向ける。
その瞬間、好きなものや苦手なものまで色んな乗り物に乗ったりあれこれ連れ回したのは、私を励ます為だと知った。
理玖の優しさが更に心を惑わす。
それと同時に、裏切り行為が強く胸に突き刺さった。
こうやって幸せを噛み締めながらも何か欠けているように思うのは、ケンカ別れをした咲が気になっているから。
本当は喧嘩をしたあの日から後ろ髪を引かれている。
信頼していた分、乗り越え方がわからない。
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