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最終章
222.恋日記
しおりを挟むこの恋日記は彼が長年書き続けていてくれた手紙への返信。
でも、書き始めたのは手紙を受け取るよりもずっと前。
つまり、自分の想いを一方的に書き綴ったもの。
小学生の頃に彼から誕生日プレゼントでもらった鉛筆で一日一日の心境を書いた。
「実は3年前に受け取った手紙を全部読んだの。この日記は手紙じゃないけど、翔くんからの手紙の内容を想定した返事が全部書いてあるよ」
……と、翔が恋日記を受け取ろうとしていた時。
恋日記を持つ右中指に絡まっているピンクのイルカのストラップが太陽の光でキラリと輝いた。
翔はすかさず気付く。
「それっ……」
「うん?」
「あ、……いや。これはいま読んでもいいの?」
「恥ずかしいけど読んでいいよ」
彼は日記を受け取ると、最初のページを開いて内容を目で追った。
恋日記は涙で腫れた目のまま翔くんを思い描きながら書いたもの。
私の気持ちは最後のページまでギッシリと埋め尽くしてある。
彼は一字一字を逃さぬように慎重にページをめくっていく。
空白のページを残さないくらい沢山書き綴った恋日記を隣で静かに目で追う彼を愛おしく見つめた。
会いたかった。
でも、ずっと会えなかった。
何故なら、私達二人は別れたあの日から運命という荒波に巻き込まれていたから。
私達は心が繋がっていた時間より、すれ違ってた時間の方が長かったね。
でも、ようやく会えた瞬間。
二人の仲を誰にも邪魔されないように、虹色のバリケードが張り巡らされたね。
すれ違ってる間に色んな事があった。
3年前にこの場所でお別れの言葉を伝えたから、もう二度と会えないと思ってたよ。
でも、翔くんは何度でも何年かかってでも会いに来る覚悟を決めてくれていたんだね。
ありがとう。
約束を守る為に会いに来てくれて、
9年も想い続けていてくれて……、
私の気持ちを大切にしてくれてありがとう。
ずっと、ずっと大好きだよ。
パタン……
読み始めてから数十分後。
彼は恋日記を閉じると私を見つめて言った。
「日記の最後のページ……」
「実はさっき家を出る前に書いたばかり。それを書いた時は翔くんに見せる事になるなんて思ってもいなかった。……でもね、実は最終ページに追記があるよ」
「えっ、どこに? 裏表紙に書いてある内容が最後だと思ったけど……」
彼はそう言うと、日記帳を裏にひっくり返したり、裏表紙をめくったりして確認をする。
「実はまだ書いてないの。今から追記をする場所は翔くんの心の中。そこに書いてある言葉だけじゃ足りなくなったから書き足そうと思ったの」
「へぇ、何て書こうと思ったの?」
「『ホントは日記に書いた言葉以上に愛してる』ってね。……そしたら、翔くんの心は何て答えてくれるかな」
「知りたい?」
「うん! 知りた……」
……と、言いかけていたその時。
彼は私の後頭部を手で包み込んで唇を合わせた。
3年ぶりに重なり合った唇。
私は彼の香りに包まれながら愛おしさに溺れていく……。
彼はいつも心の準備をさせてくれない。
だから、心臓はドキドキし過ぎて壊れそうになる。
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