31 / 139
人生何が起こるかわかりません
兄妹
しおりを挟む
アルメ村へ到着したオルトヴィーンは、8日程に日程ではあるのだが、最後に立ち寄った村からアルメ村まで3日間、野営をしながらの旅程となり、日数以上の疲労感を感じていた、初めて来たわけでもなく、何度か訪れた事もあるが、来るたびに本当にこんな辺鄙なところに娘をやっていいのだろうか?という疑問が頭をよぎっていたものであった。
レギナントとラファエルが健在ならたいして不安もないが、碌に面識もない男の元へ行く事になり破談にするかどうか、迷いに迷ったものである。結局は本人の悲壮感に満ちた決意に押し負けた形になったが、今もどうなっているのか不安でしょうがなかった。もしまだ暗く沈んだ様子であるなら、無理にでも連れ帰るべきではないだろうか?だいたい村への襲撃があるとの事だが、被害はどのくらい出たのであろうか?娘に怪我などないだろうか?などなど、心配の種はいくつもあり、気がせいている事もあって『やっと辿り着いた』という感想になったのであるが、結果は驚愕をもって迎えられた。
「ようこそいらっしゃいました」
村の入り口には出迎えのテオドールとヒルデガルドが2名の侍女を引き連れ、待機していた。返礼のため馬車を降りようとすると、ヒルデガルドが声を発した。
「あれ?お兄様もいらしたの?」
その声を受け、テオドールは彼女の視線の先にいる人物を見ると、立派な馬に跨った、美丈夫という言葉がふさわしい人物がそこにはいた、正直な感想としてテオドールは、ヒルデガルドの事を美しいと感じていた、オルトヴィーンもいかにも洗練された貴族としての佇まいを持つ美丈夫と思っていた、そしてこの兄も涼やかな風貌を持つ美男子であった『こういうのをずっと見てれば、自分を見て拒否したくもなるよなあ・・・ってかラファエロだって、こいつに比べりゃ並でしかないよなぁ』そんな事を考えていると、その人物は優雅な身のこなしで馬を降り、礼をもって話し始めた。
「お初にお目にかかります、オルトヴィーン・フォン・メルボルトが一子、フリートヘルム・フォン・メルボルトと申します、どうぞお見知りおきを」
優雅な動作、涼やかな声、劣等感をはっきりと感じさせる相手に、少し噛みながら返礼を行う。
「ようこそいらしてくださいました、この村を治める、テオドール・フォン・キルマイヤーと申します、どうぞお見知りおきを」
「では続きは館でしよう、ヒルデガルドともゆっくり話がしたいしな」
オルトヴィーンの言葉で屋敷へと向かう事となったが、この時テオドールは微妙な不快感を感じていた、それはフリートヘルムの目が最初に会った頃のヒルデガルドと非常によく似ていたからである、劣等感がそう思わせるのかもしれないが、どうしても不快な気分はぬぐえなかった。
家族水入らずで、との配慮からあてがわれた一室では険悪な空気が漂っていた、温度差が違いすぎていたのだ、特に兄妹の温度差は顕著であった。
「君は貴族令嬢としての嗜みをどう思っているんだ?」
「ここでは、それでいいって話なんだからいいじゃない!だいたい、ここの当主のテオドールがいいって言ってんだから!」
「そんな嗜みのない態度では愛想をつかされるのが関の山だ」
「お生憎様、良好な関係を築けています」
「今だけだろう、飽きられたらそれまでだ」
「ふん!グレーティアさんもかわいそうよね、こんな、女を産む道具ぐらいにしか思わない男が相手で」
反論しようとする、フルートヘルムを制するようにオルトヴィーンが割って入る。
「もう、よさんか!両者とも言葉が過ぎる!」
二人が機嫌悪そうに黙ると、オルトヴィーンは両者に語り掛けるように話し始めた。
「しかし、上手く行っているようなら安心した、昔からこちらに来ては変な悪影響を受けて心配していたが、幸せにやっていられるならそれに越したことはない」
「しかし、父上」
「お前は知らんのだ、先代レギナントもかなり自由な男だったぞ、ラファエルに関しては一応貴族的な教養も必要であろうと、幼い頃から我が家に長く滞在していた影響もあったのかもしれんな」
「ラファエルの方がはるかにマシ・・・」
「その話はやめて!」
ヒルデガルドの激しい剣幕に黙ってしまった、フリートヘルムも、この話題は不謹慎であったと反省して素直に謝意をしめした。
「いや、すまなかった、軽率であった」
その話題によって娘の古傷を抉りたくないオルトヴィーンとしては、話題変更を試みてみた。
「そういえば、完全勝利としか聞いていないが、どんな感じだったのかな?」
「ん?討ち取ったのが180くらい、捕虜が20くらい、味方死傷者0、だったはず、詳しくは後で聞いたら?」
「ふん、冗談ならもう少しマシな物を言え、いくらなんでも現実味のない数字を出すな」
笑いながらフリートヘルムが横から口を出す、しかしオルトヴィーンの顔に笑顔はない、満面の笑顔でヒルデガルドは答える。
「でしょ!冗談みたいな数字よね!事実なのよね、これが!」
「くどいぞ」
「いや、事実なのだろう・・・」
「父上?」
「お前をここに連れて来た理由は正にそれなのだよ、せっかく生きた戦場がほんの少し前に発生したのだ、戦術、実戦について、実地に近いところで感じ取って欲しかったのだ。そして実感してほしかったんだ、キルマイヤーの家とは事を構える事なく、良好な関係維持がいかに重要課題であるかをな」
