184 / 226
第八章
182.二人が別れた理由
しおりを挟む「いま、ずっと……って言ってたけど。そのずっとはどーゆー意味なの」
「街を出た瞬間から今日までずっとだ」
「今日までって事は、咲と付き合っていた期間も含まれてるよね」
「……そうだ。お前と再会してから気持ちが誤魔化せない事に気付いた。別れた理由はそれだけじゃないけど、これ以上咲ちゃんと続けていくのが難しいと思った」
ーーこの瞬間、咲達が別れた本当の理由が明らかになった。
咲から『好きになってもらえなかった』としか聞いてなかったけど、別れに自分が関与してるとなると話は別に。
驚愕的な事実にショックを受けた愛里紗は、棒になった足が震え始めた。
「咲の幸せを奪ったのは私なの?」
「それは違う。付き合うも別れるも俺達の問題だから」
「ううん、少なくとも私がレストランに行かなければ、二人はまだ付き合っていたはず」
「いつかは結果を出さなきゃいけなかった。俺達はあの時が別れるタイミングだった」
「嘘! 私が壊したんだ……。親友なのに、私が咲の幸せを壊したんだ……」
「違う。愛里紗のせいじゃない。俺が……」
「ごめん、悪いけど信じられない」
愛里紗は罪悪感に戒められると、涙を浮かべながら翔の手を解いて逃げるように店を後にした。
私は高一から親友なのに、彼女の本当の苦しみが見えていなかった。
両親の離婚と翔くんと別れの原因。
いつも自分の事で精一杯だったせいか、気付いてあげられなかった。
理玖と翔くんに再会する前まで、私の一番大切な人は咲だった。
何でも言い合えて、何でも共感しあえて、どんな事でも受け止め合ってきたからこそ、失恋で負った傷の深さがどれくらいのものかわかる。
でも、その笑顔を奪ったのはこの私。
あの日、バイト先まで行かなければ運命は狂わなかったのに……。
翔は愛里紗の背中を目で置いながら荷物を手に取ると、後を追って大声で呼んだ。
「愛里紗……っ、愛里紗……」
だが愛里紗は返事をせず、滴る涙を手の甲で拭いながら改札前を通ってバスターミナルへと走った。
数メートル後ろを走る翔は、改札から乱流してくる人波に行く手を阻まれながらも名前を連呼する。
しかし、愛里紗は振り返えろうとはしない。
外は冷蔵庫のように厳しい寒さだが、愛里紗はコートと荷物は右腕にかけたまま。
寒さを忘れてしまうくらい必死に走っている。
翔は後ろでコートを袖に通しながら徐々に距離間を縮めていき、隣についたと同時に言った。
「待って! ちゃんと話をしよう」
愛里紗はこれ以上逃げれない思って、走らせていた足を観念してスピードを落とす。
「愛里紗」
「もう名前を呼ばないで」
「咲ちゃんと別れたのはお前のせいじゃない! これ以上恋人としてやっていけなかった」
「ダメ……。翔くんの話は聞けない。咲は親友なの」
「気持ちが傾かない恋愛に意味がない。それは、愛里紗と再会する前から感じていた」
「嫌……。もう、これ以上何も言わないで。お願い……」
愛里紗はそう言って、長い髪をすだれのようにして顔を俯かせた。
噛み締めた唇は血が滲みそうなくらいに痛くて。
溢れ出る涙で頭がガンガンしてきて。
鼻水をすすったら奥がツンと痛くなった。
翔くんを嫌いになるのが正解への近道だ。
私を嫌いになるくらい冷たく突き放して、別々の未来を歩んでいかなければならない。
私には傷つけてしまった咲と、心から愛してくれている理玖がいる。
だから、私から翔くんに与えられるものなんて一つもない。
話を聞いても受け入れられないし、苦しくなっていくだけ……。
「昔から気持ちがブレた日なんてない。中学生の頃に会いに行かなかった事を後悔してる」
「ごめん、私には付き合ってる人がいるから、翔くんの気持ちには応えられない」
「本気でそいつが好きなの? ……じゃあ、どうして神社で俺の背中に手を回してきた。どうして俺からの手紙を握りしめてた。何とも思っていないなら、神社に向かうはずがない。だから、あの時の本心が知りたい」
「本心? さっき『幸せ』って答えたじゃん! それが今の全てだから」
口では跳ね返してるけど、残念ながら目を合わすことが出来ない。
でも、この時点ではまだ平常心を保てていた。
何故ならまだ言い返せる口があったから。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる