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人生何が起こるかわかりません
吹っ切れた女
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門の外までテオドールを含めた出征組を見送る一同だがそれほど悲嘆の色はなく、狩りに行く猟師を見送るかのようであった。
「行きましたね」
「ええ、とりあえず、今日はゆっくりしましょうか。明日から忙しくなるはずですから。」
屋敷へと引き上げて行く一行であったが、一人だけありえない程の違和感があった、鼻歌まじりで傍から見てもありえないほど上機嫌なヒルデガルドがそこにいた。
「ヒルデガルド様、少し不謹慎なのではないでしょうか?」
見かねたイゾルデが注意を促すが、まったく意に介する事なく返す。
「何言ってるのよ、テオドールも言ってるでしょ『楽勝だ』って、それを私達が信じないでどうするのよ?祝勝会の準備で明日から忙しくなるわけだしね!」
この発言には一同呆然としてしまった。
「アルマ、昨日ヒルデガルドはなんか変なものでも食べたの?」
「いえ、私達と同じものしか食べてないはずです」
小声でエレーナとアルマが会話をするが、エレーナはヒルデガルドのこの変化に対して『ああ、昔の彼女が帰って来た』と懐かしい思いを持ってもいた。彼女に心からの笑顔が戻ってきたことで、やっとラファエルの存在を呪いのような想いから、思い出へと昇華できたのだろうと感じられた。自分は母親として完全にはその呪縛から逃れる事は出来ないけれど、未来ある義娘には一刻も早く解き放たれてもらいたい、そう思っていただけに、心からの安堵感を感じていた。
イゾルデとユリアーヌスも小声で会話を始める。
「なんですか、あれ」
「あ~、思い当たる節はあるけど、まさかあそこまでとは・・・」
踊り出さんばかりに弾む足取りで屋敷へと向かうヒルデガルドを少々呆れ気味に見ながら、4人は彼女の後をゆっくりと追うように屋敷へと向かって行った。
お茶会の席でも終始彼女はご機嫌だった。だが、その彼女の態度にイゾルデはかなり不愉快なものを感じ帰宅途中に引き続き今回はかなり強めな口調で注意を促した。
「さっきから黙って聞いていたが、当主であるテオドール様をテオドール、テオドールと呼び捨てにして、立場をわきまえたらどうだ!」
彼女は一向にひるむことなく余裕を持って反撃する。
「もちろん、外部の客人の前では立てるわ、でもね、身内の中でこれ以上仮面を着けたような生活止めにしない?先代のレギナント様もそれを好んだからこそ、私とラファエルをかなり自由にさせてたわよ」
その言葉を聞くと、エレーナはクスクスと笑い出し、語り始めた。
「あなたはいつもラファエルにわがまま言ったり、危険だって言われてるようなとこにドンドン進んでいって周りの迷惑おかまいなしだったわよね」
「ええ、いい思い出です」
「そう、よかったわ」
彼女が心情の整理がついたのがはっきり分ると、うれしいような、寂しいような、少し複雑な感情にとらわれたが、未来を向いた若い彼女に祝福あれと思わずにはいられなかった、しかし、そういった思いも次の彼女の言葉で吹き飛んでしまった、それほど衝撃ある一言だった。
「ところで、お義母様、テオドールとは何者ですか?」
「どういう意味かしら?」
エレーナは努めて冷静に言ったが、その質問の意味するところを大凡理解していた。
「双子の弟っていうのは嘘ですよね」
ヒルデガルドは迷うことなくストレートに答えた、その答えを受けエレーナも答える。
「ええ、そうよ」
「そうですか、おつらかったですね」
イゾルデとユリアーヌスは二人の会話について行けず置いてきぼりを喰らったようになっていたが、気を取り直してイゾルデが問いかける。
「今の話どういうことだ?」
「ん?聞いたとおりでしょ?そんなに湾曲した表現も使ってないし何が分からないっていうの?」
「いや、だから・・・では、テオドールは何者だというのだ?」
「どうでもいいんじゃない?」
「どうでもよくはないだろう!」
「どうして?仮に農民の息子を跡取りに仕立て上げてたとしたら、騒ぎ立てて暴露して領地没収、爵位剥奪、身分詐称で当人達は処刑、みたいなのがお望みなの?」
「いや・・・決してそんなことを望んでいるわけじゃ・・・」
「もう少し詳しく言うと、当の本人、お義母様、名主衆、あたりは処刑。私の実家は後見人としてなんらかのペナルティが来るでしょうね、お取り潰しまでは行かないでしょうけど。私は実家に戻って謹慎の後で領内の従騎士あたりと結婚かしらね。ユリアーヌス様は修道院一択、あなたもついて行く事になるんじゃない?薔薇色の未来ってこういうのを言うのかしら血で真っ赤よね!」
そこまで黙って聞いていたユリアーヌスであったが、軽く息を吐くと話始めた。
「そこまでよ、イゾルデあなたの負けよ、ねえヒルデガルドさん、何故分かったの?それだけ教えてくれない?」
「お義母様の態度ね、長年親子とし認識していなかったとしても実の子供に対する態度にしては違和感がありすぎたのよ。以前からお義母様達とこの村で生活していた時間が長かったから気づけただけよ」
「そう、アルマは知ってたの?」
「いえ、ただ薄々は違うのではないかと・・・ただヒルデガルド様のおっしゃる通り、言っても村にとって不利益でしかないのは分っていたものですから・・・」
ユリアーヌスはため息をつくと、一言憎々し気に呟いた。
「やっかいなのに塩を送ったものね・・・あのまま仮面を被っていてくれた方がどれだけよかったか」
「いえいえ、昨日のブランデー大変おいしくいただきましたよ、今度是非ご一緒いたしませんか?」
ユリアーヌスは心の中で舌打ちしながら、テオドールが自発的にバラすとは思えない、そこまで気付くとは本当にやっかいな奴だ、と思いながらも、表面上は満面の笑みをうかべた。
「そうですわね、是非」
このやり取りを見ながらイゾルデはこの二人のバランスを取らないといけないテオドールに少しだけ同情した、アルマは自分が癒しになればハートをガッチリとキープできるのでは?と少し黒い事を考えたりしていた。
「行きましたね」
「ええ、とりあえず、今日はゆっくりしましょうか。明日から忙しくなるはずですから。」
屋敷へと引き上げて行く一行であったが、一人だけありえない程の違和感があった、鼻歌まじりで傍から見てもありえないほど上機嫌なヒルデガルドがそこにいた。
「ヒルデガルド様、少し不謹慎なのではないでしょうか?」
見かねたイゾルデが注意を促すが、まったく意に介する事なく返す。
「何言ってるのよ、テオドールも言ってるでしょ『楽勝だ』って、それを私達が信じないでどうするのよ?祝勝会の準備で明日から忙しくなるわけだしね!」
この発言には一同呆然としてしまった。
「アルマ、昨日ヒルデガルドはなんか変なものでも食べたの?」
「いえ、私達と同じものしか食べてないはずです」
小声でエレーナとアルマが会話をするが、エレーナはヒルデガルドのこの変化に対して『ああ、昔の彼女が帰って来た』と懐かしい思いを持ってもいた。彼女に心からの笑顔が戻ってきたことで、やっとラファエルの存在を呪いのような想いから、思い出へと昇華できたのだろうと感じられた。自分は母親として完全にはその呪縛から逃れる事は出来ないけれど、未来ある義娘には一刻も早く解き放たれてもらいたい、そう思っていただけに、心からの安堵感を感じていた。
イゾルデとユリアーヌスも小声で会話を始める。
「なんですか、あれ」
「あ~、思い当たる節はあるけど、まさかあそこまでとは・・・」
踊り出さんばかりに弾む足取りで屋敷へと向かうヒルデガルドを少々呆れ気味に見ながら、4人は彼女の後をゆっくりと追うように屋敷へと向かって行った。
お茶会の席でも終始彼女はご機嫌だった。だが、その彼女の態度にイゾルデはかなり不愉快なものを感じ帰宅途中に引き続き今回はかなり強めな口調で注意を促した。
「さっきから黙って聞いていたが、当主であるテオドール様をテオドール、テオドールと呼び捨てにして、立場をわきまえたらどうだ!」
彼女は一向にひるむことなく余裕を持って反撃する。
「もちろん、外部の客人の前では立てるわ、でもね、身内の中でこれ以上仮面を着けたような生活止めにしない?先代のレギナント様もそれを好んだからこそ、私とラファエルをかなり自由にさせてたわよ」
その言葉を聞くと、エレーナはクスクスと笑い出し、語り始めた。
「あなたはいつもラファエルにわがまま言ったり、危険だって言われてるようなとこにドンドン進んでいって周りの迷惑おかまいなしだったわよね」
「ええ、いい思い出です」
「そう、よかったわ」
彼女が心情の整理がついたのがはっきり分ると、うれしいような、寂しいような、少し複雑な感情にとらわれたが、未来を向いた若い彼女に祝福あれと思わずにはいられなかった、しかし、そういった思いも次の彼女の言葉で吹き飛んでしまった、それほど衝撃ある一言だった。
「ところで、お義母様、テオドールとは何者ですか?」
「どういう意味かしら?」
エレーナは努めて冷静に言ったが、その質問の意味するところを大凡理解していた。
「双子の弟っていうのは嘘ですよね」
ヒルデガルドは迷うことなくストレートに答えた、その答えを受けエレーナも答える。
「ええ、そうよ」
「そうですか、おつらかったですね」
イゾルデとユリアーヌスは二人の会話について行けず置いてきぼりを喰らったようになっていたが、気を取り直してイゾルデが問いかける。
「今の話どういうことだ?」
「ん?聞いたとおりでしょ?そんなに湾曲した表現も使ってないし何が分からないっていうの?」
「いや、だから・・・では、テオドールは何者だというのだ?」
「どうでもいいんじゃない?」
「どうでもよくはないだろう!」
「どうして?仮に農民の息子を跡取りに仕立て上げてたとしたら、騒ぎ立てて暴露して領地没収、爵位剥奪、身分詐称で当人達は処刑、みたいなのがお望みなの?」
「いや・・・決してそんなことを望んでいるわけじゃ・・・」
「もう少し詳しく言うと、当の本人、お義母様、名主衆、あたりは処刑。私の実家は後見人としてなんらかのペナルティが来るでしょうね、お取り潰しまでは行かないでしょうけど。私は実家に戻って謹慎の後で領内の従騎士あたりと結婚かしらね。ユリアーヌス様は修道院一択、あなたもついて行く事になるんじゃない?薔薇色の未来ってこういうのを言うのかしら血で真っ赤よね!」
そこまで黙って聞いていたユリアーヌスであったが、軽く息を吐くと話始めた。
「そこまでよ、イゾルデあなたの負けよ、ねえヒルデガルドさん、何故分かったの?それだけ教えてくれない?」
「お義母様の態度ね、長年親子とし認識していなかったとしても実の子供に対する態度にしては違和感がありすぎたのよ。以前からお義母様達とこの村で生活していた時間が長かったから気づけただけよ」
「そう、アルマは知ってたの?」
「いえ、ただ薄々は違うのではないかと・・・ただヒルデガルド様のおっしゃる通り、言っても村にとって不利益でしかないのは分っていたものですから・・・」
ユリアーヌスはため息をつくと、一言憎々し気に呟いた。
「やっかいなのに塩を送ったものね・・・あのまま仮面を被っていてくれた方がどれだけよかったか」
「いえいえ、昨日のブランデー大変おいしくいただきましたよ、今度是非ご一緒いたしませんか?」
ユリアーヌスは心の中で舌打ちしながら、テオドールが自発的にバラすとは思えない、そこまで気付くとは本当にやっかいな奴だ、と思いながらも、表面上は満面の笑みをうかべた。
「そうですわね、是非」
このやり取りを見ながらイゾルデはこの二人のバランスを取らないといけないテオドールに少しだけ同情した、アルマは自分が癒しになればハートをガッチリとキープできるのでは?と少し黒い事を考えたりしていた。
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