レイヴン戦記

一弧

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人生何が起こるかわかりません

壮行会改め祝勝会

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 賊の遺体を門外で引き渡し、伯爵邸で身支度を終えると再度王城へと報告に上がった。
 戦果を聞いた伯爵も同行した、4日で討伐を完了させ凱旋を果たしたその手腕にレギナントに比肩しうる才を見出し、喜ばしい事と思う反面今後の扱いについて頭を悩ませてもいた。
 娘のヒルデガルドとの婚姻を進めようとすればテオドールは拒否する事はないだろうが、ヒルデガルドが拒絶反応を示した場合を考えると非常に悩ましい、とりあえず村への帰途立ち寄ってもらいそこでなんとか進展を促してみるかな?などと考えていた。
 戦果報告を謁見の間で行う際は、二度目という事もあり若干落ち着いて観察することができた、国王のフェルナンドはまだ少年らしさを残しているが小柄なテオドールよりはるかに背は高く将来は見栄えのいい国王になりそうだと思われた。
 無茶振りを行ったヴァレンティン侯爵にしても、政治家というより軍人としての経歴が長いと聞いてたが、姿勢がよく馬上で指揮を執っている方が宮廷にいるよりよほど似合いそうに思われた、もっとも無茶振りされたという思いがある故にどうしてもマイナスのイメージがついて回ってしまうが。
 王姉のユリアーヌスは『きつそうだけど綺麗なねーちゃん』未婚なのもさもありなんと納得できる感じだなぁ、等と極めて不謹慎な事を考えられるくらいの余裕をもって謁見に臨んでいた。
 報告を終えるとフェルナンドは明るい声で労いの言葉を述べた。

「大儀であった、後で褒美をとらせる」

 『今くれよ』と思いつつも「ありがたき幸せ」と述べ退出しようとすると、また侯爵が余計な事を言い出した。

「ちょっとよいかな?」

『よくねぇよ!』と言えたらどんなに気分がスッキリするだろうと思いつつも、そつなく「なんでありましょうか?」と返答すると、侯爵は意外なことを聞いてきた。

「明日、伯爵邸にて壮行会という話を聞いていたのだが、すでに凱旋まで済ませてしまっている、どういう事なのか、ちと興味本位で気になったのだよ」

 また無理難題でも言ってくるのかと身構えていただけに少し緊張の糸を緩ませ返答する、

「騎士団の討伐を事前に察知し逃げている、という事は王都に間諜を潜り混ませている可能性が高いのではないかと愚考いたしました、ですから『5日後に壮行会を行いそれから出発する』という、偽情報をあえて拡散させた次第であります。話に真実味を持たせるために食材の買い出しなども派手に行いましたため、その事が侯爵様のお耳に入ったのかと思われます」

「なるほどな・・・さすが・・・」

 侯爵の目には敵意や攻撃の色は全く浮かんでいなかった、純粋な歓心の色が浮かんでいた、テオもその事を感じ取りかなり緊張の糸が緩んだのであろう、余計な失言へと繋がってしまった、

「もっとも、本当の目的はけっこう無茶させた部下への労いのため豪華な祝勝会を開いてやりたいってことなんですがね、壮行会をそっくり祝勝会にシフトする形で」

 謁見の間に居合わせた他の貴族からは嘲笑がもれる、所詮田舎の戦争屋、下賤な成り上がり者、そんな意図が透けて見える気がしたが、そう思ってもらった方がかえって好都合、あまり中央と関わりたがらなかったレギナントと同じくテオドールもまた中央とは関わりたくないと思っていたのだから。
 
「部下を大切にするのは良い事だろう、卿の父は部下と共に血を流し共に泥にまみれた、故に血の結束とまで謳われた強固な部隊が出来たのであろう」

 その言葉はテオドールを嘲笑していた宮廷貴族の笑いを完全に消し去り、場は静寂に包まれた。テオドールとしてはなんと回答していいのか分らず沈黙しているとヴァレンティンは続けた。

「祝勝会には陛下共々是非参加させていただきたいがよろしいかな?」

 断りてぇ、身内でワイワイやって調子に乗ったルヨが裸踊りとかそんなの絶対にできないパターンだよこれ、そんな事を考えたが断れるわけもなかった。

「陛下共々の、え~とご来訪、来臨?ありがたきしあわせであります」

 慣れない言葉を無理に使えばどうしても粗が出る、盗賊退治より宮廷でこんな茶番に付き合うのはほとほとこりごりだ、その時は心底そう思ってしまった。

 

