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第八章
169.逆恨みの理由
しおりを挟む突然初対面の翔に連れ去られた理玖は、マフラーで首が締まっていく苦しみから解放する為に翔の手首を掴んで振りほどいた。
「あんた、何なんだよ! いきなり胸ぐらを掴みかかったり、マフラーを引っ張って無理矢理連れ出したり。俺に一体何の用だよ!」
「お前に大事な話があるから来たんだ」
理玖はイマイチ状況が飲み込めずに牙を剥いたが、翔は凍てつく目つきでキッパリと言う。
「で、大事な話って? 俺はあんたに恨まれる理由が見つかんねぇし」
「お前……。本当に恨まれる理由がわからない? なら、自分の胸に聞いてみろ」
「知るかよ。……ってか、あんたは誰? 俺の事知ってんの? 俺はあんたを知らないけど」
「いや、俺もお前をよく知らないけど、最近少し知ったばかりだ」
「結局どっちなんだよ……。仕方ねぇな。話を聞いてやるから、もうマフラーを引っ張っんなよ」
不服そうにそう言うが、翔のモノ言いたげな眼差しからある程度の理解を示して一旦我慢する事に。
そして、無意味な衝突を避ける為に、不機嫌な翔の背中に渋々ついて行った。
翔は学校から約3分ほど歩いた住宅地の長階段で翔は足を止めて五段先の手すりに手をかけると、表情を変えぬままゆっくり振り返って目線を合わせた。
翔は心を決めていた。
話し合いの目的はただ一つ。
真冬の冷たい風を浴びながら冷静な目を向け合う二人は、それぞれの想いが交錯している。
翔は先ほどの軽薄な言動が脳裏に過ぎると、カッとするあまり階段を下って理玖の胸ぐらを掴み上げた。
「お前、愛里紗を大事にしてないのかよ。愛里紗という女がいるのに、よくもヘラヘラとしながら他の女にちょっかい出せるな」
翔は全身まで行き渡らせるような怒声を浴びせた。
同じ学校の女子に軽薄な言動をしたり、愛里紗にキスを強要した唇一つすら憎く思っている。
一方の理玖は、翔の口から名前が出た瞬間、愛里紗と関わりがある人物と知って驚いたが、すぐさま両手首を掴んで身体から引き離した。
「何度も胸ぐら掴んでんじゃねーよ。あんたは愛里紗の知り合いなの? ……ってか、何で付き合ってる事を知ってんの? 一つ言わせてもらうなら、俺は他の女になんてちょっかい出してねぇし」
理玖にとって愛里紗の名前は起爆剤だった。
中学校の卒業を機に自然消滅した後、愛里紗を忘れる為に何人かと交際したが、代わりが利かない恋に満たされる事はなかった。
そして、再会した瞬間恋心は失っていないと思い知らされる事に。
だから、今度こそは失敗を繰り返さぬように、ゆっくり時間をかけて再び距離を縮めた結果、努力が実を結んで念願の恋人に。
二度目の交際は、慎重な分他人に介入して欲しくないと思っていた。
理玖からの反撃により、場は緊迫感がより一層増す。
理玖は翔の背中を追って歩いていた時から、わざわざ学校まで調べ上げてまで会いにきた翔が、一体どういった人物なのか、自分との関係性や関連性など、あれこれ考えを思い巡らせていた。
すると、翔は不満気な目のまま言った。
「愛里紗は俺の大切な人。だから、さっきのお前の言動が見過ごせなかった」
「あんた、何言ってんの? 愛里紗はあんたの大切な人以前に、俺の大切な女なんだけど」
「愛里紗が大切なら、どうして他の女に愛想を振りまいてたんだ」
「え……? 別に愛想なんて振りまいてないけど」
「女を褒めちぎっていた事を覚えてないのかよ」
「別にいつも通りだけど」
翔に気にかかっていた事が、理玖にとっては普通の事。
上手く噛み合わない会話すらストレスに感じている。
こいつ……。
散々女を褒めちぎってたクセに平然とした顔でいつも通りって。
普段からあんなにチャラいのかよ。
翔は物怖じしない態度にイラついてワナワナと身を震わせ始めたが、3日前の件をふと思い出すと更に拍車がかかった。
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