レイヴン戦記

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人生何が起こるかわかりません

事後処理

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 彼女は非常に働き者だった、掃除、洗濯、水汲みを小柄な体できっちりとこなした、失った指の影響からぎこちない点もあり、いくつかの作業は慣れを必要としたが、それさえ残された指を使い器用にこなしていた。
 居住者が増え少し人手不足を実感してしていただけに彼女の存在はありがたかったが、エレーナ曰く『彼女の存在は人をダメにする』との事だった、半分は冗談だったのだろうが、そのくらい働くため不慣れな3人の仕事がなくなってしまう側面があった。『同じ王族なのにねぇ』と心の中では思ったが、言わぬが花と黙っておいた。
 何を置いても片づけなくてはならなかったのは、今回の戦役に於ける収支計算だった、幸い計算に強い人間は多くいたが、論功行賞に関しては頭の痛い問題であり、出費分の回収など今回の戦役ではほとんど見込めないため、どこまで赤字を抑えられるかに腐心することになりそうだった。



「あのあと何か有益そうな情報は聞き出せた?」

 村の状況視察でルヨとカイを伴いながら歩くテオドールが両名に聞いた、ルヨのぞんざいな言葉ずかいも、身内のみの場では容認されており、視察はわりとのんびりとした雰囲気で行われていた。

「全然だね、やつら没落下層騎士家でそんな重要な情報まるで持っちゃいなそうだったよ、それより聞いてててムカムカするような話ばかりさ、あの娘にいかにスゲー事したか自慢とかさ、大奥様が剣の柄に手をやった気持ちがよく分かるよ、途中で帰ったけど、残っていたら八つ裂きにしてたろうな」

「八つ裂きで済むのならそっちの方が慈悲のある事になりそうだよ」

「え?」

「人間ね、知らない方が幸せなこともあるんだよ・・・」

「怖えなぁ・・・」

 なるべくその事は考えないようにしようと思ったのか、ルヨはカイの方を向き質問を始めた。

「なぁ、レギナント様って戦役で手柄を立てたみたいだけど、どうやって黒字にしてたのよ?よくはわからないんだけど、黒字になる要素ってないように思ったんだよな」

「ふむ、以前の戦役で最も顕著な収入源は『身代金』ですな」

「って、誘拐犯かよ!」

「まぁ当たらずとも遠からずですな」

 ふふっ笑いながらカイが答える、ただ分かりずらいのだろうと補足を開始する。

「敵の騎士、貴族を生け捕りにすると、その縁者、上官などが身代金を払って解放を求めるのです、もし討ち取って殺した場合でも、死体の引き渡しに礼金を払いますからな、高級貴族が多数参加した戦役で、大量の捕虜を捕らえることができれば、一財産築ける形になりますな。まぁ、逆の場合は身代金や礼金をを払わねばならなくなるのですがね」

「あー、だいたい分かった、先代の時は高級貴族、今回は食いッパグレ、身代金とか礼金なんてまったく期待できないってことだな!」

「ご明察です」

「あーあ、くたびれ儲けかよ」

「貴族以外の捕虜等の使い道は奴隷商人に売るくらいですが、今回はそれも厳しいですからなぁ」

「なんで?」

「先代様の時代から奴らをスパイとして使っていたのですよ、利用するだけ利用して、後は奴隷商人に払い下げ、本人達があちこちでしゃべりますと、あまりよろしくないかと」

「なるほどねぇ、それだけが理由じゃなさそうだけど、聞かない事にしとく」

「賢明かと」

 ふふっと笑いながら答えるカイに今度はテオドールが質問する、

「一応聞いておくけど、今回の武器防具は?」

「ガラクタでした」

「だと思ったよ」

 それを聞きルヨが口を挟む。

「死体から武器防具はぎ取るったって、微妙なのしかないんじゃないか?」

「いえいえ、大奥様が今回使用された鎧は元々はエンゲルベルトから奪い取った戦利品ですよ、王太子が使うような逸品ですので、もし買えば、かなりの値段になるかと」

「冗談だよね?」

「真実です、ちなみに奪い取った最大の功労者はあなたのおじい様ですよ」

 吟遊詩人の語る話がどこまで盛られているのか分からないが、この村に伝わる武勇伝はあきらかに盛っているかのような真実がゴロゴロしていた、しかし当事者達の間でもその真実は徐々に風化してきていた、なにしろもう20年以上の歳月が流れ、当時現役だった者の中にはすでに鬼籍に入っている者も多くなってきていたのだから。

 歩いていると村の端の死体を纏めて置いてある近くを通りかかる、夏であったなら腐敗や虫で大変な悪臭を放っていただろうが、まだ春先のこの時期だと、それほど腐敗も進んではいない、それでも150を超える死体の山は決して気持ちのいいものではない、それを一瞥してルヨが言う。

「これどうすんのよ?やだぜ、こいつらの墓穴掘るのなんんて、まさに骨折り損だろ?」

「だよねえ、って言っても獣の餌にして人間の味を覚えさせると厄介だしなぁ、まあ焼くしかないだろ、薪と油の消費考えると頭痛いなあ・・・」

「しかも貧相な奴多いし、あんま燃えなさそうじゃねぇ?」

「カイ、いい方法ないのかな?」

「う~ん、厳しいですなぁ、ちなみに先代様の方法聞きますか?」

 ニヤリと笑い聞いてくるカイであったが、テオドールは即答する。

「いい、その話は知ってる、参考にならないって事を含めてね」

「しかし、ある意味エンゲルベルトって奴もすげぇのかもなぁ、俺がそれやられたら完全に心折られて、二度と関わりたくないと思うだろうに、それでもまた仕掛けて来るってんだからさぁ」

「そうですな、世評は愚者と言っていますが、少なくとも20年前はあそこまでひどくありませんでした『相手が悪すぎた』というのが、最も的確な評価かと」

「英雄と共に戦場を駆ける!ちょっとあこがれるねぇ!」

「これから機会はあるかと」

 チラっとテオドールの事を見ながら言うカイに対して、当のテオドールは即座に否定する、

「いや、村に引きこもって、なるべく中央ともかかわらないようにするから、戦争反対、Love&Peaseだから。」

「先代様も同じ事を言っておられました、本当は隠し子なんじゃないんですか?正直ラファエル様より言動は似ておられます」

 軽く笑いながら話すカイだったが隠し子ではないことは確信していた、しかしラファエルよりもテオドールの方がむしろ似ていると言ったことは本心だった、貴族としての素養を躾けられたラファエルよりも農民として自由にさせていたテオドールの方が才能を開花させやすい環境だったのかもしれない、そんな事も考えていた。そんな事を考えているカイにテオドールが回答する。

「仮にそうだったとしても、製造者は事実を知ってても、作られた方が知るわけないじゃん」

「ごもっともです」

 端的にこのような回答に至る、初代とも二代目とも少し違う、この三代目の感覚を目の当たりにして、三代に渡って仕えられる喜びを密かに噛み締めていた。 
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