初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第七章

159.恋の力

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  ーー1月下旬の今日。
  天気は昼前から雪に変わった。

  しんしんと降る雪が窓に模様を描いていく。
暖房の効いている教室は、外気温との差が生じて窓が結露している。

  その窓ガラスに指で相合傘を書いて、いたずら書きをする男子。
  好きな子の名前を書かれた他の男子は、焦って手をワイパーのようにしていたずら書きを消していた。

  そんな様子を着席したままクスッと笑いながら横目で見ていると、財布を持った咲が横から現れた。



「愛里紗~!  今日はお弁当じゃない日だよね。お昼ご飯一緒に買いに行こう!」

「うん、行こっか」



  咲の顔のアザの跡はすっかり消えて、手足の捻挫は少しずつ回復。
  私は机の横のカバンを開いて財布を取り出して、廊下へ向かった。


  中庭で話し合いをしたあの日以来、底辺だった関係は右肩上がりに。
  翔くんとの思い出はもちろん大切だけど、倍近い時間を重ねてきた友情も大切。

  咲と喧嘩して話せなかった時間は苦痛でしかなかった。
  だから、本音でぶつかり合えた分とても幸せだ。



  廊下に出てから、寒さで身を縮こませながら急足で購買に向かった。
  すると、咲はワイシャツの首元からチラリと覗かせているネックレスに気付く。



「ねぇ、理玖くんからプレゼントしてもらったそのネックレスって毎日身に付けてるの?」

「うん、これは宝物。だから、毎日肌身離さずつけているんだ」



  愛里紗はそう言いながら人差し指でネックレスをクイッと軽く引き出す。
  咲は久しぶりにネックレスを間近で見ると、羨ましそうに言った。



「理玖くんって本当にセンスいいよね。そのネックレスすっごくかわいい」

「えへへ、私も気に入ってるんだ。フックが少し弱っているから、新しいのを買って修理しないと」


「宝物だから落とさないようにしないとね」

「うん。今日買いに行こうかなぁ」


「一緒に見に行こうか?」

「ううん、大丈夫だよ!  塾の前にアクセサリーショップに寄っていく事にするよ」



  咲は引き続き恋を応援してくれる。

  翔くんと衝撃的な再会を果たしても、理玖が大切な人には変わりない。
  交際は順調だし、あれから何一つ変わりない。
  このネックレスは私が彼女だという証。
  だから、毎日大切に身につけている。



  生徒がわんさかと押し寄せている購買に到着すると、それぞれ選んだパンと牛乳を手にして会計の列に並んだ。
  すると、咲の頭上からゆっくりと焼きそばパンが垂れ下がってくる。



「これ、やるよ」



  咲と同時にパンを持つ手を辿っていくと、そこには木村が。



「えっ!  木村くん、これ……」

「ちょっと買い過ぎただけ。いっぱい食べて栄養つけて、早く怪我を治せよ」


「あっ、ありが……」



  ……と、焼きそばパンを受け取った咲がお礼を言ってる最中、木村は顔を真っ赤にしながら逃げるように走り去った。
  それがあまりにも一瞬だったから、私達は拍子抜けしてポカンと口を開けた。



「どうしよ……。貰っちゃってもいいのかなぁ」

「いーの、いーの。貰っときな。……あいつ、なかなかやるじゃん」



  私と咲は、木村の粋な計らいにクスッと笑い合った。
 
 
  ーー咲が転落事故を起こした時。
  木村は私よりも先に咲の元へ向かった。
  血相を変えながら階段を一段飛ばしで駆け寄って咲の耳元で呼びかけ続けていたのが印象的だった。

  その上、パニックを起こして立ち往生している私に先生を呼びに行くように指示してくれた。


  その後は自分を責め続けていた私を励ましてくれたり、代わりに私の自宅へ電話をかけてくれたり、昼食を買ってきてくれたり、意識が戻らない咲を心配し続けたり。

  咲が足を引きずりながら登校するようになってからも、教室の外から温かい目で見守っていた。

  そういう一面を見ていたら、恋の力って凄いなって。
  好きな人を支えるというのは、こーゆー事なんだって身をもって知った。

  だから、そう遠くないいつか……。
  木村の想いが咲の心に届きますように。

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