 壮行会を祝勝会へシフトする、その発案を最初に聞いた時は、若者ゆへの気負い、焦りなどからの暴走気味なのではないだろうか?と疑ったものだが、初代であるジギスムントから仕えるカイが落ち着いてサポートする様子から一応なんとかなるだろうとは予想していたが、ここまでの戦果を出すとは予想していなかった、しかも王までもが来賓としてやって来る、費用をけちらなくて本当によかったと、胸をなでおろす伯爵であったが、この後の爆弾はまったくの予想外であった。



 テオドールはテオドールで祝勝会をかなり後悔していた、身内でドンチャン騒ぎできればそれでいいくらいに考えていたのだが、来賓が次から次にやって来て、伯爵が適当に捌いてくれなかったら、逃げ出していたかもしれない、別室で飲み食いしているルヨ達のことが心底うらやましく感じられた。
 祝勝会も中盤にさしかかると、国王、王姉、侯爵が到着した、テオドールとしては、この三人と適当に会話した後で、負傷した傷が痛むとか理由をつけて退出でもしようかと、考えていた矢先だったので、最後ここを乗り切ればくらいの気分で彼らを待ち受けていた。
 三人を伯爵と共に出迎え会場へと案内すると、一同も主賓の来訪に場はざわめきを残しつつも、その動向、発言に注目が集まった、その注目を察して、侯爵はよく通る声で武勲を称え先代レギンナントに匹敵する才と称えた、その発言の最後には父親には中央で軍の指揮、運営を手伝って欲しかったと言っていたが、あれは明らかに余計な仕事を押し付けようとしているとしか思えない目をしていた。

「この度の疫病により領地では、父を始め多数の犠牲者がでました、まず国許に帰り領地運営をしっかり固めて行きたいと考えています」

 テオドールとしては『とっとと帰りたい、中央になんて誰が残るか!』と言う感想を最大限穏当な表現に変えて言ったつもりであった、ただ、それに対しての「それは、大変だな、頑張りたまえ」という割と素っ気ない返答がテオドールを不安にさせた『まだ何か隠し玉でもあるのか?』その時点では確証はまったく得られなかったが、かなり不安なものを感じてはいた。
 続いて、国王フェルデナントが声をかけてくる、

「騎士団のヴェルナーより詳細な報告は受けている、見事な武勲に褒美をとらそうと思うが希望はあるか?」

 『金!』と思ったが、さすがにシャレにならなそうだが、むしろ下賤さを強調する意味でいいのか?とも考えたが思いとどまり、「お気持ちだけで」と答えておいた。伯爵とも事前に相談していたが、この回答でも後で勲功に対しての報奨金はしっかり払われるはずだとの事なので、ベストであろう回答をしたはずであった、だがフェルディナントからの返答は予期しないものであった、

「そういえば卿は独り身であったかな?」

「ええ、まあ・・・」

 この瞬間傍で聞いていた伯爵は血の気の引く思いであった、フェルディナントにそんな機転をこの場で働かせることなどできるはずもなく、絶対に裏で糸を引いている奴がいる、侯爵の縁者を褒美という名目で娶せ自派閥への取り込みを図る、そこまでのシナリオがハッキリと見えたからである。伯爵の推理はかなり惜しいところまで行っていた、事実その場に居合わせた多くは伯爵とほぼ同じ考えに至っていた。
 ただ、次に国王より発せられた言葉でその場は完全に凍り付いた、

「では、私の姉上などいかがでしょうか?卿のような武勇、才覚に秀でた人物なら安心して姉上を任せられます、姉上もそれでいかかですか?」

 国王の姉への問いかけに、シナリオ通りと言わんばかりにユリアーヌスも答える、

「ええ、喜んで」

 そこからは場内は一気にザワつき始めた状況がまったく呑み込めず、とりあえずどうなっているのか話さずにはいられないといった感じで周りの知り合いとヒソヒソと話しが始まっていた。
 例外がいるとしたら、唖然呆然としている、テオドール、オルトヴィーン。ニヤニヤとその状況を眺めているヴァレンティン。ニコニコと笑顔を崩さない、フェルナンド、ユリアーヌス、その五人だけがひどく異質な感じであった。

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