初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

文字の大きさ
171 / 226
第八章

169.逆恨みの理由

しおりを挟む


  突然初対面の翔に連れ去られた理玖は、マフラーで首が締まっていく苦しみから解放する為に翔の手首を掴んで振りほどいた。



「あんた、何なんだよ!  いきなり胸ぐらを掴みかかったり、マフラーを引っ張って無理矢理連れ出したり。俺に一体何の用だよ!」

「お前に大事な話があるから来たんだ」



  理玖はイマイチ状況が飲み込めずに牙を剥いたが、翔は凍てつく目つきでキッパリと言う。



「で、大事な話って?  俺はあんたに恨まれる理由が見つかんねぇし」

「お前……。本当に恨まれる理由がわからない?  なら、自分の胸に聞いてみろ」


「知るかよ。……ってか、あんたは誰?  俺の事知ってんの?  俺はあんたを知らないけど」

「いや、俺もお前をよく知らないけど、最近少し知ったばかりだ」


「結局どっちなんだよ……。仕方ねぇな。話を聞いてやるから、もうマフラーを引っ張っんなよ」



  不服そうにそう言うが、翔のモノ言いたげな眼差しからある程度の理解を示して一旦我慢する事に。
  そして、無意味な衝突を避ける為に、不機嫌な翔の背中に渋々ついて行った。



  翔は学校から約3分ほど歩いた住宅地の長階段で翔は足を止めて五段先の手すりに手をかけると、表情を変えぬままゆっくり振り返って目線を合わせた。

  翔は心を決めていた。
  話し合いの目的はただ一つ。


  真冬の冷たい風を浴びながら冷静な目を向け合う二人は、それぞれの想いが交錯している。
  翔は先ほどの軽薄な言動が脳裏に過ぎると、カッとするあまり階段を下って理玖の胸ぐらを掴み上げた。



「お前、愛里紗を大事にしてないのかよ。愛里紗という女がいるのに、よくもヘラヘラとしながら他の女にちょっかい出せるな」



  翔は全身まで行き渡らせるような怒声を浴びせた。
  同じ学校の女子に軽薄な言動をしたり、愛里紗にキスを強要した唇一つすら憎く思っている。

  一方の理玖は、翔の口から名前が出た瞬間、愛里紗と関わりがある人物と知って驚いたが、すぐさま両手首を掴んで身体から引き離した。



「何度も胸ぐら掴んでんじゃねーよ。あんたは愛里紗の知り合いなの?  ……ってか、何で付き合ってる事を知ってんの?  一つ言わせてもらうなら、俺は他の女になんてちょっかい出してねぇし」



  理玖にとって愛里紗の名前は起爆剤だった。

  中学校の卒業を機に自然消滅した後、愛里紗を忘れる為に何人かと交際したが、代わりが利かない恋に満たされる事はなかった。
  そして、再会した瞬間恋心は失っていないと思い知らされる事に。

  だから、今度こそは失敗を繰り返さぬように、ゆっくり時間をかけて再び距離を縮めた結果、努力が実を結んで念願の恋人に。
  二度目の交際は、慎重な分他人に介入して欲しくないと思っていた。



  理玖からの反撃により、場は緊迫感がより一層増す。

  理玖は翔の背中を追って歩いていた時から、わざわざ学校まで調べ上げてまで会いにきた翔が、一体どういった人物なのか、自分との関係性や関連性など、あれこれ考えを思い巡らせていた。

  すると、翔は不満気な目のまま言った。



「愛里紗は俺の大切な人。だから、さっきのお前の言動が見過ごせなかった」

「あんた、何言ってんの?  愛里紗はあんたの大切な人以前に、俺の大切な女なんだけど」


「愛里紗が大切なら、どうして他の女に愛想を振りまいてたんだ」

「え……?  別に愛想なんて振りまいてないけど」


「女を褒めちぎっていた事を覚えてないのかよ」

「別にいつも通りだけど」



  翔に気にかかっていた事が、理玖にとっては普通の事。
  上手く噛み合わない会話すらストレスに感じている。



  こいつ……。
  散々女を褒めちぎってたクセに平然とした顔でいつも通りって。
  普段からあんなにチャラいのかよ。



  翔は物怖じしない態度にイラついてワナワナと身を震わせ始めたが、3日前の件をふと思い出すと更に拍車がかかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛

ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。 そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う これが桂木廉也との出会いである。 廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。 みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。 以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。 二人の恋の行方は……

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

処理中です...