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第八章
170.驚異的存在
しおりを挟む「しかも、先日は愛里紗が嫌がってんのにキスを強要しただろ」
「は? ……何の話?」
「しらばっくれんな! 3日前だよ、3日前! UFOやお前の遺伝子がどうとかって話してただろ」
「……え? えぇっと……あ~、アレか! ……って、あんたあの時俺らを見てたの?」
「ちっ、違う! ……あっあの時は、たまたま駅で二人を見かけて……」
「へぇ~、意外。結構真面目そうに見えるけど、覗きの趣味でもあるの?」
「ある訳ないだろ! お前は普段からあんな風にキスを迫ってるのかよ」
「たまたま見かけたにしては、会話をしっかり頭に叩き込んでるんだな。付き合ってんだからキスくらいするだろ」
気持ちが逆撫でされて理玖のひと言ひと言にイラつく翔と。
怒りは頂点に達しつつも冷静沈着に意地悪を言う理玖。
若干温度差があるように見える両者の睨み合いはしばらく続く。
理玖は、翔が愛里紗を《大切な人》と言ったり、仲を詮索するような言いっぷりだったり、呼び捨てしたり。
僅かながら関係性をチラつかせると、この人物が一体何者なのか頭の中で逆算を始めた。
愛里紗が最後に付き合ったのは俺だと言っていたし、こいつと知り合ったのは最近でもなさそう。
俺らが再会したのは春だから、離れていた期間は中学を卒業してから約1年。
こいつは中学の同級生でもないから、恐らく違う学校へ通っていたはず。
だとしたら……。
理玖は記憶を遡っていくと、小学生時代から愛里紗が長年忘れられなかったある人物ではないかという驚愕的な結果に行き着いた。
しかし、思い過ごしの可能性もある。
そう思ったのは、先ほど校門から離れる時に、後ろからしきりに呼び止めていた三人組の呼び名を思い出したから。
しかも、その呼び名がとても可愛らしくて印象的だった。
だから、気持ちが先走るあまり口に出てしまう。
「さっき、あんたはクルちゃんって呼ばれてたけど、名前は来栖とか久留米なの? 聞き覚えはない名前だけど、愛里紗とはどーゆー関係?」
「……は? お前が狂ちゃんだろ?」
翔は怖い顔で即答した。
だが、先ほどまで『クルちゃん』と呼ばれていた男に『お前がクルちゃんだろ』と言われても意味が理解できない。
「……え、俺がクルちゃん? 名字は橋本だけど」
「胸に手を当てて考えてみろ」
翔はそう言うと、半怒りで身体を震わせた。
理玖は言われるがまま胸に手を当ててクルちゃんの意味を考えてみた。
……だが、当然ながら思い当たる節がない。
「やべぇ……。冗談抜きであんたの言ってる意味が分かんない」
「クルちゃんは俺じゃない! 断言出来る。お前は自分の言動を思い返せ!」
翔は先程の言動を指摘したつもりが、若干言葉足らずに。
お陰で理玖は胸に手を当てても何も思い浮かんで来ない。
行き違いな会話は、まるでコントのよう。
残念ながら、二人の話は徐行運転に。
上空に強い寒気が流れ込んでしっとり冷たく湿った空気は二人の頬を撫でたが、噛み合わない会話によってより一層冷たく吹き荒れた。
「俺がクルちゃんと言うのは理解出来ないけど、あんたがさっきそう呼ばれてたからクルちゃんだと思ってたし、あんた自身も返事してたし……」
「してないし。(結構地獄耳だな)そもそも俺にクルちゃんは関係ない」
「じゃあ、そもそもクルちゃんって一体何なんだよ」
「そんなの知るか」
翔を取り巻いていたギャル三人組がつけたあだ名は、二人の間に小さな火種を起こした。
だが、理玖がほんのりと期待していた後者は見当違いに。
やっぱり、こいつは愛里紗の初恋相手の谷崎?
遠い街へ引っ越したと噂で聞いたけど、まさか愛里紗に会いに?
だとしたら、俺にとって脅威的存在そのもの。
俺は今この瞬間からこの男が見過ごせなくなり、確認の意味を込めて聞いた。
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