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新世代
歌姫の廃業
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箝口令の元、開戦の通達が出された、同行した村人達は全員実戦経験がないという事もあり色めき立っていた。
フリーダも逗留終了とともにお役御免が言い渡され十分すぎるほどの報酬が渡された。懐がかなり温かくなったことだし、しばらくは王都に滞在しながら次はどこに行こうか考えていた。今回のような極めていい話など滅多にないだけに、またしょぼい稼ぎかと思うと微妙に憂鬱にもなっていた。
そんな事を考え寝室として割り振られていた部屋から出て行ことしたとき、部屋の扉が開き、ラルスが入って来た。
入って来たラルスは前置きなしに強い調子で詰め寄って来た。
「まだ、答えを聞いてないだろう!」
「言ったよ、熱に浮かされてるだけだろう?って」
彼女は素っ気なく答える、伯爵邸に滞在するうちに彼女から誘うような形で二人は深い仲になっていた、元々貴族の屋敷に招かれ逗留することになる場合、ほとんどのケースで伽の相手を要求された、彼女もそういうものだろうと割り切ってはいたが、どうせ相手をするのであれば相手に喜ばれ報酬額に色を付けてもらった方がいい、そんな考え方から、なるべく情熱的に接するよう心掛け、邸宅に招かれた時から自らのテンションを上げるように心掛けてきていた、しかし今回のケースではまったくお呼びがかからず、張り切って上げに上げたテンションを持て余していた節すらあった。
身体の火照りや疼きを鎮めるために誰か適当な相手はいないだろうか?そんな時に目についたのがラルスだった、元々こんないい話に恵まれたきっかけはラルスにあったのだからそのお礼を兼ねて、と自分に言い訳をしながら与えられた自分の部屋に誘うと、簡単に篭絡する事が出来た、女を知らないラルスは夢中になったが、彼女は自分がどんな人間なのかを知っていた、一時熱を上げたとしてもそんなものは熱に浮かれた戯言でしかない事を似た境遇の女達が辿った末路から知っていた。
「だいたいねぇ、私達みたいな芸人が芸だけ売って生きていけないことくらい知ってるだろ?」
その事は彼も知っていた、全く気にならないといったら嘘になるが、それでも彼女に側にいて欲しいという思いが優先された、もしかしたら浮かれただけの気の迷いかもしれない、そんな事も考えたが、それでも彼はさらに押した。
「俺だって、女の10人や20人知ってんだから似たようなもんさ」
彼女から苦笑いが洩れる、絶対に嘘であろう事が一瞬で分かった、そんなことは一回寝てみればすぐわかる、ぎこちなく、それでいて壊れ物のように気を遣うその態度は偉そうな貴族にはないもので非常に好感が持てた、しかし経験のなさは顕著で仮に経験があったとしてもせいぜい安い商売女を数回買った程度であろうことが容易に想像できた、しかも10人や20人といったが自分の上を通り過ぎて行った男はその10倍くらいいる。そんな事を考えてしまったが、さすがにそれは言えなかった。
言った彼にしても、すぐ分かるバレバレの嘘である事は勢いで言ってから気付き照れくさそうにしていた。
「だいたいね、あたしみたいなのをあんたの親だって好ましいと思わないよ、もうちょっと冷静におなりよ」
彼にも実際にどのような反応を示すのかは予想がつかなかった、ただし反対されてもなんとか説得しようという思いはあった。
「だいじょうぶ、うちの村はフリーダムだから、ご領主様を見れば分かるだろ?」
苦し紛れの言い訳だったが、これが功を奏した、あの領主を見た後だと、何も言えなくなっていた、見た目は貧相でどうみても名君には見えなかったが、実情を知れば名君としか思えない逸話ばかりである、それでいて下僕のような格好で街を出歩くその姿勢はフリーダムとしか言えなった。
彼女も彼の事は嫌いではなかった、いくら火照った身体を鎮めるためとはいえ、嫌いな男など願い下げである、それにもし途中で気に喰わないと感じたら、二夜目以降は部屋に入れる事をしなかっただろう、最初に誘った日から毎日尋ねてくる彼をかわいいと思いながら受け入れたのはやはり好意からであった。
そんな事を考えていると、オズオズと彼は小さなケースを差し出してきた、彼女は内心喜びもあったが若干ベタな事をする、と醒めた思いで見てもいたが、そのケースをよく見ると少し顔色を変え、受け取って中を確かめてみた、中に入っていたネックレスを見るとさらに顔色を変え尋ねた。
「あんた、これいくらした?」
青空市場で売っているようなものではなく、きちんとした店で買ったであろう事がケースの刻印から見て取れた、自分でもそんな店で買うことなど絶対にないような店である。
「銀貨10枚」
彼女はその言葉を聞き呆然としてしまった、普通の農夫が数年がかりで稼ぐ金額である、しかも彼女の憶測が正しければ、値切った上でその値段である。
「ちょっとそこに座ってきちんと事情を説明して!」
彼は少し言いずらそうに説明を始めた。
最初、彼女への求婚のアドバイスをイゾルデに求めたところ、彼女は『未婚の私に対しての嫌味か?』と言ってイヤな顔をしたが、ユリアーヌスとヒルデガルドとゲルトラウデが面白がって協力して、貴族なども利用する高価な宝飾店に品物を持って来させた、比較的安い物の値段でさえ完全な予算オーバーだったが、ご祝儀だと言って、銀貨7枚は女性陣が出してくれたものだった、しかもそれさえ伯爵家との今後の取引を臭わせて大幅に値引きさせたくらいであった。
「ちょっと来なさい!」
話をすべて聞くと、ラルスの手を曳き急ぎ足でヒルデガルドの私室へと向かった、ノックして許可の元中に入ると平伏して言葉を発しようとした瞬間に、機先を制するようにユリアーヌスが声を掛けてきた。
「あら?上手くいったの?よかったじゃない、お嫁さんを大切にしなさいよ」
『断れねえよ!』彼女はこの状況になって完全に外堀を埋められた状態である事に気付いた、そして小さくため息をつくと、「今後村民としてよろしくお願いします」と歌姫廃業の宣言を行った。
フリーダも逗留終了とともにお役御免が言い渡され十分すぎるほどの報酬が渡された。懐がかなり温かくなったことだし、しばらくは王都に滞在しながら次はどこに行こうか考えていた。今回のような極めていい話など滅多にないだけに、またしょぼい稼ぎかと思うと微妙に憂鬱にもなっていた。
そんな事を考え寝室として割り振られていた部屋から出て行ことしたとき、部屋の扉が開き、ラルスが入って来た。
入って来たラルスは前置きなしに強い調子で詰め寄って来た。
「まだ、答えを聞いてないだろう!」
「言ったよ、熱に浮かされてるだけだろう?って」
彼女は素っ気なく答える、伯爵邸に滞在するうちに彼女から誘うような形で二人は深い仲になっていた、元々貴族の屋敷に招かれ逗留することになる場合、ほとんどのケースで伽の相手を要求された、彼女もそういうものだろうと割り切ってはいたが、どうせ相手をするのであれば相手に喜ばれ報酬額に色を付けてもらった方がいい、そんな考え方から、なるべく情熱的に接するよう心掛け、邸宅に招かれた時から自らのテンションを上げるように心掛けてきていた、しかし今回のケースではまったくお呼びがかからず、張り切って上げに上げたテンションを持て余していた節すらあった。
身体の火照りや疼きを鎮めるために誰か適当な相手はいないだろうか?そんな時に目についたのがラルスだった、元々こんないい話に恵まれたきっかけはラルスにあったのだからそのお礼を兼ねて、と自分に言い訳をしながら与えられた自分の部屋に誘うと、簡単に篭絡する事が出来た、女を知らないラルスは夢中になったが、彼女は自分がどんな人間なのかを知っていた、一時熱を上げたとしてもそんなものは熱に浮かれた戯言でしかない事を似た境遇の女達が辿った末路から知っていた。
「だいたいねぇ、私達みたいな芸人が芸だけ売って生きていけないことくらい知ってるだろ?」
その事は彼も知っていた、全く気にならないといったら嘘になるが、それでも彼女に側にいて欲しいという思いが優先された、もしかしたら浮かれただけの気の迷いかもしれない、そんな事も考えたが、それでも彼はさらに押した。
「俺だって、女の10人や20人知ってんだから似たようなもんさ」
彼女から苦笑いが洩れる、絶対に嘘であろう事が一瞬で分かった、そんなことは一回寝てみればすぐわかる、ぎこちなく、それでいて壊れ物のように気を遣うその態度は偉そうな貴族にはないもので非常に好感が持てた、しかし経験のなさは顕著で仮に経験があったとしてもせいぜい安い商売女を数回買った程度であろうことが容易に想像できた、しかも10人や20人といったが自分の上を通り過ぎて行った男はその10倍くらいいる。そんな事を考えてしまったが、さすがにそれは言えなかった。
言った彼にしても、すぐ分かるバレバレの嘘である事は勢いで言ってから気付き照れくさそうにしていた。
「だいたいね、あたしみたいなのをあんたの親だって好ましいと思わないよ、もうちょっと冷静におなりよ」
彼にも実際にどのような反応を示すのかは予想がつかなかった、ただし反対されてもなんとか説得しようという思いはあった。
「だいじょうぶ、うちの村はフリーダムだから、ご領主様を見れば分かるだろ?」
苦し紛れの言い訳だったが、これが功を奏した、あの領主を見た後だと、何も言えなくなっていた、見た目は貧相でどうみても名君には見えなかったが、実情を知れば名君としか思えない逸話ばかりである、それでいて下僕のような格好で街を出歩くその姿勢はフリーダムとしか言えなった。
彼女も彼の事は嫌いではなかった、いくら火照った身体を鎮めるためとはいえ、嫌いな男など願い下げである、それにもし途中で気に喰わないと感じたら、二夜目以降は部屋に入れる事をしなかっただろう、最初に誘った日から毎日尋ねてくる彼をかわいいと思いながら受け入れたのはやはり好意からであった。
そんな事を考えていると、オズオズと彼は小さなケースを差し出してきた、彼女は内心喜びもあったが若干ベタな事をする、と醒めた思いで見てもいたが、そのケースをよく見ると少し顔色を変え、受け取って中を確かめてみた、中に入っていたネックレスを見るとさらに顔色を変え尋ねた。
「あんた、これいくらした?」
青空市場で売っているようなものではなく、きちんとした店で買ったであろう事がケースの刻印から見て取れた、自分でもそんな店で買うことなど絶対にないような店である。
「銀貨10枚」
彼女はその言葉を聞き呆然としてしまった、普通の農夫が数年がかりで稼ぐ金額である、しかも彼女の憶測が正しければ、値切った上でその値段である。
「ちょっとそこに座ってきちんと事情を説明して!」
彼は少し言いずらそうに説明を始めた。
最初、彼女への求婚のアドバイスをイゾルデに求めたところ、彼女は『未婚の私に対しての嫌味か?』と言ってイヤな顔をしたが、ユリアーヌスとヒルデガルドとゲルトラウデが面白がって協力して、貴族なども利用する高価な宝飾店に品物を持って来させた、比較的安い物の値段でさえ完全な予算オーバーだったが、ご祝儀だと言って、銀貨7枚は女性陣が出してくれたものだった、しかもそれさえ伯爵家との今後の取引を臭わせて大幅に値引きさせたくらいであった。
「ちょっと来なさい!」
話をすべて聞くと、ラルスの手を曳き急ぎ足でヒルデガルドの私室へと向かった、ノックして許可の元中に入ると平伏して言葉を発しようとした瞬間に、機先を制するようにユリアーヌスが声を掛けてきた。
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