23 / 139
人生何が起こるかわかりません
悪夢
しおりを挟む
エンゲルベルトは愕然としていた、最後の補給を終え村へと突撃をかけると、予期せぬ奇襲攻撃に右往左往しながら逃げ惑うレギナントを生け捕りにして、自らの味わった屈辱をそっくり返す、そんな夢を見ながらの足取りの軽い行軍であったが、最終補給ポイントにおける部下の報告、自らの目による状況確認により呆然としてしまった。
軽い足取りで行軍をを行うエンゲルベルトの元に血相を変えて、偵察に出していた兵が駆け寄ってきた。
「たいへんです!補給小屋の食料が消失しております、そしてこれが・・・」
オズオズと差し出された手紙には、あまり綺麗とは言えない文字が血で書かれており、内容を読むと怒りで我を忘れんばかりとなった。
『親愛なるエンゲルベルト廃太子閣下に御礼申し上げる、
食料物資の援助まことにかたじけなく候
ごちそうさまでした♡
あなたの親愛なる テオドール・フォン・キルマイヤーより愛を込めて♡』
怒りで紅潮しながら、偵察兵を怒鳴りつける。
「見張りはどうした!交代要員もふくめ4人置いてあったはずだぞ!」
言いずらそうにしながら、うつむきがちに回答する。
「切断された首がテーブルの上に置かれており、壁には鴉の死骸が張り付けられておりました・・・」
そこまで聞くと小屋へ向かって駆け出していた、ほどなく見えてきた小屋に駆け込むと中は血の臭いで充満しており、血の乾き具合からしても殺されてそう長くは経っていない事が容易に想像できた。中の惨状を見ると、彼は小さくつぶやいた、
「奴のやり口だ!」
扉を乱暴に閉め外に出ると、主だった者達が不安そうな面持ちで次の指示を待っていた、どうするべきであろうかと逡巡したが、まずは落ち着いて現状認識であろうと。
「ゲルトラウデ、兵糧の残りの状況はどうなっておる?」
「はっ!各自3日分ほどかと!」
この回答を得て、エンゲルベルトは計算を開始した、もし今から引き返すとなると、山間部を抜け最も近い村まで10日以上の日数がかかる、どうやっても間に合うものではない、しかも敵がここの様子をうかがっているとなると、追撃も予想される、弱り果てた軍が背後から追撃を受けたら全滅は必須、それならば、あと5日の行程で到着するアルメ村を陥落させ、そこで食料を得る事に望みを託す方が確率が高いのではないだろうか?3日分の食料があるなら、少し節約すれば5日くらい持つのではないだろうか?彼の考えは進軍へと固まり、その考えを皆に告げた、後が無くなった緊張感からより一層の闘志をその目に宿していた、そんな兵士達をゲルトラウデは冷めた目で見ながら、どうせ、昂った劣情をまた自分にぶつけることになるのだろうと、今夜も多数の男達の慰み者になる事を予想し憂鬱な気分になっていた。
余談にはなるが、戦後この時の選択肢について、カイがテオドールに質問した事があった『あなたならどうされますか?』と、彼の回答は明白なものだった『食料のみを持って、武器防具を捨てて全力で逃げる、もし追いつかれたら白旗を挙げて降参だね』その答えに対しカイは何も言わなかったが満足そうな笑みを浮かべていた、なぜならその回答は、はるか昔にレギナントが出した回答とまったく同じものであったのだから。
「警戒を倍に増やせ!奴らはここぞとばかりに奇襲、夜襲をしかけてくるぞ!仕掛けのわかった戦術なら対応は容易!返り討ちにしてやれ!」
エンゲルベルトの激に対して士気高く兵達は応じるが、ゲルトラウデはまったく異なる事を考えていた。
まずアルメ村攻略作戦の肝は村への奇襲が成功するか否かに全てがかかっている、この軍の存在を知られる事なく、村付近へ近づく事が絶対条件なのである、見抜かれて対応を練られてしまっているならもう勝機は無に等しいはずである。もしこちらの存在が知られてしまった場合、300名の食料不足に陥った兵士で、村民数300名前後の村を陥落できるのであろうか?村側は非戦闘員を多数抱えているだろうが、籠城作戦をとられたら食料のあてのないこちらは簡単に自滅するだろう、バカなのだろうか?自分が敵の指揮官ならこの状況であえて夜襲をしかけるようなマネはしないだろう、勝手に敵影に怯えて自滅するのを高みの見物でもしていればいいのだから。村の構造や建造物の配置までは知らないが、山中にあり天然の要害として機能させるのは容易であると考えられ、壁を盾にしながら持久戦に持ち込むだけで、凡将といわれる者でも容易に勝利できるように思われた。そういった15の小娘にすら思いつくような事すら思いつかない父に心底嫌気がさした、もはや長年の鬱屈とした歳月が冷静な判断力を奪ったとしか思えなった。それももうすぐ終わる、楽になれる、それだけが彼女の唯一の心のよりどころだった。
夜の見張りは50名が歩哨に立ち夜襲を警戒していた、戦力の16%にも及ぶ人数を警戒にあてるのは過剰であるように思われたが、今までの戦いで散々奇襲攻撃や夜襲攻撃に悩まされたエンゲルベルトにとってこれでも足りないくらいであった、いっそ全員で寝ずに待ち構え、夜襲してきた敵を全滅させ一気に勝負を決するのはどうだろうか?等と考えもしたが夜間の戦闘では敵を全滅まで持っていくのは厳しいと考えなおし、警戒要員以外もすぐに戦闘対応できるよう、武器を手元に置き、防具を身に着けての就寝を義務付けた。
そのようなピリピリとした状況で眠れるはずもなく、自ずとゲルトラウデの所に向かう男達が列をなし、順番を巡って喧嘩騒ぎが起きたり、小さな物音を奇襲と思い込んでの同士討ちが発生したりで、一晩だけで10人が戦闘不能の状態になった。
その状況を見て、ゲルトラウデは心中で呟いた『バカしかいないのか・・・・』と。
一夜明け、被害内容は味方同士の物ばかりであった、敵の影も形も見えなかった。この結果に対してエンゲルベルトはテオドールという男の人物像が分からなくなった、それまではレギナントのような人物と見ており、奴ならば絶対に奇襲攻撃を仕掛けて来ると予想していたが、それが全くないとなると一体どのよう人物であるのか見当がつかなくなってしまっていた。本人の中ではレギナントと何度も戦いレギナントの事を深く理解しているつもりになっていたが、表面的な理解にとどまり、本質的な理解が全くできていなかった事に本人は終生気付くことはなった。『相手の嫌がることをやりましょう』彼の戦術の本質はこれであり、今まさに最もイヤな戦術をとられている事にも全く気付いていなかった。
結局今夜こそ来るだろう、今夜こそ来るだろう、と同じことを毎晩繰り返し、村のすぐ近くに着いた時には憔悴しきっていた。中でもゲルトラウデの消耗は激しく立っているのがやっとで、短槍を杖代わりに体を支え辛うじて立っていた『死神と天使はどう違うのだろうか?』そんな事を考えながら、村の入り口に掲げられた鴉の旗を彼女は見つめていた。
軽い足取りで行軍をを行うエンゲルベルトの元に血相を変えて、偵察に出していた兵が駆け寄ってきた。
「たいへんです!補給小屋の食料が消失しております、そしてこれが・・・」
オズオズと差し出された手紙には、あまり綺麗とは言えない文字が血で書かれており、内容を読むと怒りで我を忘れんばかりとなった。
『親愛なるエンゲルベルト廃太子閣下に御礼申し上げる、
食料物資の援助まことにかたじけなく候
ごちそうさまでした♡
あなたの親愛なる テオドール・フォン・キルマイヤーより愛を込めて♡』
怒りで紅潮しながら、偵察兵を怒鳴りつける。
「見張りはどうした!交代要員もふくめ4人置いてあったはずだぞ!」
言いずらそうにしながら、うつむきがちに回答する。
「切断された首がテーブルの上に置かれており、壁には鴉の死骸が張り付けられておりました・・・」
そこまで聞くと小屋へ向かって駆け出していた、ほどなく見えてきた小屋に駆け込むと中は血の臭いで充満しており、血の乾き具合からしても殺されてそう長くは経っていない事が容易に想像できた。中の惨状を見ると、彼は小さくつぶやいた、
「奴のやり口だ!」
扉を乱暴に閉め外に出ると、主だった者達が不安そうな面持ちで次の指示を待っていた、どうするべきであろうかと逡巡したが、まずは落ち着いて現状認識であろうと。
「ゲルトラウデ、兵糧の残りの状況はどうなっておる?」
「はっ!各自3日分ほどかと!」
この回答を得て、エンゲルベルトは計算を開始した、もし今から引き返すとなると、山間部を抜け最も近い村まで10日以上の日数がかかる、どうやっても間に合うものではない、しかも敵がここの様子をうかがっているとなると、追撃も予想される、弱り果てた軍が背後から追撃を受けたら全滅は必須、それならば、あと5日の行程で到着するアルメ村を陥落させ、そこで食料を得る事に望みを託す方が確率が高いのではないだろうか?3日分の食料があるなら、少し節約すれば5日くらい持つのではないだろうか?彼の考えは進軍へと固まり、その考えを皆に告げた、後が無くなった緊張感からより一層の闘志をその目に宿していた、そんな兵士達をゲルトラウデは冷めた目で見ながら、どうせ、昂った劣情をまた自分にぶつけることになるのだろうと、今夜も多数の男達の慰み者になる事を予想し憂鬱な気分になっていた。
