初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第七章

158.18歳の約束

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「それなら、彼女と目と目を合わせて真摯に向き合ってみたら?」

「えっ……」


「父さんみたいに逆転が見込めないならまだしも、お前にはまだチャンスがある。未来を切り拓くのも幸せを掴みに行くのも、結局は自分次第なんだよ」

「自分……次第……?」


「そう。お前の気持ちが後ろ向きだったら、見ようとしていたものは更に見えなくなる。だから、一度本気でぶつかってみたらどうかな」

「父さん……」


「後悔して欲しくない。いつまで経ってもお前は大事な息子に変わりないから……」



  長い間離れて暮らしていても、父さんはやっぱり俺の父さんで。
  新しい家庭を持っても、別々に暮らす息子を未だに気にかけてくれて、俺が傷付かないように……。
  そして、前向きになれるように心を支えてくれる。



  俺は父さんの気持ちも知ろうとしなかった。
  寂しい気持ちに拍車がかかっていたせいか、父さんはこういう人なんだと決めつけて勝手に嫌悪感を抱いていた。

  身体はもう大人に近付いているのに、心は身体ほど追い付いていない。
  だから、言った。



「俺、ずっと一人で悩んでて答えが見つからなかった。彼女に会えない不安から会える喜びに変わって。でも、気付いたらその場で足踏みしてて。……そうだよな、父さんの言う通り。幸せは自分で掴みにいかなきゃダメだよな」

「お前なら後悔しない人生を送れるはずだ。今日は逞しくなった姿を見て安心したよ」


「父さんはいま幸せ?」

「あぁ。娘の成長を見守る毎日がとても幸せだよ。お前の事も大切に思っているけど、娘も同じくらい愛してる。だから、代わりに母さんを頼むよ」



  父さんはそう言って、ほっこりとした笑みを浮かべた。
  再会したばかりの情けない姿はもうそこに存在しない。

  幸せそうな表情から今の暮らしっぷりが伝わると、何処かホッとしている自分がいた。
  お互い別々の道を歩み始めたとしても、親子には変わりない。

  もし、父さんが会いに来なければ、俺は何も知らぬまま憎み続けていたかもしれない。
  今回、現実に目を向けるキッカケを与えてもらえた俺自身にとっても大きな成果に……。



  父親は話に一区切りつくと、ふと何かを思い出したかのように横に置いてある鞄を両手でガバッと開き、中をゴソゴソとあさり始めた。



「……忘れるところだった。翔、1週間遅れになったけど、17歳の誕生日おめでとう」



  鞄の中から取り出した物を翔の目の前にスッと差し出す。
  それは、白い包装紙に金のリボンが巻かれてラッピングされている細長い箱。



「父さん、俺の誕生日を覚えていたの?」



  粋な計らいがとても嬉しかった。
  照れ臭く受け取って包装紙を開いて箱の蓋を開けると、中にはブラウンのレザーベルトで英数字の金の文字盤のシンプルな腕時計が入っていた。
  思わぬサプライズに感極まって鼻の奥がツンと刺激される。



「大事な息子の誕生日を忘れる親なんていない」

「会いに来ただけでも驚いたのに、誕生日プレゼントまで……」


「来年成人式を迎えたら、母さんと三人で家族写真を撮ろう」

「えっ……」



  俺は意外な提案に驚き目を丸く見開いた。



「成人式まで残り1年。父さんは家族写真を撮れるように母さんにお願いし続けるよ。お前を探し出すのは遅くなってしまったけど、父親としての務めを果たしたい。父さん達は離婚したけど、お前が愛されて育った子の証として成人の門出を見届けたい」



  即答する余裕が欲しかったけど、残念な事に震えた口元からは次の言葉が出てこなかった。



「……その約束を破ったら、もう二度と許さないから」

「ありがとう……。離れていてもお前の父親には変わりないから、何かあったらすぐに相談するんだよ」



  そう言って連絡先を渡してきた父さんは、目元を潤ませて最後の瞬間まで俺の父さんでいてくれた。

  最初は、どうして今さら現れたんだって突っぱねていたけど……。
  別れ際には会いにきてくれてありがとうって、素直に思った。

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