初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

第九章

197.唯一無二の存在

  ーー運命を左右したバレンタインの日から４日後。
  学校帰りに最寄り駅の階段でノグに遭遇した。

  バレンタインの一件から誰にも悩みを打ち明けられないまま、気持ちは悪化の一途を辿っていた。
  誰かに話を聞いてもらいたいと思っていた矢先の出来事だった。
  急ではあるが、話を聞いてもらおうと思って駅近くのファーストフード店へ誘った。


  店内に入り、窓際の席へ向かい合わせに座る。
  私はストローをつまみながら、いま現在理玖と順調に交際している事や翔くんと再会してからバレンタインの一件までを伝えた。

  ノグは小学校が一緒の翔くんと、中学校が一緒の理玖と、同じ高校に通う咲の三人を知っている唯一無二の存在だ。


  咲は何でも話せる仲だけど、翔くんの話となれば別。
  まだ恋心は健在だからバレンタインの一件は知らない方がいい。



「そっかぁ。翔と理玖が鉢合わせてケンカしちゃったか～。……辛かったでしょ」

「うん……」


「理玖とは中一と中二の時に同じクラスだったけど、怒るような人じゃなかったよ。明るくて誰にも優しくて人気者だったね。でも、翔に殴りかかろうとするなんて、相当キテたんだろうね」

「あの時は別人のようだった。理玖イコール笑顔のイメージだったから、あんなに怒るなんて今でも信じられない」


「……でもね、あんたがいま付き合ってるのは理玖なんだよ。心を決めて付き合ったんでしょ。だから、これから先もあんたの傍にいるのは翔じゃないよ」

「分かってる」


「あんたは翔への想いを断ち切ったんだから、会いに来ても惑わされちゃダメだよ」



  そう……。
  ノグの答えが正解。
  早く翔くんを忘れて、理玖と今以上に良好な関係を築いていかなければならない。


  理玖は毎日笑わせてくれるし、
  宝物のように大切にしてくれるし、
  困った時は力になってくれるし、
  心から愛してくれる。

  不足なんてない。
  私には勿体ないくらい素敵な人。

  それなのに、翔くんが出現する度に気持ちは全て持ってかれてしまう。
  頭ではわかってるのに、簡単に気持ちが切り替えられない。


  四方八方向いている自分に嫌気がさして、再びあの日の事を思い浮かべてるうちに悔しくなって涙が出てきた。



「翔の事は忘れな。離れている間に縁が切れたと思えばいい。それに、あんたが泣いてると理玖が悲しむよ。大切にしてくれてるんでしょ」

「うん……」



  人知れず悩んでいた事を打ち明けて気持ちは少し楽になったけど、翔くんを忘れない限りは同じ悩みをループし続けるだろう。