余談にはなるが、戦後この時の選択肢について、カイがテオドールに質問した事があった『あなたならどうされますか?』と、彼の回答は明白なものだった『食料のみを持って、武器防具を捨てて全力で逃げる、もし追いつかれたら白旗を挙げて降参だね』その答えに対しカイは何も言わなかったが満足そうな笑みを浮かべていた、なぜならその回答は、はるか昔にレギナントが出した回答とまったく同じものであったのだから。
「警戒を倍に増やせ!奴らはここぞとばかりに奇襲、夜襲をしかけてくるぞ!仕掛けのわかった戦術なら対応は容易!返り討ちにしてやれ!」
エンゲルベルトの激に対して士気高く兵達は応じるが、ゲルトラウデはまったく異なる事を考えていた。
まずアルメ村攻略作戦の肝は村への奇襲が成功するか否かに全てがかかっている、この軍の存在を知られる事なく、村付近へ近づく事が絶対条件なのである、見抜かれて対応を練られてしまっているならもう勝機は無に等しいはずである。もしこちらの存在が知られてしまった場合、300名の食料不足に陥った兵士で、村民数300名前後の村を陥落できるのであろうか?村側は非戦闘員を多数抱えているだろうが、籠城作戦をとられたら食料のあてのないこちらは簡単に自滅するだろう、バカなのだろうか?自分が敵の指揮官ならこの状況であえて夜襲をしかけるようなマネはしないだろう、勝手に敵影に怯えて自滅するのを高みの見物でもしていればいいのだから。村の構造や建造物の配置までは知らないが、山中にあり天然の要害として機能させるのは容易であると考えられ、壁を盾にしながら持久戦に持ち込むだけで、凡将といわれる者でも容易に勝利できるように思われた。そういった15の小娘にすら思いつくような事すら思いつかない父に心底嫌気がさした、もはや長年の鬱屈とした歳月が冷静な判断力を奪ったとしか思えなった。それももうすぐ終わる、楽になれる、それだけが彼女の唯一の心のよりどころだった。
夜の見張りは50名が歩哨に立ち夜襲を警戒していた、戦力の16%にも及ぶ人数を警戒にあてるのは過剰であるように思われたが、今までの戦いで散々奇襲攻撃や夜襲攻撃に悩まされたエンゲルベルトにとってこれでも足りないくらいであった、いっそ全員で寝ずに待ち構え、夜襲してきた敵を全滅させ一気に勝負を決するのはどうだろうか?等と考えもしたが夜間の戦闘では敵を全滅まで持っていくのは厳しいと考えなおし、警戒要員以外もすぐに戦闘対応できるよう、武器を手元に置き、防具を身に着けての就寝を義務付けた。
そのようなピリピリとした状況で眠れるはずもなく、自ずとゲルトラウデの所に向かう男達が列をなし、順番を巡って喧嘩騒ぎが起きたり、小さな物音を奇襲と思い込んでの同士討ちが発生したりで、一晩だけで10人が戦闘不能の状態になった。
その状況を見て、ゲルトラウデは心中で呟いた『バカしかいないのか・・・・』と。
一夜明け、被害内容は味方同士の物ばかりであった、敵の影も形も見えなかった。この結果に対してエンゲルベルトはテオドールという男の人物像が分からなくなった、それまではレギナントのような人物と見ており、奴ならば絶対に奇襲攻撃を仕掛けて来ると予想していたが、それが全くないとなると一体どのよう人物であるのか見当がつかなくなってしまっていた。本人の中ではレギナントと何度も戦いレギナントの事を深く理解しているつもりになっていたが、表面的な理解にとどまり、本質的な理解が全くできていなかった事に本人は終生気付くことはなった。『相手の嫌がることをやりましょう』彼の戦術の本質はこれであり、今まさに最もイヤな戦術をとられている事にも全く気付いていなかった。
結局今夜こそ来るだろう、今夜こそ来るだろう、と同じことを毎晩繰り返し、村のすぐ近くに着いた時には憔悴しきっていた。中でもゲルトラウデの消耗は激しく立っているのがやっとで、短槍を杖代わりに体を支え辛うじて立っていた『死神と天使はどう違うのだろうか?』そんな事を考えながら、村の入り口に掲げられた鴉の旗を彼女は見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる