51 / 139
鴉の旗
封鎖突破
しおりを挟む
森の入り口の陣幕の中では、簡易型のテーブルの上に地図が置かれ森林突破のための軍議が開かれていた。
オルトヴィーンが意見を促す。
「婿殿、作戦を」
「はっ!敵は森の中の街道を封鎖しブラゼ村への経路を断っております、しかし今村はほぼもぬけの殻であると予想でき、封鎖地点においても守備兵は中央に10、左右に5づつ、程度であり、正面から力押しで十分突破可能であると思われます」
もし、その予想が当たっており、その程度の人数での封鎖であれば対応は可能であろう、しかしそれを裏付ける理由の提示がない事が多くの者を不安にしていた。
「レイヴン卿、できれば根拠や理由を示していただきたい」
軍議に参加していた一人が声を挙げると、他の参加者も無言で同意を示した。
「この地を死守する理由に乏しいにもかかわらず、交渉を行おうとせず静観の構えを持つ敵に対し、真の狙いは別の場所であるのでは?という考えに基づいたもので、確たる根拠はありません」
根拠はないと言い切るテオドールに対し苦笑が洩れ抗議の声を挙げようとする者も出始めそうな雰囲気を察し続ける。
「もし、仮に予想が外れていた場合でも、早期にブラゼ村包囲まで持ち込こめば交渉を有利に運ぶ事も可能かと愚考したしだいであります」
そこまで一気に言うと多くの参加者達は「ふむ」とうなずき、ある程度の納得をした態度となった、若干腑に落ちない態度の者もいるが、それ以上にはっきりと優れた献策ができるわけでもなく、重歩兵を前面に置いての力押し、弓での援護をしつつ左右の伏兵へは軽装歩兵をぶつけて対応、という戦術に落ち着いた。
軍が進軍を始めると、中陣としてオルトヴィーンと行軍を共にした、側にはしっかりと騎乗したヒルデガルドもついていたが、それ以外の人物は距離をとっており3人でゆっくりと話せる状況となった。
「実際どの程度自信はあるのかね?」
オルトヴィーンが質問したが、外れていたとしても、自分でも全く読めない敵の行動なので、責める気はさらさらなかった。
「五分五分といったところでしょうか?反撃が予想よりきつそうであっても、押し切るべきではあると思います、人質の奪還のためにも村を最低限包囲しませんと話にならないと思いますので」
「そうだな」
オルトヴィーンとしても最大の懸念材料は人質の奪還にあった、大事な跡取りと期待を寄せていただけにここで死なれるのは考えたくもない事であった。
「交渉はどうするのがよいだろうか?参考までに考えを聞かせてくれないかな?」
細かな交渉に向いているタイプではないと思っていたが、気を紛らわ目的もあって聞いてみたが、聞かれた方も細かくはわからないため、楽観的な意見を言うにとどめた。
「包囲してしまえば、安全保障と少額の金銭で何とかなるのではないかと、敵も命は惜しいでしょうから」
「だといいがな」
重くなりがちな気分を紛らわすかのように、キョロキョロと周りを見回していたヒルデガルドが二人に話しかけてきた。
「そんなに広くない街道で周りは森だけど、こういうとこで奇襲とか受けたらまずいんじゃないの?」
正論ではあるが、その心配がほとんどないことが分かっている二人だったので、慌てる事無く回答を始めた。
「街道沿いの森林の中を警護をかねてかなりの数の軽装歩兵が進んでいるんだよ、よく目をこらせば見えてくると思う、その警戒網に引っ掛かればここに来る前に大騒ぎになって、奇襲とは行かなくなるね」
その説明を聞くと、森の中を並行して進む兵の一団を見つけ感心したように言う、
「まぁ私が思いつくくらいの事はちゃんと対策練ってあるのね、それにしても対策済みにもかかわらず奇襲を成功させまくったレギナント様ってすごかったのね」
娘の率直な感想だったのだが、オルトヴィーンとしては、もし敵がレギナントであったならばと考え、少し背筋に冷たい物を感じ、率直に感想を述べた。
「敵があいつだと思うとゾっとするな、予期せぬ所で奇襲してきそうでな、味方であってよかったと心底思うよ」
少し買い被りも入っているのではないだろうか?などと考えていると、前方から伝令兵がやって来た。
「先鋒、封鎖地点で接敵!一蹴し封鎖を突破したそうです!」
「おお!」
戦闘開始の伝令が来るまでもなく戦闘終了の伝令が来るところを見ると、まさに一蹴、防衛の為の兵は少数であった事がうかがえ、予想が当たっていたという喜びと、村が襲撃を受けている可能性がより高まったという不安とが入り混じったなんとも言えない感情に浸っていると、オルトヴィーンが声を掛けてきた。
「予想が当たったようだな、検分と慰労で前に出る、一緒に来たまえ」
促され、戦闘が行われた地点まで行くと、戦闘を行った一団が誇らしげに賞賛の言葉を待っているところであった。
オルトヴィーンから労いと賞賛を受けている彼らを尻目にテオドールは予想外のものに目を奪われていた、その様子に気づいてヒルデガルドが彼に尋ねる。
「どうしたの?何か気になることでも?」
考えがまとまらず、混乱した頭でかろうじて答えた。
「なんで老人なんだ・・・」
その場で討ち取られた防衛の兵士達は皆老人であったのだ、それは彼の予想を大きく裏切るものであった。
オルトヴィーンが意見を促す。
「婿殿、作戦を」
「はっ!敵は森の中の街道を封鎖しブラゼ村への経路を断っております、しかし今村はほぼもぬけの殻であると予想でき、封鎖地点においても守備兵は中央に10、左右に5づつ、程度であり、正面から力押しで十分突破可能であると思われます」
もし、その予想が当たっており、その程度の人数での封鎖であれば対応は可能であろう、しかしそれを裏付ける理由の提示がない事が多くの者を不安にしていた。
「レイヴン卿、できれば根拠や理由を示していただきたい」
軍議に参加していた一人が声を挙げると、他の参加者も無言で同意を示した。
「この地を死守する理由に乏しいにもかかわらず、交渉を行おうとせず静観の構えを持つ敵に対し、真の狙いは別の場所であるのでは?という考えに基づいたもので、確たる根拠はありません」
根拠はないと言い切るテオドールに対し苦笑が洩れ抗議の声を挙げようとする者も出始めそうな雰囲気を察し続ける。
「もし、仮に予想が外れていた場合でも、早期にブラゼ村包囲まで持ち込こめば交渉を有利に運ぶ事も可能かと愚考したしだいであります」
そこまで一気に言うと多くの参加者達は「ふむ」とうなずき、ある程度の納得をした態度となった、若干腑に落ちない態度の者もいるが、それ以上にはっきりと優れた献策ができるわけでもなく、重歩兵を前面に置いての力押し、弓での援護をしつつ左右の伏兵へは軽装歩兵をぶつけて対応、という戦術に落ち着いた。
軍が進軍を始めると、中陣としてオルトヴィーンと行軍を共にした、側にはしっかりと騎乗したヒルデガルドもついていたが、それ以外の人物は距離をとっており3人でゆっくりと話せる状況となった。
「実際どの程度自信はあるのかね?」
オルトヴィーンが質問したが、外れていたとしても、自分でも全く読めない敵の行動なので、責める気はさらさらなかった。
「五分五分といったところでしょうか?反撃が予想よりきつそうであっても、押し切るべきではあると思います、人質の奪還のためにも村を最低限包囲しませんと話にならないと思いますので」
「そうだな」
オルトヴィーンとしても最大の懸念材料は人質の奪還にあった、大事な跡取りと期待を寄せていただけにここで死なれるのは考えたくもない事であった。
「交渉はどうするのがよいだろうか?参考までに考えを聞かせてくれないかな?」
細かな交渉に向いているタイプではないと思っていたが、気を紛らわ目的もあって聞いてみたが、聞かれた方も細かくはわからないため、楽観的な意見を言うにとどめた。
「包囲してしまえば、安全保障と少額の金銭で何とかなるのではないかと、敵も命は惜しいでしょうから」
「だといいがな」
重くなりがちな気分を紛らわすかのように、キョロキョロと周りを見回していたヒルデガルドが二人に話しかけてきた。
「そんなに広くない街道で周りは森だけど、こういうとこで奇襲とか受けたらまずいんじゃないの?」
正論ではあるが、その心配がほとんどないことが分かっている二人だったので、慌てる事無く回答を始めた。
「街道沿いの森林の中を警護をかねてかなりの数の軽装歩兵が進んでいるんだよ、よく目をこらせば見えてくると思う、その警戒網に引っ掛かればここに来る前に大騒ぎになって、奇襲とは行かなくなるね」
その説明を聞くと、森の中を並行して進む兵の一団を見つけ感心したように言う、
「まぁ私が思いつくくらいの事はちゃんと対策練ってあるのね、それにしても対策済みにもかかわらず奇襲を成功させまくったレギナント様ってすごかったのね」
娘の率直な感想だったのだが、オルトヴィーンとしては、もし敵がレギナントであったならばと考え、少し背筋に冷たい物を感じ、率直に感想を述べた。
「敵があいつだと思うとゾっとするな、予期せぬ所で奇襲してきそうでな、味方であってよかったと心底思うよ」
少し買い被りも入っているのではないだろうか?などと考えていると、前方から伝令兵がやって来た。
「先鋒、封鎖地点で接敵!一蹴し封鎖を突破したそうです!」
「おお!」
戦闘開始の伝令が来るまでもなく戦闘終了の伝令が来るところを見ると、まさに一蹴、防衛の為の兵は少数であった事がうかがえ、予想が当たっていたという喜びと、村が襲撃を受けている可能性がより高まったという不安とが入り混じったなんとも言えない感情に浸っていると、オルトヴィーンが声を掛けてきた。
「予想が当たったようだな、検分と慰労で前に出る、一緒に来たまえ」
促され、戦闘が行われた地点まで行くと、戦闘を行った一団が誇らしげに賞賛の言葉を待っているところであった。
オルトヴィーンから労いと賞賛を受けている彼らを尻目にテオドールは予想外のものに目を奪われていた、その様子に気づいてヒルデガルドが彼に尋ねる。
「どうしたの?何か気になることでも?」
考えがまとまらず、混乱した頭でかろうじて答えた。
「なんで老人なんだ・・・」
その場で討ち取られた防衛の兵士達は皆老人であったのだ、それは彼の予想を大きく裏切るものであった。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【草】の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!
雪奈 水無月
ファンタジー
山と愛犬を愛する三十二歳サラリーマン・山神慎太郎。
愛犬を庇って命を落とした彼は、女神の手によって異世界へ転生する。
――ただし、十五歳の少女・ネムとして。
授けられた能力は【草限定の錬金術】。
使える素材は草のみ。
しかしその草は、回復薬にも、武器にも、時には常識外れの奇跡を生み出す。
新しい身体に戸惑いながらも、
「生きていること」そのものを大切にするネムは、静かに世界を歩き始める。
弱そう? 地味?
いいえ――草は世界に最も溢れる“最強素材”。
草を極めた少女が、やがて世界の常識を塗り替える。
最弱素材から始まる、成り上がり異世界ファンタジー!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる