20 / 33
19.彼女の答え
しおりを挟む――場所は、滞在しているホテルの部屋の机の前。
俺は夜景に背中を向けたまま卓上カレンダーを手に取った。
残り半月。
時は進んでいるのに、あやかとの関係は徐行運転に。
このまま時が止まることを願ってる自分と、迫りくる現実がつねに葛藤している。
「明日のパーティには必ず来てよね。花火大会へ行ったら絶対に許さないから」
誰もいないはずの部屋から聞き覚えのある声がしたので目を向けると、扉の前にはひまりが腕組みしている。
思わず呆れてため息が出た。
「どうやって俺の部屋に侵入したの?」
「このホテルうちが経営してるから鍵を借りてきたの」
「……相変わらず最低だな。俺の気持ちなんてお構いなしかよ」
俺は苛立ちを抑えた手のまま卓上カレンダーを机に置くと、ひまりは後ろからかけよってきて背中から手を回した。
「ちょっ……、なにするんだよ!」
「藍が好きなの。小さい頃からずっと……。早くあやかちゃんと別れて私だけを見てよ」
「そーゆーの無理だから」
すかさず彼女の手をほどいて暗闇を映している窓の前に立つ。
彼女はそれが癪に障ったのか、俺の横にまわって眉を釣りあげる。
「藍を追って来たのに彼女を作ってたなんて……。日本に来なければこの事実を知らなかった」
「俺はこの4年間あやかに会うことだけを考えてきた。相手が誰でさえ俺たちの仲を引き裂くことは許さない」
「なによ、それ……。私たち、婚約者なんだよ! あやかちゃんとうまくいってても最後は別れる運命なの」
「俺はそう思ってない。たった一度きりの恋なら全力を尽くしたいから」
「なに言ってるの……。私たちは大学を卒業したら結婚するのに……」
「そんなの親が勝手に決めた関係だけだろ」
「私は藍と結婚したいの。相手は藍じゃなきゃ嫌!」
「お前がそう思っていても、俺は納得してないし認めてないからな」
吐き捨てるようにそう言うと、部屋の扉を勢いよく開けて出ていった。
俺は生まれた頃から自由なんてない。
だから、1分1秒でも思い残しのないようにしていきたい。
――ホテルの中庭に到着すると、等間隔に置かれている籐のベンチに座る。
荒んでいる気持ちを抑えて、ポケットからスマホを出してあやかに電話をかけた。
『藍。どうしたの? 急に電話なんて』
「あやかの声が聞きたくなったから」
『もぉ~……。「声が聞きたくなった」なんて本物の彼氏っぽいね』
「本物の彼氏だよ」
『えっ』
「この一瞬だって俺は全力だから。お前に会いたいと言われればすっ飛んでいくし」
『あはは。いつも大げさなんだから……』
彼女は呆れたようにそう言う。
たとえ期間限定だとしても、俺はあやかを本物の彼女として接している。
いま100%じゃなければ後悔する日が必ずやってくるから。
夜風に当たりながら空を見上げると、月が光り輝いていた。
俺はその月を見ながらあやかとの日々を思い浮かべている。
「あやか」
『ん、なぁに?』
「俺の気持ち、ちゃんと届いてる?」
『うん……。ちゃんと届いてるよ』
彼女は”期限つき”の意味を知らない。
いや、もし知っていたとしたら、この関係を築けなかっただろう。
そして、その期限を迎えた日には彼女からどんな答えが伝えられるか、いまは不安で仕方ない。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる