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第一章 契約
プロローグ
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怠い、暑い、死ぬ、あの禿ぶっ殺してぇ、皆の思いは一致していた。
なんで夏の猛暑の中で登山などしなくてはならないのだろうか?みな仲の良い者と口々に愚痴を言い合いながら登山を続けていた。
しかし彼らはまだましな方であった、引率の教師など口を開く余裕すらなかった、今年40になる独身女教師は元々生物担当で普段から体を動かす機会などほとんどなく、担任として登山の引率を命じられた時は本気で辞表をだそうか3秒ほど考えてしまった。辞めて行く当てや、養ってくれる頼りになる夫がいたら本気で辞表を提出していたかもしれない。
「先生、この先で少し休憩しましょうか」
同僚の教師が話しかけてくる、彼もまた非常に迷惑そうな顔をしていた、この登山を望んでいる者は登山者には一人もおらず、発案者であり、希望者である理事長は最初から登るつもりなどさらさらないのだから、みな腹立たしく思っていた。
何故このような事になったのかと言えば、事の遠因は過疎化にあった。
山の神を祭る神事があり、山の神に捧げる供物を山の山頂にある祠まで持っていくのが習わしであったが、年々過疎化に苦しむ地域で山の上まで一斗樽や一俵の米を担いで登れる者など少なくなり、少ない若手もそんな事はやりたがらないため、神事の継続は年々困難になっていた。
そんな事情を聞いた地元近くの学校の理事長が全面的な協力を申し出たのである、その男は少子化で経営不振に悩む学校を買収して理事長になった男で、学校の知名度を上げる事に躍起になっていた。
地域との協力、民間の神事を行う、盛んに地方新聞に売り込みをかけ大いに宣伝を行った、しかし宣伝になったからといってそれが学校選びの基準になるかと言えばほとんど関係なく、受験者数の増加、生徒数の増加にはたいした影響はなかったというのが実情であった。
だからといって、効果がないので協力を止めますという訳にもいかず、理事長としては特にマイナスはないため協力は継続された。山の麓で満面の笑みで生徒と引率の教師を見送る理事長を見ると、その禿げ頭をバールのような物で思いっ切り殴ってやりたいと皆が思っていた。
休憩し、水筒の飲み物を飲みながらも、理事長への愚痴は止まらず、学校選びを間違ったとボヤく者、ここしか受からなかったとボヤく者、そんな生徒たちのボヤきに教師までもが同意する有様であった。
「てかさ、こんな山登りとかやって、事故とか起きたらやばくね?一斗樽とか無理っしょ」
「うん、私もそう思う、だけどね、あれがそんなに深く物事を考えてるとはどうしても思えないのよ」
「うわっ!あれ呼ばわりかよ!」
笑いが起こるが笑えない話である事を皆が実感していた。親の遺産を使って色々な事業に手を出し、上手く行かなくなってはさらに次の事業に手を出す、そんな事を繰り返している男が誰かに唆されて学校ビジネスに手を出した、情報化社会と言われる現代ではこのような話もすぐに知れ渡ってしまう。ほとんどの教師も転職先を探しながら見つかるまでの繋ぎで続けている者ばかりであった。
「よ~し!そろそろ休憩終了して行こう」
一応学年主任に任命されている男性教師が号令をかける、みな行きたくないが、留まっていても終わらないことは知っているので、渋々と立ち上がり先へ進もうとしていた。
「痛てっ!」
その声に教師はみな声の方を振り返った、やはりケガ人やトラブルは極力避けたい、そんな思いは最低限持っていた、声を上げた少年は指から血を流していたが、そこまでの重傷ではない事が見て取れ、教師達を安堵させた。
「建部、どうした?」
「いえ、立とうとして、木に寄り掛かったらササクレがあって、ちょっと切っちゃったみたいです」
「絆創膏あるか?」
「あ、そんな深くなさそうですし、舐めとけばいいです」
教師もその言葉を受けそこまで深い傷ではなさそうだという確認もとれたため、「気をつけろよ」と声を掛け再度の出発を宣言した。
『運が悪い』建部大和を表現する言葉で、これほど適切な言葉はないかもしれない、彼自身、自分は呪われているのではないだろうか?そんな風に考えてしまう事が多々あった。
元々、彼は優秀な学生でかなりレベルの低いこの高校に来るような学生ではなかった、なぜか絶対に合格と思われた高校に落ちてしまい、日程の都合で他の高校を受験する事も出来ず、已む無く底辺校と言われるこの学校に通う事になってしまったのだった。中学の教師達も何故落ちたのかが全く分からず、落ちたという報告を聞いた時には唖然としてしまい、なんとかもう少しマシな学校はないかと色々探してくれたが、どうにもならず、ここしかなかった、そのような経緯でこの学校に通う事となった。種をあかせば、マークシートの回答が一行ずれているとう、本人の自業自得によるものではあったが、実力を評価してもらえなかったという点ではやはり運が悪いと言えた。
電車に飛び込もうか、首を吊ろうか、そんな事を5秒ほどは考えたが痛そうなのでやめて、内心は思う所もあったが、なんとか高校生活を送る事にしていた。
周りには転校を勧める者もいたが、その高校に通う事を選んだ、理由は同じ中学出身で密かに思いを寄せていた雨宮美夜がこの学校に通う事になったのを知ったというのが大きかった。
特に親しいわけではなかったが、なんとなく好きな子、そんな印象で時々見ているくらいしかできなかった、むこうは彼を全く意識していなかったろうという事も理解していた。それでもまた3年間同じ学校に通えれば、なにかいいことがあるのではないか?そんな受動的な期待を持っての選択であった。
さらにしばらく進むと雲行きが怪しくなり、パラパラと雨が降って来た、炎天下にうんざりとしていた皆は雨に大はしゃぎであったが、雨脚が強まるとはしゃいでもいられなくなり、足元が滑る可能性を考慮し、木陰での休憩が指示された。
雨に濡れた体操服がピタリと張り付きピンクや青の派手な色のブラジャーが薄っすらと透けて見えた時はちょっと運がいいかもしれないと思ったが、目が合ってしまい、非常に冷たい目で見られた時はやはり運が悪いとしか言えない、そんな事を考えてしまった。
耳鳴り、爆音、どう表現していいか分からない大音量が聞こえ、地面が揺れた時、皆は恐怖でしゃがみ込み当たりををキョロキョロと見回したりしていた、建部もまた木に寄り添いながら周りを見回していたが、その目に飛び込んできたのは木々を薙ぎ払いながら自分達に迫る山津波であった。
迫り来る山津波、その次に見た景色は病院の天井であった。
なんで夏の猛暑の中で登山などしなくてはならないのだろうか?みな仲の良い者と口々に愚痴を言い合いながら登山を続けていた。
しかし彼らはまだましな方であった、引率の教師など口を開く余裕すらなかった、今年40になる独身女教師は元々生物担当で普段から体を動かす機会などほとんどなく、担任として登山の引率を命じられた時は本気で辞表をだそうか3秒ほど考えてしまった。辞めて行く当てや、養ってくれる頼りになる夫がいたら本気で辞表を提出していたかもしれない。
「先生、この先で少し休憩しましょうか」
同僚の教師が話しかけてくる、彼もまた非常に迷惑そうな顔をしていた、この登山を望んでいる者は登山者には一人もおらず、発案者であり、希望者である理事長は最初から登るつもりなどさらさらないのだから、みな腹立たしく思っていた。
何故このような事になったのかと言えば、事の遠因は過疎化にあった。
山の神を祭る神事があり、山の神に捧げる供物を山の山頂にある祠まで持っていくのが習わしであったが、年々過疎化に苦しむ地域で山の上まで一斗樽や一俵の米を担いで登れる者など少なくなり、少ない若手もそんな事はやりたがらないため、神事の継続は年々困難になっていた。
そんな事情を聞いた地元近くの学校の理事長が全面的な協力を申し出たのである、その男は少子化で経営不振に悩む学校を買収して理事長になった男で、学校の知名度を上げる事に躍起になっていた。
地域との協力、民間の神事を行う、盛んに地方新聞に売り込みをかけ大いに宣伝を行った、しかし宣伝になったからといってそれが学校選びの基準になるかと言えばほとんど関係なく、受験者数の増加、生徒数の増加にはたいした影響はなかったというのが実情であった。
だからといって、効果がないので協力を止めますという訳にもいかず、理事長としては特にマイナスはないため協力は継続された。山の麓で満面の笑みで生徒と引率の教師を見送る理事長を見ると、その禿げ頭をバールのような物で思いっ切り殴ってやりたいと皆が思っていた。
