レイヴン戦記

一弧

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人生何が起こるかわかりません

悪夢は続くよどこまでも

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 ついに到着した!これから戦闘になるという状況なのだが、もはや到着しただけで感極まってしまっていた。事実200名を少し超える程度まで兵力は減り、この状況は18年前の戦争よりはるかに悪い状況であったが、冷静にその事に気付ける人間は一人しかいなかった、その一人も勝利等望んでおらず、むしろ望むべくは永遠の安らぎであった。感極まっていたエンゲルベルトは皆の前に立ち、檄を飛ばそうとした。

「皆よくこ・・・」

 そこまで言ったところで、門の内側にある櫓から高速で飛来するものがあった、エンゲルベルトの前で一気に十人の兵士が倒れた、もがく者もいたが、即死した者もあり、退却の号令も待たずエンゲルベルトとゲルトラウデを残し脱兎のごとく後退した、我に返ったエンゲルベルトは慌ててその後を追ったが、ゲルトラウデは緩慢な動きで足を引きづるように後退するのみであった。距離がかなり開いていることもあり、小声で毒づくように呟いた。

「バカバカしい、この距離であの殺傷力ならクロスボウだろう、次弾装填まで時間がかかるくらい分るだろうに・・・」

 彼女の読みは完全に当たっていた、連射のきかないクロスボウではゆっくり逃げても余裕で有効射程外まで逃げる事はできた、こんなバカで臆病な連中が夜になると全く抵抗しないのをいい事に猛り狂って好き放題する、その事実だけで皆殺しにしてやりたい衝動に駆られた。

 完全に出鼻をくじかれ意気消沈していた、誰もどうしていいか分からない状態だった。イライラしながらも具体案が思いつかなかったエンゲルベルトは、苛立たし気に声を挙げる。

「誰かアルメ村攻略のいい発案はないか?自由に言っていいと言っておるであろう!ゲルトラウデ貴様にはないのか?」

「はっ!三つほどあります、第一案は人海戦術で門を破り中へと突入する、数で劣勢となりますが、当主を捕らえるなり討ち取るなりすれば形勢は逆転するかと。
 第二案は正面からの突破に固執しているふりをして少数を脇道や侵入困難な経路を使い村へ侵入、内部から門を開けた後は第一案と同じであります。
 第三案は基本は第二案と同じですが、ここに人員がいるように見せかけ、実際は全員で門以外の経路から村への侵入を試みます、門に固執することなく当主のみを全員で狙う方針であります」

 それらの案を言い切ると腹の中では『成功する見込みはどれも1%以下だろうけどな・・・』っと毒づいていた、まともな指揮官であれば事がここまで悪化したならば、部下の命を慮り降伏するのが常道であろうが、そのような案をこの男が了承するわけもなく不興を買うだけなのは理解していたので提案すらしなかった。そんな彼女の思いはつゆ知らず、少し逡巡すると勢いよく宣言した。

「よし、第二案を採用とする、しばし休憩の後別動部隊の発表を行う、以上、休憩に入れ」

 『真正のバカだ』彼女はさらに腹の中で毒づく、もし勝利にどうしても固執するのであれば三もしくは一の案を採用するべきであった、不利な状況で逆転を狙うのであれば大きな博奕に出るしかない、その博奕に全賭けをするのが唯一勝てる可能性がある道であろう、そこで保険をかけるような選択肢を行う、それをバカと言わずしてなんと言えばいいのだろうか?しかもこの男は絶対に少数の別動隊に自分が参加するような、ギャンブルじみた方法をとることはないだろう。アルメ村侵攻作戦自体が成功の可能性の低いギャンブルだと彼女は最初からそう考えていた、似たようなギャンブルを成功させたレギナントの戦術を研究するうちに憧れや淡い感情を持つに至っていた、時には自分の父がこのような人物であったならと、そんな夢想にふける事すらあった、今対峙している敵の指揮官はその息子とのことだったが、いったいどんな人物であったのか、死ぬ前に一回くらい会ってみたかったと少し乙女な事も考えながら、目前に迫った最後の時に想いを馳せていた。しかし、彼女はこの時もう少し注意深く周りを見渡しておくべきだったかもしれない、まさにその瞬間に敵の最後の罠が発動しようとしていたのだから、疲れ切り死を望む少女にそこまでの要求をする事は甚だ酷な事とは言えるのだが。



 しばしの休憩の後エンゲルベルトは声を挙げる

「自ら志願してくれた勇士達がいた!彼らが内側から血路を拓いたら我らは一丸となって村内に突入する、目指すはテオドールとかぬかす小僧だ!奴さえおさえれば我らの勝利は確定する、これが最後の戦いだ!皆の力を我に!」

「応!」

 ゲルトラウデは皆に混じり勢いよく応えたが、そうでもしなければおかしくなりそうな精神状態だった『志願?どうせ逃亡するために相談して別ルート探すとか言って逃げ出すんじゃないの?最後の戦い?ここまで戦闘なんて一回もなかったんですけど?こいつらのやってた事なんて私の上で腰振ってただけじゃありませんでしたか?』ストレスもピークに達し心中での毒づきも過激さを増していたが、それとは別に冷静な思考で今後を考えてもいた、どうせ志願した連中は逃亡する、仮に真面目にやったとしても内側から門が開く可能性など絶対にない、無為に時間ばかりが過ぎた後で、また次の策を求められたらどんな策を提示するべきであろうか?そんな事を考えていたが、この予想は大外れに終わった。
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