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最終章
219.思い出の神社
しおりを挟むーー雲の隙間から差し込む日差しが徐々に強くなって、日中は半袖一枚で過ごす日が増えつつある、大学三年生になってから1ヶ月経ったある日。
今朝、夢を見た。
内容は、転校直後に訪れた神社でクラスメイトの翔くんに初めて声をかけてもらった時のこと。
過去の夢を見たら久しぶりに胸がドキドキした。
だって、恋心は未だに健在だから。
夢を見たら神社に行きたくなった。
それが何故だかわからない。
でも、今日出向かなければ後に後悔しそうなほど胸騒ぎがした。
前回神社を訪れたのは、去年のお祭りの日。
その時は大学が夏休みに入ったばかりで、一時的に帰省していた咲がちょうど家に泊まりに来ていたから、二人で一緒にお祭りに行った。
神社は目と鼻の先であっても、なかなか来る機会がない。
今日は5月20日。
天気は雲一つない快晴。
最近、日差しが強いから外出時には日傘か帽子が欠かせない。
ーー8年前。
転校して来たばかりの私は、この場所で同じクラスの翔くんに出会って初めて会話を交わした。
あの日が私達の恋のスタート地点だった。
それがまさか数年に渡るほど長く引きずる恋になるなんて思いもしなかった。
出会った時は最高に嬉しかったけど、別れた時は人生のドン底に叩き落されるくらい悲しかった。
翔くんは、最後のお別れをしたあの日以来パタリと姿を現さなくなった。
今は接点がないから近況を知る術がない。
翔くん……。
今は元気にしてるのかな。
大学に進学したのかな。
おばさんと仲良く暮らしてるのかな。
新しい彼女……とか出来たのかな。
もう、私の事なんて忘れちゃったかな。
あの日に決別してから今日までのこの3年間、昔の輝かしい思い出だけで食い繋いでるよ。
離れ離れになってから3年の歳月が流れたのに、未だに翔くんが忘れられないよ……。
神社の鳥居を抜けて参道を少し歩くと、右側に小さな池。
更に少し進むと左側に手水舎。
正面には小さな本殿。
中央の参道を外れて白い砂利を踏み進みながら本殿の左裏側に回ると、8年前に翔くんが引っ越しする直前に二人で最後に身を隠した思い出の場所がある。
ひと気のない本殿の裏に周り、楽しかったあの頃を思い浮かべた。
「あー、懐かしいな……」
長い歳月を重ねても代わり映えのしない光景が懐かしくて、ついひとり言が漏れた。
翔くんとお別れしたあの日は離れ離れになるのが嫌でストライキをしたっけ。
当時は考え方が甘かったから、こうやって身を隠して親を困らせれば、少しは聞く耳を持ったり、引っ越しを考え直してくれるんじゃないかと思ってた。
でも、実行した時は既に遅し。
夕方に荷物の運搬を終えていから、新しい街に身を向かわせるだけだった。
あの頃は街に留まる事に全力だったし、冷静に対処できる年齢じゃなかったから、まだ最後の願いが通じるんじゃないかと信じて止まなかった。
本殿の軒下に腰を下ろして、右中指にからめた思い出のピンクのイルカのストラップと、翔くんがいない間に書き綴っていた恋日記を抱きしめながら景色を見上げて彼を想う。
翔くんと出会ってから色んな事があった。
新しい出会いがあったり、辛い別れがあったり、待ちくたびれたり。
感情の起伏が激しい毎日は幸せな思い出だけじゃなくて、苦い思い出も抱き合わせだった。
でも、物は考えようで苦境を乗り越えてこそ強くなれる自分もいた。
都合が悪くなると逃げ出しちゃうような悪いクセを持つ自分は、もうここにいない。
翔くんと別れて変わろうと思い始めたあの日から、私は何事にも勇敢に立ち向かえるようになった。
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