レイヴン戦記

一弧

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鴉の旗

封鎖突破

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 森の入り口の陣幕の中では、簡易型のテーブルの上に地図が置かれ森林突破のための軍議が開かれていた。
 オルトヴィーンが意見を促す。

「婿殿、作戦を」

「はっ!敵は森の中の街道を封鎖しブラゼ村への経路を断っております、しかし今村はほぼもぬけの殻であると予想でき、封鎖地点においても守備兵は中央に10、左右に5づつ、程度であり、正面から力押しで十分突破可能であると思われます」

 もし、その予想が当たっており、その程度の人数での封鎖であれば対応は可能であろう、しかしそれを裏付ける理由の提示がない事が多くの者を不安にしていた。

「レイヴン卿、できれば根拠や理由を示していただきたい」

 軍議に参加していた一人が声を挙げると、他の参加者も無言で同意を示した。

「この地を死守する理由に乏しいにもかかわらず、交渉を行おうとせず静観の構えを持つ敵に対し、真の狙いは別の場所であるのでは?という考えに基づいたもので、確たる根拠はありません」

 根拠はないと言い切るテオドールに対し苦笑が洩れ抗議の声を挙げようとする者も出始めそうな雰囲気を察し続ける。

「もし、仮に予想が外れていた場合でも、早期にブラゼ村包囲まで持ち込こめば交渉を有利に運ぶ事も可能かと愚考したしだいであります」

 そこまで一気に言うと多くの参加者達は「ふむ」とうなずき、ある程度の納得をした態度となった、若干腑に落ちない態度の者もいるが、それ以上にはっきりと優れた献策ができるわけでもなく、重歩兵を前面に置いての力押し、弓での援護をしつつ左右の伏兵へは軽装歩兵をぶつけて対応、という戦術に落ち着いた。
 軍が進軍を始めると、中陣としてオルトヴィーンと行軍を共にした、側にはしっかりと騎乗したヒルデガルドもついていたが、それ以外の人物は距離をとっており3人でゆっくりと話せる状況となった。

「実際どの程度自信はあるのかね?」

 オルトヴィーンが質問したが、外れていたとしても、自分でも全く読めない敵の行動なので、責める気はさらさらなかった。

「五分五分といったところでしょうか?反撃が予想よりきつそうであっても、押し切るべきではあると思います、人質の奪還のためにも村を最低限包囲しませんと話にならないと思いますので」

「そうだな」

 オルトヴィーンとしても最大の懸念材料は人質の奪還にあった、大事な跡取りと期待を寄せていただけにここで死なれるのは考えたくもない事であった。

「交渉はどうするのがよいだろうか?参考までに考えを聞かせてくれないかな?」

 細かな交渉に向いているタイプではないと思っていたが、気を紛らわ目的もあって聞いてみたが、聞かれた方も細かくはわからないため、楽観的な意見を言うにとどめた。

「包囲してしまえば、安全保障と少額の金銭で何とかなるのではないかと、敵も命は惜しいでしょうから」

「だといいがな」

 重くなりがちな気分を紛らわすかのように、キョロキョロと周りを見回していたヒルデガルドが二人に話しかけてきた。

「そんなに広くない街道で周りは森だけど、こういうとこで奇襲とか受けたらまずいんじゃないの?」

 正論ではあるが、その心配がほとんどないことが分かっている二人だったので、慌てる事無く回答を始めた。

「街道沿いの森林の中を警護をかねてかなりの数の軽装歩兵が進んでいるんだよ、よく目をこらせば見えてくると思う、その警戒網に引っ掛かればここに来る前に大騒ぎになって、奇襲とは行かなくなるね」

 その説明を聞くと、森の中を並行して進む兵の一団を見つけ感心したように言う、

「まぁ私が思いつくくらいの事はちゃんと対策練ってあるのね、それにしても対策済みにもかかわらず奇襲を成功させまくったレギナント様ってすごかったのね」

 娘の率直な感想だったのだが、オルトヴィーンとしては、もし敵がレギナントであったならばと考え、少し背筋に冷たい物を感じ、率直に感想を述べた。

「敵があいつだと思うとゾっとするな、予期せぬ所で奇襲してきそうでな、味方であってよかったと心底思うよ」

 少し買い被りも入っているのではないだろうか?などと考えていると、前方から伝令兵がやって来た。

「先鋒、封鎖地点で接敵!一蹴し封鎖を突破したそうです!」

「おお!」

 戦闘開始の伝令が来るまでもなく戦闘終了の伝令が来るところを見ると、まさに一蹴、防衛の為の兵は少数であった事がうかがえ、予想が当たっていたという喜びと、村が襲撃を受けている可能性がより高まったという不安とが入り混じったなんとも言えない感情に浸っていると、オルトヴィーンが声を掛けてきた。

「予想が当たったようだな、検分と慰労で前に出る、一緒に来たまえ」

 促され、戦闘が行われた地点まで行くと、戦闘を行った一団が誇らしげに賞賛の言葉を待っているところであった。
 オルトヴィーンから労いと賞賛を受けている彼らを尻目にテオドールは予想外のものに目を奪われていた、その様子に気づいてヒルデガルドが彼に尋ねる。

「どうしたの?何か気になることでも?」

 考えがまとまらず、混乱した頭でかろうじて答えた。

「なんで老人なんだ・・・」

 その場で討ち取られた防衛の兵士達は皆老人であったのだ、それは彼の予想を大きく裏切るものであった。
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