彼がこの時点でどこまで理解していたかは定かではない、本当の意味で理解するのはまだまだ先になるのだが、少なくともこの時点におけるフリートヘルムのテオドールへの評価は田舎領主以外の何者でもなかった。
レギナントとラファエルが健在ならたいして不安もないが、碌に面識もない男の元へ行く事になり破談にするかどうか、迷いに迷ったものである。結局は本人の悲壮感に満ちた決意に押し負けた形になったが、今もどうなっているのか不安でしょうがなかった。もしまだ暗く沈んだ様子であるなら、無理にでも連れ帰るべきではないだろうか?だいたい村への襲撃があるとの事だが、被害はどのくらい出たのであろうか?娘に怪我などないだろうか?などなど、心配の種はいくつもあり、気がせいている事もあって『やっと辿り着いた』という感想になったのであるが、結果は驚愕をもって迎えられた。
「ようこそいらっしゃいました」
村の入り口には出迎えのテオドールとヒルデガルドが2名の侍女を引き連れ、待機していた。返礼のため馬車を降りようとすると、ヒルデガルドが声を発した。
「あれ?お兄様もいらしたの?」
その声を受け、テオドールは彼女の視線の先にいる人物を見ると、立派な馬に跨った、美丈夫という言葉がふさわしい人物がそこにはいた、正直な感想としてテオドールは、ヒルデガルドの事を美しいと感じていた、オルトヴィーンもいかにも洗練された貴族としての佇まいを持つ美丈夫と思っていた、そしてこの兄も涼やかな風貌を持つ美男子であった『こういうのをずっと見てれば、自分を見て拒否したくもなるよなあ・・・ってかラファエロだって、こいつに比べりゃ並でしかないよなぁ』そんな事を考えていると、その人物は優雅な身のこなしで馬を降り、礼をもって話し始めた。
「お初にお目にかかります、オルトヴィーン・フォン・メルボルトが一子、フリートヘルム・フォン・メルボルトと申します、どうぞお見知りおきを」
優雅な動作、涼やかな声、劣等感をはっきりと感じさせる相手に、少し噛みながら返礼を行う。
「ようこそいらしてくださいました、この村を治める、テオドール・フォン・キルマイヤーと申します、どうぞお見知りおきを」
「では続きは館でしよう、ヒルデガルドともゆっくり話がしたいしな」
オルトヴィーンの言葉で屋敷へと向かう事となったが、この時テオドールは微妙な不快感を感じていた、それはフリートヘルムの目が最初に会った頃のヒルデガルドと非常によく似ていたからである、劣等感がそう思わせるのかもしれないが、どうしても不快な気分はぬぐえなかった。
家族水入らずで、との配慮からあてがわれた一室では険悪な空気が漂っていた、温度差が違いすぎていたのだ、特に兄妹の温度差は顕著であった。
「君は貴族令嬢としての嗜みをどう思っているんだ?」
「ここでは、それでいいって話なんだからいいじゃない!だいたい、ここの当主のテオドールがいいって言ってんだから!」
「そんな嗜みのない態度では愛想をつかされるのが関の山だ」
「お生憎様、良好な関係を築けています」
「今だけだろう、飽きられたらそれまでだ」
「ふん!グレーティアさんもかわいそうよね、こんな、女を産む道具ぐらいにしか思わない男が相手で」
反論しようとする、フルートヘルムを制するようにオルトヴィーンが割って入る。
「もう、よさんか!両者とも言葉が過ぎる!」
二人が機嫌悪そうに黙ると、オルトヴィーンは両者に語り掛けるように話し始めた。
「しかし、上手く行っているようなら安心した、昔からこちらに来ては変な悪影響を受けて心配していたが、幸せにやっていられるならそれに越したことはない」
「しかし、父上」
「お前は知らんのだ、先代レギナントもかなり自由な男だったぞ、ラファエルに関しては一応貴族的な教養も必要であろうと、幼い頃から我が家に長く滞在していた影響もあったのかもしれんな」
「ラファエルの方がはるかにマシ・・・」
「その話はやめて!」
ヒルデガルドの激しい剣幕に黙ってしまった、フリートヘルムも、この話題は不謹慎であったと反省して素直に謝意をしめした。
「いや、すまなかった、軽率であった」
その話題によって娘の古傷を抉りたくないオルトヴィーンとしては、話題変更を試みてみた。
「そういえば、完全勝利としか聞いていないが、どんな感じだったのかな?」
「ん?討ち取ったのが180くらい、捕虜が20くらい、味方死傷者0、だったはず、詳しくは後で聞いたら?」
「ふん、冗談ならもう少しマシな物を言え、いくらなんでも現実味のない数字を出すな」
笑いながらフリートヘルムが横から口を出す、しかしオルトヴィーンの顔に笑顔はない、満面の笑顔でヒルデガルドは答える。
「でしょ!冗談みたいな数字よね!事実なのよね、これが!」
「くどいぞ」
「いや、事実なのだろう・・・」
「父上?」
「お前をここに連れて来た理由は正にそれなのだよ、せっかく生きた戦場がほんの少し前に発生したのだ、戦術、実戦について、実地に近いところで感じ取って欲しかったのだ。そして実感してほしかったんだ、キルマイヤーの家とは事を構える事なく、良好な関係維持がいかに重要課題であるかをな」
彼がこの時点でどこまで理解していたかは定かではない、本当の意味で理解するのはまだまだ先になるのだが、少なくともこの時点におけるフリートヘルムのテオドールへの評価は田舎領主以外の何者でもなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる