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第九章
210.謝罪
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「絡み合った指先と~♪ 二人見つめ合った笑顔と~♪」
「……あれ? その曲って、KGKのセイのソロデビュー曲の《For you》じゃない?」
「うん、最近この曲流行ってるよね。セイの魅力が存分に引き出される曲だよね。今このバラード曲に激ハマリ中なんだ」
咲が道端で口ずさんだ曲は、別れた恋人への想いを断ち切れない恋心を綴った曲。
序盤はピアノ伴奏から。
この曲は私の今の心境を語っているかのよう。
それは、口ずさんでいる咲自身も同じなのかなと思ってしまうほど。
私達は駅前のファーストフード店に入り、ハンバーガーのセットをそれぞれ注文した。
商品トレーを受け取って、空いてる二階席に腰を下ろす。
腰を落ち着かせてから袋を乱雑に開いてハンバーガーにかぶりつくと、正面の咲は両手を膝に下ろして慎ましく口を開いた。
「先日はごめんね。愛里紗の言う通り翔くんの事で悩んでた。あの時は、未だに執着してると思われたくなかった」
「私こそ配慮のない言い方をしてごめん。きっと、言いにくかったんだよね」
「謝らないで! ……私が悪かったから。愛里紗との間に溝を作っていたのは私だったし」
「そんな事ないよ」
本当は咲が悪い訳じゃない。
いくら親友と言えども、元カノの私に翔くんの話を相談しろというのは無理があった。
でも、私自身も親友としての立場と、翔くんの元カノいう立場の狭間で苦しめられていた。
それに加えて、理玖とも関係が不安定だから気持ちのバランスが取れない。
すると、咲は冷たいドリンクを両手で包み込んで言った。
「私、一人の女性として愛されたいし、心から愛せる人と一緒になりたい。だから、これからは辛い過去を捨てて前を向いていこうと思ってるんだ」
「咲……」
「中学生の頃から翔くん以外の人は考えられなかったから、簡単に忘れる事は出来ないけど、いつかは忘れないとね」
「うん」
「愛里紗の卒業アルバムを見た時に、そろそろケリをつけなきゃなって思いつつも、思いが断ち切れなくてつい思い浸っちゃった。でも、私を大切に想ってくれる人がいるからケジメをつけなきゃね」
咲はそう言うと、少し照れ臭そうにして目尻を細めた。
私は予想外の言動にエッと驚く。
「えっ、それって……」
「今はまだ次の段階へ進めないけど、いつかは木村くんの気持ちに応えたいと思ってる。……実は、毎日のように好き好きって言われて困ってるの」
「……え、ノートや教科書を借りるくらいしかアピールが出来なかったあの木村が?」
「告白された後からすれ違いざまに小声でそう言ってきたり、電話してる時に言ってきたり、ノートの切れ端に書いてそれを手渡してきたり。木村くんったら、毎日バリエーションが豊かだから参っちゃうよね」
と、咲はまんざらでもない様子であははと苦笑い。
過去の恋から卒業に向けた前向きな意思は、新しいスタートラインに立つ為の準備を始めている。
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