休憩し、水筒の飲み物を飲みながらも、理事長への愚痴は止まらず、学校選びを間違ったとボヤく者、ここしか受からなかったとボヤく者、そんな生徒たちのボヤきに教師までもが同意する有様であった。
「てかさ、こんな山登りとかやって、事故とか起きたらやばくね?一斗樽とか無理っしょ」
「うん、私もそう思う、だけどね、あれがそんなに深く物事を考えてるとはどうしても思えないのよ」
「うわっ!あれ呼ばわりかよ!」
笑いが起こるが笑えない話である事を皆が実感していた。親の遺産を使って色々な事業に手を出し、上手く行かなくなってはさらに次の事業に手を出す、そんな事を繰り返している男が誰かに唆されて学校ビジネスに手を出した、情報化社会と言われる現代ではこのような話もすぐに知れ渡ってしまう。ほとんどの教師も転職先を探しながら見つかるまでの繋ぎで続けている者ばかりであった。
「よ~し!そろそろ休憩終了して行こう」
一応学年主任に任命されている男性教師が号令をかける、みな行きたくないが、留まっていても終わらないことは知っているので、渋々と立ち上がり先へ進もうとしていた。
「痛てっ!」
その声に教師はみな声の方を振り返った、やはりケガ人やトラブルは極力避けたい、そんな思いは最低限持っていた、声を上げた少年は指から血を流していたが、そこまでの重傷ではない事が見て取れ、教師達を安堵させた。
「建部、どうした?」
「いえ、立とうとして、木に寄り掛かったらササクレがあって、ちょっと切っちゃったみたいです」
「絆創膏あるか?」
「あ、そんな深くなさそうですし、舐めとけばいいです」
教師もその言葉を受けそこまで深い傷ではなさそうだという確認もとれたため、「気をつけろよ」と声を掛け再度の出発を宣言した。
『運が悪い』建部大和を表現する言葉で、これほど適切な言葉はないかもしれない、彼自身、自分は呪われているのではないだろうか?そんな風に考えてしまう事が多々あった。
元々、彼は優秀な学生でかなりレベルの低いこの高校に来るような学生ではなかった、なぜか絶対に合格と思われた高校に落ちてしまい、日程の都合で他の高校を受験する事も出来ず、已む無く底辺校と言われるこの学校に通う事になってしまったのだった。中学の教師達も何故落ちたのかが全く分からず、落ちたという報告を聞いた時には唖然としてしまい、なんとかもう少しマシな学校はないかと色々探してくれたが、どうにもならず、ここしかなかった、そのような経緯でこの学校に通う事となった。種をあかせば、マークシートの回答が一行ずれているとう、本人の自業自得によるものではあったが、実力を評価してもらえなかったという点ではやはり運が悪いと言えた。
電車に飛び込もうか、首を吊ろうか、そんな事を5秒ほどは考えたが痛そうなのでやめて、内心は思う所もあったが、なんとか高校生活を送る事にしていた。
周りには転校を勧める者もいたが、その高校に通う事を選んだ、理由は同じ中学出身で密かに思いを寄せていた雨宮美夜がこの学校に通う事になったのを知ったというのが大きかった。
特に親しいわけではなかったが、なんとなく好きな子、そんな印象で時々見ているくらいしかできなかった、むこうは彼を全く意識していなかったろうという事も理解していた。それでもまた3年間同じ学校に通えれば、なにかいいことがあるのではないか?そんな受動的な期待を持っての選択であった。
さらにしばらく進むと雲行きが怪しくなり、パラパラと雨が降って来た、炎天下にうんざりとしていた皆は雨に大はしゃぎであったが、雨脚が強まるとはしゃいでもいられなくなり、足元が滑る可能性を考慮し、木陰での休憩が指示された。
雨に濡れた体操服がピタリと張り付きピンクや青の派手な色のブラジャーが薄っすらと透けて見えた時はちょっと運がいいかもしれないと思ったが、目が合ってしまい、非常に冷たい目で見られた時はやはり運が悪いとしか言えない、そんな事を考えてしまった。
耳鳴り、爆音、どう表現していいか分からない大音量が聞こえ、地面が揺れた時、皆は恐怖でしゃがみ込み当たりををキョロキョロと見回したりしていた、建部もまた木に寄り添いながら周りを見回していたが、その目に飛び込んできたのは木々を薙ぎ払いながら自分達に迫る山津波であった。
迫り来る山津波、その次に見た景色は病院の天井であった。
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