183 / 226
第八章
181.5年分の想い
しおりを挟むーー右でもなく、左でもなくて中央でもない。
宙ぶらりんな気持ちに嫌気がさして5分後の自分に自信がなかったから一刻も早く立ち去りたかったのに……。
彼のひとことを受け取った途端。
ドクッ……
まるでハンマーで叩きつけるかのような強い鼓動に襲われた。
すると、固く覆っていた殻が割れてしまったかのように、虹色の記憶が溢れ返ってくる。
不意に引き離された時間。
手紙が届かなかった時間。
会えなかった時間。
恋焦がれた時間。
すれ違った時間。
そこには、離れていた約5年分の想いが刻み込まれていた。
彼の手は小学生の頃にコートのポケットの中でつないだあの時よりもずっとずっと大きくて、力強くて暖かくて……。
小さなポケットの中の大きな平和。
あの時は幸せに満ち溢れていたから、5年経った今でもしっかり覚えてる。
まるでタイムスリップしてしまったかのように遡り始めた記憶は、心の鍵をこじ開けていく。
彼の掌から温もりが身体浸透した瞬間。
トクン……トクン……
告白をしたあの日に感じていた鼓動が、再び呼び覚まされていく。
気付かぬふりをしたかった。
私にはもう別の未来が用意されているから、見て見ぬふりをしたかった。
でも、何度軌道修正しても心が言うことを聞いてくれない。
残念だけど。
認めたくないけど。
悔しいけど。
私、やっぱり翔くんが好きみたい。
間違いだらけの自分にブレーキを踏んでも走り出した恋は止まらない。
これは間違いなく恋する鼓動だから。
それまでは、道が逸れぬようしっかり光を浴びていたはずなのに。
傷付けたくないから、大事にしていこうと心に誓ったばかりなのに。
心の中は翔くんを全然忘れてない。
だから、ずっと怖かった。
気付きたくなかった。
自分の中の常識が全て覆されてしまうから。
私は彼が会いに来てくれる事をずっと待ち望んでいた。
一日に何度も自宅のポストを覗いて彼からの手紙を待ちわびていたり。
別れ際に彼から貰ったイルカのストラップを握り締めながら、神社で暗くなるまで空を眺める日が続いたり。
楽しかった思い出を思い浮かべながら、涙で枕を濡らす恋い焦がれた夜が続いたり。
彼から誕生日にもらった鉛筆で恋日記を書く手が、限界を感じて思うように進まなかったり。
空虚感に襲われていた日々は身も心も不安定だったから、知らぬ間に周りの人間も巻き添いにしていた。
しかし、ほんの僅かな幸せを噛み締めていた傍で、遊びがないくらい急ブレーキを踏み込んでみたら……。
彼の言葉の中のある部分に気が止まってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる