レイヴン戦記

一弧

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人生何が起こるかわかりません

女達の戦い

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「とっとと終わらせてくれ」

「へへっ、分かってるよ。」

 下卑た笑いを浮かべながら自分の中に押し入ってくる男、それを受け入れる自分、何もかもがイヤになる、いっその事割り切って娼婦にでもなった方がどれだけいいだろうか?そもそも娼婦と今の自分にどれだけの差があるのだろうか?きちんと対価を貰う娼婦の方がよっぽど高尚な存在に思える、今の自分など男たちの性欲を満たすだけの道具に過ぎないのだから。
 碌に脱衣もせず、局部のみを露出して簡易的に行う行為などまさに排泄行為そのものではないかと、吐き気にも似た嫌悪感を自分にも男にも感じながら、その機械的な行為が終わるのをただやり過ごすように待っていた。
 事が終わった後で、よく男達に言われる言葉がより一層彼女の心を殺していく。

「世が世ならお姫様だと思うと、余計に催すんだよなぁ」

 全てを終わらせてくれる死神がいるなら、それは彼女にとって救世主以外の何者でもないように感じられた。

 エンゲルベルトは上機嫌であった、全てが順調に進行していた、18年前の戦いでは山間部に入った初日から執拗な奇襲攻撃を受け、一撃を加えては逃走し、しばらくするとまたどこからともなく現れ一撃を加えて撤退する、その戦術を延々と繰り返されることで、行軍速度は目に見えて落ち、狙ったかのように輜重部隊を壊滅、食料不足で飢えに苦しみながらやっとの思いでアルメ村まで辿り着いたものだった、それが今回は山間部に入って5日になるが敵の気配はまったくなく、中継ポイントとして用意しておいた備蓄小屋での補給も順調であった、この奇襲攻撃は確実に成功する。そう信じて疑わず、村を滅ぼした後でその地を自らの本拠地とし、自分の代での復権は無理であろうが、数世代後ではまた中央で復権している自らの末裔を夢見ていた。
 数日前までは刺し違えるくらいの覚悟で未来になんの展望も抱いていなかった男が、順調な滑り出しによって完全に若かりし頃の野心を取り戻したかのようだった。高揚感から眠れず宿営地を見て回っていると、ガサゴソと茂みが揺れ男が出てきた。

「へへ、またよろしくな」

 エンゲルベルトの方を向かず反対の方を向きながら何やら言う男が、振り返るとそこに立っているエンゲルベルトを見咎め。

「ああ、どうも、すいません」

 と、足早に去って行った。その茂みに何があるのかと見て見ると、ゲルトラウデが別の男にのしかかられている所だった、しかも運悪く月明かりの元そんな彼女としっかりと目が合ってしまった。その光景を見ると先ほどまでの高揚感がどこかに吹き飛ぶような感覚に襲われ、汚い物でも見るような目で彼女を見ると、フンッと聞こえるように鼻息を漏らしながら、足早に立ち去ってしまった。興奮して事に及んでいる男には聞こえなかったが、冷め切ってただ受け入れていた彼女には、ハッキリとその軽蔑に満ちた鼻息は聞こえていた。
 敵に捕らわれて凌辱されるというならまだ理解できた、今も昔も未来も私を凌辱し慰み者にするのは全て味方であり、実の父がそれを汚い物を見るような目で見ている、その事実を理解してはいた、それでも実際にそんな父の目を見ると枯れていたはずの涙があふれてきた、夢中になって腰を振っている男はまったく気付かづず、仮に気付いたとしても、より劣情を刺激するだけの結果に終わっただろうが。



「準備はどう?」

「全て揃っています」

「じゃあ、村の広場まで持っていくわよ。」

「はい!」

 各々、食材、薪、大鍋、等を持ち村の広場に向かう、軽々と大鍋を担ぎ上げて持っていくエレーナ、器用に片手でユリアーヌスの倍以上の荷物を持つアルマ、わりと重いものをしっかり担ぎ上げるヒルデガルドの3人を見るとユリアーヌスとイゾルデは少し惨めな気持ちになる、そこにヒルデガルドのやさしい言葉が突き刺さる。

「奥様とイゾルデ様はゆっくりいらしてください、もう無理のきかない御歳なんですから」

 満面の笑みを浮かべて言う彼女の言葉は非常に丁寧ではあったが、猛毒を含んでいた。

「まだまだ、この位いくらでもいけますわ」

「ええ、私だってこのくらい」

 競うように荷物を持つユリアーヌスとイゾルデだったが二人の総量でもアルマが持つ量より少ないくらいであった。
 エレーナは広場への大鍋の設置などが村の女衆の手伝いによって順調に進み始めると、現場をアルマに任せ、広場近くの臨時本営とした名主の家へ3人を伴い向かった、名主の家の大きめの一室でエレーナは彼女達に告げる。

「必要になるとすれば2日後か3日後くらいになるでしょう、当日慌てないように、今から練習しますよ」

 彼女の言葉に、イゾルデが恐る恐る尋ねる。

「本当に必要になるのでしょうか?」

 クスッと笑いながらエレーナは回答する。

「私は夫を信じていますからね」

 この彼女の言葉を聞き、ユリアーヌスはいつか自分もそんな事を言える日が来るのだろうか?と不安とも憧れともつかない感情でその言葉を反芻していた。
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